第3話:王の命令!
おはようございます。牢屋です。現状変わらずです。
・・・いや、現状は変わっています。
「あっははははははおっかしいぃいい!」
笑い声の主はドロシーだ。牢屋の中は俺と彼女しかいないし、当然だ。
で、なにやってるかと言えば・・・
コタツでお笑い番組を観ていた・・・。
ことの顛末はこうだ。
相も変わらずドロシーは、ずっと出せ出せと騒いでいた。
そのあまりの騒がしさに、とある看守が言ったのだ。
ある程度の要望はかなえてやる、と。
しかしドロシーはそんなの知らぬと騒ぎを続行した。
そこで俺が、何か気を逸らしたりできれば・・・と頼んでみた。
俺の部屋からコタツと携帯を持ち込めないか・・・と。
そして今に至る。
最初こそなにこれと不信感を露わにしていたが、
使ってみたら一瞬で慣れていた。
電気はこっちの世界にも概念があるらしくそれを引いてもらった。
TVの電波は届いてた。
まあ世界合体しちゃってるけど、ここ日本だしね・・・。
いや、正確には異世界の土地にいるし日本ではないのだが・・・。
「お前達・・・ここが牢屋だとわかっているのか・・・?」
あ、最初にあった女の騎士さんだ。おはようございます。
「俺も・・・なぜこんな状態なのかという感覚はあります。」
「もう良い・・・本題だ。両名とも出ろ。付いて来い。」
釈放・・・って訳じゃないんだろうなあ・・・。
大方、これからについてお偉いさんからお話とかがあるのだろう。
「えー・・・やん!アタシは出ないー。」
うん。こうなるかもとは思っていたけどね。
コタツの魔力に取り付かれた人間がまた一人・・・。
「いいから行くんです!」
「えーじゃあいいよー。このまま行くからー・・・。」
そういうとドロシーは、なんとコタツごと宙に浮かび上がった。
そんな事普通に出来ちゃうんだなあ・・・。
しかし相当シュールな光景である。
コタツが浮いているだけでもあれなのに、中には美少女がいて、
服装は魔法使いのローブ、周りの背景は石造りの牢屋である。
というかコタツ宙に浮かせたら暖かくないんじゃ・・・。
「・・・もう、なんでもいいです・・・行きましょう。」
こうして俺は騎士さんと、空飛ぶコタツムリと一緒に、
とりあえず一歩を踏み出すのだった。
「単刀直入に言おう!お前達に、魔王の討伐を命ずる!」
所は変わって大広間、今俺達にそんな事を命じたのは、この国の王様だそうだ。
聞くところによれば、この魔王と言うのが要するにこの世界の危機の元凶であり、
異世界干渉に踏み切ろうとした原因らしい。
というか目のクマとかすごいな・・・相当苦労抱えてそう。
・・・そりゃそうだよな。
普通世界統合って、そもそもそれを防ぐ為に全力の冒険をしたりする物だもんな。
それをある日ポンとやられてしまった日には・・・気苦労も全力だろう。
「そ、そんな!ドロシーはまだ子供です。いくらチカラを持つといっても・・・!」
いの一番に反論をしたのは意外にもあの女騎士さんだ。
いや、優しそうな人だったし、意外でもない・・・のか?
「騎士団長メアリよ。そう言うがな?もうドロシーも15になる。
これだけの事を仕出かしてしまっては、もういつまでも子ども扱いしてなど居れんわ・・・。」
「それは・・・。」
なんと、騎士さんは団長さんだったのか。んで名前はメアリさんと。
というかドロシー15なの!?どんなけ童顔?そして・・・
この隣で小首を傾げた何もわかってなさそうな顔・・・!
ああ・・・頭、よわい子だあ・・・。
うん、付き合いは短いけど、俺知ってたよ。
というかいい加減コタツから出なさい。
「そもそも最後の頼みの綱だった異世界技術の流用などによる魔族への反撃は、
ほかならぬドロシーによって不可能になった。
何かしら責任を取ってもらわねばならない。」
「異世界の技術を使うだけなら、この現状でもできるのでは?」
「異世界であれど、人が住み、文化を築いているのは同じ事じゃ。
どこの世界に、突然現れた得体も知れない隣国に、技術を明け渡す国がある・・・。」
なるほどそれはそうだ。
普通に考えて渡すはずが無いし、
しかも魔王討伐に関与するって事は兵器的な技術とかだろう?
なおの事無理だ。だからこそ異世界干渉って形で技術だけとか、
素材だけとかを拝借する計画だったんだな。
「事態は急を要する。魔族たちに動きがあった。
この世界の大規模変化をこちらの反撃と取られたのか、
各地で一気に魔族が押し寄せているらしい。」
「・・・!そんな、唯でさえ各地の戦線はぎりぎりだったのに・・・。」
なんというか想像以上に不味いらしい。別の世界の事のようで
どうにもまだピンと来ていないが
「今では新しく一緒になってしまったお主の世界も攻め込まれている状態じゃ。」
全然人事じゃなかった!俺の世界がっつり関わってた!
「そしてお主の国からはこれが届いておる。」
「は、はあ一体何が・・・。」
俺は差し出された一枚の紙を受け取る。
内容は・・・ーーーーーーーーー。
「なあにー?しめい・・・てはいしょ?」
ふわふわと寄ってきたドロシーが文字を読み上げる。
そう、指名手配書だった。---俺の
「お主も知ってのとおり、この世界はお主の世界と交わってしまった。
そしてその中心が、お主とドロシーの部屋じゃ。」
つまりあれか?俺は今こっちの、俺の方から見ての異世界側で
だけでなく、もと居た方の世界でも大罪人扱いだと・・・?
俺が中心となり、世界をこんな状態にしたと・・・?
「お主の国からは身柄を引き渡すよう要請が来ておるが、
こちらも魔族への対応以外に割く余裕など微塵も無い。わかるな?」
つまりあれですね?捕虜というか人質的なあれ。
というかそもそもこの人たちにとっても俺犯罪者でしたしね!
本当に笑えないんですが・・・。
「ともかく!もう一刻の猶予も無いのだ!
お主もこの様なとんでもない世界改変を手引きできる実力者、
何がなんでも協力してもらわねば困る!」
・・・え?待て待て待て!それは違うぞ?違うぞ!?
チカラとか無いよ!!?
「メアリ、頼んだぞ。この者たちと共に世界を救ってくれ・・・。」
「・・・はい。え?私!?ま、待ってください私はこの国の騎士」
「その国どころか世界が滅ぼうというのだ!国一番の戦力を手元に置いてどうする!」
「そ、それは・・・で、ですが私のチカラは・・・!」
何かとてつもなく慌てているメアリさんが目端に入ったがこっちもそれどころじゃない。
「そしてドロシー!もう今まで通りにはいかんぞ!さあ行け!
一刻も早く魔王を討伐し、この世界を救うのだ!」
「「「えええええええええなんでええええええええ!?」」」
それぞれ絶望、困惑、不満いっぱいな別方向の感情を含んだ声が部屋にこだました。
この中途半端な世界で、俺達3人の旅がここから始ま・・・る?
ドロシー・・・浮いたまま目の前に来るのは止めろ。下着・・・見えてるぞ。
この期に及んで頭の片隅でそんな突っ込みを入れながら、
これからどうすればいいのか、俺は頭を抱える事となった。