魔王討伐のために
ワァっと歓声があがる。
「えっ! 何ここ!」
驚くその人を取り囲む皆が土下座した。
「どうか! どうかこの世界を救って下さいっ!」
「ん!?」
困惑するその人に向けて始まる、涙ながらの訴えのオンパレード。
***
「えっ、そうなんですか! なんということ・・・」
***
ある年ある日ある時間に、魔王討伐のために、異世界から勇者が召喚された。
召喚されたのはまだまだ幼さの残る少年。けれど恐ろしい能力を秘めていた。
彼の名はスズキ=ショウタ。
異世界における日本という国から召喚されたその少年は、王家から賜った支度金と、よく切れる剣、ちょっとした胸あてでもって、圧倒的な強さであっという間に魔族たちの脅威になった。
ついでに彼には天性の魅了が備わっていた。彼の笑顔だけで老若男女が心を奪われた。
***
勇者は、たった一人で魔王討伐に行くことになった。勇者が別に仲間要らない、大丈夫だよと断ったのだ。
仲間の話になった途端、皆いきたくなさそうだったのが彼には分かってしまったからだ。
加えてこの世の人間にはない強さがあった。聖剣でもない、ただのよく切れる剣だけで、樹どころか石さえもスパっと切れる。
逆に、勇者への攻撃は彼のボディに何のダメージも与えない。手をパッパと動かしてついた汚れを払い落としたら跡形もない。
こうして、勇者は一人で旅をした。
普通なら通り抜けに20日はかかると教えられた、感覚を狂わす魔の森も、サクサクと歩いて20分後には通り抜けたので、勇者は不思議に首を傾げる程だ。
仲間も連れていないから理由も分からないぐらいだけど、まぁ良いやと勇者は進む。
むしろ旅という程の事も無く、召喚された4時間後には魔王城にたどり着いていた。
城内、勇者に勝てる見込みがないと踏んだのだろう、行く手を阻まれる事もない。
勇者は魔王のいる部屋まで辿り着いた。
キィ。パタン。
***
「あれ、お母さん!」
と小学校二年生の勇者は言った。
「翔太、帰るよ。迎えにきた」
と、お母さんと呼ばれた女が言った。
「えー、僕、勇者で、魔王を倒してって頼まれたからまだ遊ぶ!」
「あー、大丈夫大丈夫。お母さん、先に倒しておいてあげたから。さ、帰りましょ。オヤツはプリンよ」
「えー、プリンー?」
「早く帰らないと、超怪獣ギャース見れないよ」
「えっ! 今日水曜日! 忘れてた! 帰る! 早く帰ろ!」
ちなみにテレビ番組である。
「じゃ。ほら、皆さんにもご挨拶して。『さようなら』」
「さよなら、バイバイー!」
魔王と勇者は手を繋いで、笑顔で魔族に手を振りながら帰っていった。
ちょっとほのぼのした。
***
こうして魔族たちは、異界から召喚した魔王により、勇者を無効化する事に成功した。




