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国防海軍空母ふそう  作者: 高田 昇
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第2話 国防軍

 日本国防軍は、1980年代の日本国憲法改正によって199X年に自衛隊を母体として創設された日本の新軍隊だ。自衛官は国防官と名称を改められ、防衛庁も国防省に昇格する。また、これまで問題視されていた不十分な法体制も国の安全保障関連を定めた『国防基本法』が新たに制定され、政府及び国防軍の国防戦略における方針や政策が定められた。


 欧米は、日本の軍隊保持を歓迎した。世界情勢は、ソ連崩壊に伴う冷戦の終結によって各国は軍事予算削減が行われていく中、旧東側陣営の政情不安から日本の国際貢献に期待した。


 対して、様々な利害関係が複雑に絡み合う周辺国は冷ややかで批判的だった。ロシアや中国などは冷戦時代の対立関係から警戒感を持つのは当然であるにしても、同じアメリカ陣営に属する韓国の批判的な姿勢は異常な程だった。


 他に、第二次世界大戦時に日本と敵対または支配下にあったオーストラリアやASEAN諸国なども国防軍創設に対して歓迎と警戒が飛び交った。これらの国々が日本国防軍に対して肯定的になって行くのは2010年代の中国の海洋進出を始めてからだ。


 とは言え、国防軍は自衛隊と同じく専守防衛を基本戦略として新憲法にも戦争放棄の文面は継承されており、周辺国への政治的配慮から攻撃型空母や戦略爆撃機、弾道ミサイルに戦略潜水艦などの兵器や核兵器の開発や製造に保有などは認められないとする。当然、徴兵制度なども無く、国防軍の戦力は必要最小限度の範囲内として国防予算もGDPの1%前後である。


 日本国内でも当初こそは、冷戦終結直後もあり批判的な主張が飛び交い、国防軍反対派などは事実無根の噂を流布したり、国防官やその家族などに差別的な言動を行い社会問題にもなった。が、それらは年月の経過によって次第に勢いは衰え、今では反社会的勢力と見なされている。


 創設から二十数年経ち、アメリカ主導で行われた対テロ戦争やイラク戦争でも国防軍は多国籍軍への輸送や給油などの後方支援や戦争被災地のインフラ整備に従事し、完全撤退の日まで一名の戦死者を出さず任務遂行を果たした。また、国内外で発生する大規模な自然災害に対する活躍が報道される事もあり、日本社会に於ける国防軍の存在意義は揺るぎないものとなっていた。


 長岡鉄也なおかてつやは、4月に国防陸軍に入隊した国防官で、横須賀の新兵教育部隊に配属された。基本教練に戦闘訓練や射撃など、国防官に必要な基本教育を行う。その過程で、教育隊要員の班長たちから毎日、朝から晩まで怒鳴られる。5月の長期休暇も最終日となり新潟の実家から横須賀に戻る日が来た。


 新幹線で東京まで向かい、在来線に乗り換えて横須賀に向かう。順調に進めば帰隊時間内までに余裕で駐屯地に着くが、営門を潜ってしまえば再び治外法権まがいの厳しい訓練の日々となる。


 最寄り駅に向かう手前の小さな駅で下車した。駅を出て直ぐ目の前から横須賀港を眺められた。海岸線は整備が行き届いており、地元の観光スポットとして人の往来が多い。


 長岡は近くのベンチに腰を下ろした。横須賀は、幕末から明治に掛けて軍港として整備され、現在でも国防海軍やアメリカ海軍の海軍基地として機能している。この降り立った小さな駅も昔は軍用として使用されていたが、今では余り知られていない。


 国防海軍横須賀基地の軍港が見える。港内には、複数の軍艦が停泊していた。旭日旗を掲げる潜水艦に特徴的な艦橋であるイージス艦、全通飛行甲板を持つヘリコプター搭載型海防艦があった。そして、さらに奥にも一隻の全通飛行甲板の海防艦が留まっている。その軍艦は、前方の甲板の一部が反り返っていた。


 「あれは、『ふそう』か」


 と、長岡はフェンスに手を置き、艤装中の空母『ふそう』を眺めた。雑誌やインターネットなどで見たことはあったが、本物を見るのは初めてだった。


 翌年の就役を前に、艦はまだ形だけの空母に過ぎない。まだ、多くの装備が残されていた。機材が積み込まれ、試験航海が行われてから初めて部隊の戦力となる。


 その頃には、長岡は教育部隊で希望した地元の部隊でなく北海道の部隊に配置されているが、今の彼には知る由もなかった。

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