(5)薬草、8G。ゴブリンの魔石、10G。彼女を助けること、エンドレス。
もしくは「よかったのかホイホイ頼っちまって。俺は人間だって構わずに食べるミミックなんだぜ? ※後半は嘘」
前話から冒頭を流用してますが、安心してください。続きですよ。
※6時間置きの連続投稿5/6です。
前回のあらすじ。
俺が訓練を終わらせたと同時に部屋に飛び込んできた女の子。
彼女はモンスターに追われ、それから隠れるように俺の陰に隠れる。
彼女を追って部屋に進入するモンスター(ゴブリン)。
対峙する俺。
ただしこれ、2回目。
俺の陰に隠れて震える女の子。
うん。助けること自体は吝かじゃないんだけどね。
なぜここに逃げ込んで俺に頼る。
俺、箱だよ? 罠だよ? ミミックだよ?
要するに敵の筈なんだよ?
いや、助けるか助けないかと言ったら助けるし、もう既にやっつけちゃったけどね。
何で俺を頼るのかね。
信用してくれてるって言うんなら嬉しいんだけど、トラップをそうほいほい信じちゃって大丈夫なわけ?
冒険者を騙すのがミミックの仕事だぞ?
そう考えるもそれを言葉にして伝える手段がないため、自分の中でため息をはつくぐらいしかできないのだけども。
はぁ。
取りあえず、ゴブリンから得た魔石を取り込み、薬草を生成。
彼女の肩をツンツンして、驚異?がいなくなったのを教えて、薬草をあげる。
前回の薬草で完全回復してたようだから、これはオーバーヒールになる気もするけどまあ気にしない。
薬草作るのに必要なMPは彼女が舞い戻ってくるまでの自動回復で十二分に賄えたしな。
薬草を受け取り、ぺこりとお辞儀して出ていった彼女を見送った数分後。
また、彼女が駆け込んできてエンドレス。
いやさ、こんだけゴブリンがいるってことはこのダンジョンの雑魚なんだよね、ゴブリンって。
そのゴブリンにも勝てないのに何でこのダンジョンに潜ったのさ。
にーさんは小一時間ほど君に説教したいんだけど。
通算25回目ぐらいの戦闘後、途中ゴブリン以外も混ざっていたが、彼女のお陰で3回ほどレベルアップを果たした俺はついにキレた。
次、彼女が来たら説教する。これ絶対。
そう決心して彼女が来るのを待つ。
が、なかなか来ない。
いつもならもうそろそろ駆け込んできてもおかしくない頃合いなのに来ない。
もしかして無事脱出できたのだろうか。
それならいい。けど、モンスターにやられてたりしたら……。
し、心配だ。
宝箱なせいで身動きできない俺には、彼女の安否を確認しに行くことはできない。
気にしてもしようがないのは分かっている。
でも心配だ。
それからまたしばらく経って、彼女は無事ダンジョンを脱出できたんだと思いこもうとしてた矢先、彼女が現れた。
それまでにない大量のモンスターを引き連れて。
とは言っても、実際に見た訳じゃない。
そんな気配がしたと言うだけ。
レベルアップのお陰でその系統のスキルも強化されていたから分かったのだ。
この部屋に向かってくる彼女とそれを追う大量の気配。
不意打ちするにはちょいと数が多い。ならば、先制攻撃で対応だ。少なくともミミック本来のカウンターは向かないだろう。
俺は偽腕を2本出現させファイティングポーズを取り待ちかまえる。
出入り口に殺気を放ち、待つこと数秒。
彼女が出入り口に姿を見せ、そして、立ちすくむ。
なにやってんだっ。早く俺の陰に隠れろ。
それは声にならず怒気だけが彼女に伝わる。
ちっ。
目に見えて混乱している彼女に俺は思わず舌を打つ。
そうこうしている間に近づくモンスターの気配。
焦った俺は、とうとう彼女に掴みかかった。
「死にたくなければとっとと、そこを退けぇぇぇ!!!」
だが声にならないその叫びは彼女には届かない。
だから彼女はその場に呆然と立ち尽くしたままだ。
それは仕方ないことだし、後になって考えるてみれば実はそのほうがよかったのだ。既に偽椀は止めれなかったし、下手に動かれると逆に怪我をさせていたかも知れないからな。
抵抗なく掴まれた彼女をそのまま「中」へ取り込み、捕獲する。
掴む瞬間、彼女が見せた悲しげな笑顔が俺の心を奪うも、すぐに風情のないシステムボイス?により現実に引き戻された。
――未知の存在です。すぐに解析しますか?
その問いになんと答えたかは覚えていない。
先ほど彼女が表情の意味が気になったせいもあるし、彼女を追いかけて来たモンスターの数が尋常じゃなかったこともある。
ともかく俺は彼女のことは脇に置いといて、ただがむしゃらに偽椀を振りまくりモンスター達を倒していった。
モンスターとしての性か、倒せば倒すほど血が高ぶる。
そして数分後、部屋に残ったのは俺と十数個の魔石たち。何体かは取り逃がしたものの、それでも大量の経験値を得、さらにレベルが上がった。
敵がいなくなった今でも、まだ興奮が薫っているのがわかる。
たぶん、今の状態で彼女と対峙するのは危険だ。なにをしでかすか分かったものじゃない。
とりあえず落ち着くために、床に散らばった魔石を一つ一つ拾い集めた。
全部拾い終えた頃には何とか落ち着きを取り戻すのに成功していた。
ふう、と大きく息を吐き、俺は中へ戻った。
そこで俺が見た物は……、俺の部屋を漁る少女の姿だった。