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(9)実食! 腹ぺこ娘。って、俺がテムを食べるって事じゃないからな?

もしくは「シュール・ストレングス的な何か」

「お待たせ。パンとシチュー、それとサラダだ」


 作った料理をダイニングへ持って来て、テムの目の前に並べるとよっぽど腹が減っていたのか、慌てて手を合わせた。

 早速食べるつもりらしいが、その前に説明しとかないといけない。


「ストップ。食べるのちょっと待て。食べる前に言っておくが、これらの料理はトラップフードだ。食べたら状態異常になる」

「えっ」


 目の前に出された美味しそうな料理を目の前に、テムが固まる。ま、そりゃそうだろ。ご馳走になるために出された料理が毒料理だもんな固まってもしょうがない。


「だから、このサラダに対応する薬草を混ぜてある。なのでサラダの方は絶対に食ってくれ。他のは別に残してくれてもいい」

「だ、大丈夫。ボロッソ・ガルグメッサ以外なら何でも食べれます」

「ならいいんだが、そのボロッソなんたらってなんだ?」


 もしかして名前が違うだけで俺の知っている料理だったりするのか?


「そ、それにこんな美味しそうな料理残すともったいないお化けでちゃいます」

「そうか。でも、もし多かったら残してもいいぞ。どうせ材料は俺の魔力だ。文句をいう百姓さんなんかいないからな」


 てか、こっちでも「もったいないお化け」っているのな。


「ううん。それよりももっと欲しいぐら……あっ」


 思わず漏れた本音に慌てて口を押さえるが、時既にその声は俺の耳にばっちりと届いていた。


「ぷっ。気にするな。おかわりが欲しくなったら幾らでも作ってやるから遠慮なく言ってくれ」

「あ、ありがとうございます」

「いいって」


 座ったままだが頭を下げるテムに、俺は手を振って答える。


「……で、ボロッソなんとかってなんだ?」


 不意をつかれてテムが固まる。

 うん。なんか話を逸らそうとしてたけど、ばっちり覚えてるから。


「えっと……」

「……」


 話題転換をしようとしたのを見破られたテムはそのことに気づき、そしてそれでも言葉を言いよどみ、俺は無言でテムの言葉を待つ。


「うぅ。どうしても言わないとダメ、です?」


 観念したのか、そう俺に問いかけるテム。よほど言いたくないらしい。もしかしたらアレか? 目にするのも嫌なぐらい嫌いとか。


「まあ無理にとは言わないが、せめて言いたくない理由ぐらい教えてくれても良いだろ?」


 俺の言葉にテムはあからさまに表情を変え、ほっと一息着いたあとその訳を教えてくれた。


「えっと、なんていうか、食事前にする話題じゃないっていうか……」


 いや、そのボロッソなんとかって食べ物なんだよな?!


「それは……、君がそのボロッソなんとかが嫌いだから?」


 そう聞き返すが、テムはそっと首を横に振る。


「違います。ボロッソ・ガルグメッサを好きって人もごくまれ~~~に居るけど、その人も気を使って食事前とかには話題に出さないです」

「な、なんか逆に気になるんだけど?!」

「絶対聞かない方がいいです。後悔します、絶対!」

「そ、そうか」


 テムにこれでもか力強く言われ、俺は渋々諦める。


「なら、今は諦めるよ。……食べ終わったら教えてくれるか?」

「えっと、すぐにとかじゃなければ?」

「了解」


 気になるがしようがない。状態異常の種類の確認とかしつつゆっくりとテムが食べ終わるのを待つとしようかね。


「……」

「……」


 とか思ったんだか、テムがなかなか食べ始めようとしない。


「……」

「……?」


 くぅ~。

 どうしたのかと首を傾げたその時、聞き覚えの有る音が聞こえた。

 そう。テムの腹の音だ。

 見ると音の主は顔を真っ赤にしつつも、俺の方を物欲しそうに見ていた。


「……食べないのか?」

「だって、待てって……」


 いや、犬かよ。


「あぁ、すまん。もう食べて良いぞ。ただ……」

「はい。いただきます!」


 よほどお腹が空いてたのだろう。俺が言い切るのを待たずに手を合わせ挨拶を済ませるとサラダに手をつけた。

 ま、サラダを食うようにと言おうとしたんだが、その必要はなさげだな。


「そんな慌てなくても、欲しけりゃ幾らでも出してやるから落ち着いて食え」

「はっ、はい。おいしいです」


 微妙に回答になってない気もするがまあいいか。あと、口に合ったって言うのは見てれば分かるからな?


「あ、あのおかわり」

「ほい」


 さっとその場で《眠気》のパンを作って見せる。別にキッチンまで行く必要もないだろ。

 ちなみに《眠気》なのは《微毒》や《麻痺》と違って薬草無しでも問題なさそうだからな。


「あ、ありがとうございます。って、ミミックさんは食べないんですか?」

「ん? 俺まで状態異常にかかる訳には行かないし、万が一の為に動ける人間は必要だろ?」

「でも……」


 食い下がるテムに俺は優しく答える。


「ま、別に腹減ってないしな。ってか、ミミックって何食うんだ?」

「えっと……」


 その問いかけに対し口元を人差し指で押さえて少し思案するテム。そしてその口から出たのは衝撃の答えだった。


「……人間?」

「マジか?!」


 もしかして俺、今テムを食ってたりするの?!


  ――いいえ。ミミックの主食は魔力であり、現在は外部からの自然吸収で賄えている為、人間を捕食する必要はありません。


 そっか、良かった。いつになく饒舌なマジカ先生の解説を聞き、俺は胸をなで下ろした。


「あ~、聞こえてたと思うがミミックの主食は魔力らしい。別にテムを食べたりしないから安心してくれ」


 言うまでもないが性的な意味でもな?


「わかりました~」


 いや、ちょっとは疑った方がいいんじゃないか?


「って、あれ? 特に何も聞こえませんでしたけど?」


 なるほどマジカ先生の声はテムには聞こえないのか。俺の中にいる奴すべてに聞こえるのかと思ったがそうではないみたいだな。


「なら気にするな」

「はい、分かりまし、ふぁ~」


 《眠気》の効果かお腹が膨れて疲れが顔を覗かせたのかは分からんが、会話の途中でテムが大きな欠伸をした。


「す、すみません。なんだか眠くて」

「いや、疲れてるんだろ。気にするな。なんならそのまま寝ていいぞ。ベッドまで運んでやるから」

「ありがとうございまふ。すぅ」


 礼を言うや否やテムはその場につっぶした。最初に用意していた薬草の効果を上回ったとは言え、《眠気》事態はそれほど強力な状態異常ではないから疲れていたってのに間違いはないとは思う。

 ともかく俺はテムを抱えると、指を鳴らし一瞬のうちにベッドルームに移動した。

 ……しつこい様だが絶対テムには手を出さんからな?



 それからどれ位だったか、柔らかいベッドの上で目覚めた私が一番最初に見たのは、知らない天井……、ではなく、床の上に座り頭を擦り付けるミミックさんの姿でした。


ガルグメッサ


豚のような生き物ガルグの腸に、メッサと呼ばれる豆科植物の実を茹でた物を積め薫製にしたもの。メッサに加えガルグの内蔵を詰める場合も。

その最高級品であるボロッソ・ガルグメッサは、枝になったままのメッサを猫型の魔物であるボロッソに食べさせ、体内で熟成、排泄物から採取したものを使用し、薫製のチップにボナコーンの糞を使用した物である。かなりの美味である物の強烈な臭気を放つ為、最強の珍味と称されている。

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