2度目
ワァっと歓声があがる。
「えっ! 何!?」
驚くその人を取り囲む皆が土下座した。
「どうか! どうかこの世界を救って下さいっ!」
「はぁ!?」
困惑するその人に向けて始まる、涙ながらの訴えのオンパレード。
***
「え、この話、ボランティアですか?」
「いいえ。お戻りになられましたら、ご指定いただいた銀行口座に、30万円、振り込ませていただきます! 複数の銀行口座に分割をご希望であれば・・・!」
「分かりました、受けましょう」
***
ある年ある日ある時間に、魔王討伐のために、異世界から勇者が召喚された。
召喚されたのは青年ともいえる年齢になった男。恐ろしい能力を秘めていた。
彼の名はマエダ=ナオヤ。
異世界における日本という国から召喚されたその男は、王家から賜った支度金と、よく切れる剣、ちょっとした胸あてでもって、圧倒的な強さであっという間に魔族たちの脅威になった。
ついでに彼には天性の魅了が備わっていた。彼の微笑みだけで老若を問わず女が心を奪われた。
***
勇者は、たった一人で魔王討伐に行くことになった。勇者が別に仲間要らない、大丈夫だと断ったのだ。
仲間候補とどうも話が合いそうにないなと判断したのと、案外ボッチも好きだったからだ。
加えてこの世の人間にはない強さがあった。聖剣でもない、ただのよく切れる剣だけで、樹どころか石さえもスパっと切れる。
逆に、勇者への攻撃は彼のボディに何のダメージも与えない。手をパッパと動かしてついた汚れを払い落としたら跡形もない。
こうして、勇者は一人で旅をした。
普通なら通り抜けに20日はかかると教えられた、感覚を狂わす魔の森も、サクサクと歩いて15分後には通り抜けたので、勇者はなんだか話の全てが大げさなんじゃないかと思えてきた。
まぁ楽勝ならそれで良いと勇者は進む。
むしろ旅という程の事も無く、召喚された2時間後には魔王城にたどり着いていた。
城内、勇者に勝てる見込みがないと踏んだのだろう、行く手を阻まれる事もない。
勇者は魔王のいる部屋まで辿り着いた。
キィ。パタン。
***
「あれ、近藤」
と高校二年生の勇者は言った。
「よぅ前田。待ってたぞ。さっさと帰るぞ」
と、同級生の近藤が言った。
「はぁ? 俺、勇者で魔王を倒してくれって頼まれたんだ。魔王はどこだ?」
「魔王、俺。あと、良いかよく聞け。俺とお前がここから同時に消えたら丸く収まる。そして俺には20万の入金がある。5万円お前にやるから、さぁ帰ろう」
「は? お前が15万で、俺が5万円? というかそれマジか?」
「どの道帰らないと本当か確認できないけどな。じゃあ、仕方ないから8万円やるよ」
「8万円か。まぁ、それで魔王も消えるわけだもんな」
ちなみに魔王にはそもそも30万円入金があることを勇者は知らない。
「うん。あとさ、どうもこっちの国、勝手に刺客みたいに勇者送られて困ってるんだってさ。向こうも魔族の国らしいぞ。ってわけで、他所もんが口つっこむとこじゃないし、さっさろ帰って金もらおう」
「ふーん、世も末だな。まぁ良いか、じゃ、8万円よろしくな!」
彼らは最後まで金を頼むと言いながら、二人して元の世界に帰っていった。
良かった良かった。
***
こうして魔族たちは、異界から召喚した魔王により、勇者を無効化する事に成功したのであった。




