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ヨルに咲く花  作者: NES
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ヨルに咲く花 (1)

挿絵(By みてみん)

 蝉の声がすごい。もう八月だからね。恋の季節真っ盛りだ。あれが全部愛の告白なんだと思うと、ロマンチックというよりは軽く引く。しかも相手は不特定多数だし。死ぬ前に誰でもいいから、っていう必死さは、まあ伝わってくる。

 うん、素直にうるさい。あと暑い。部屋の冷房、設定強めにしてるのにかなり厳しい。今年の夏は猛烈だ。日光が入ってくるとそこから熱されてしまうので、遮光カーテンが欲しくなる。暗くていいよ、涼しければ。そう訴えたらお母さんに不健康って言われた。ええー、いいじゃん薄幸の美少女的で。

 はいはい、美少女は言い過ぎでした。でも可愛く無い、なんてことは無いと思う。部屋にある全身鏡の前で、くるっと一回転。白と水色のワンピースの裾が翻る。落ちそうになった白い帽子を片手で抑えて、軽く首をかしげるポーズ。よし、満点。

 曙川(あけがわ)ヒナ、十五歳。高校一年生の夏休み、本日の戦闘準備万端です。

 大きくてくりっとした目、すっきりした鼻筋、ゆるふわで肩までの癖っ毛。クラス内ではトップテンに入る可愛さ。うん、女子が二十人だから、上位半分には入ってるよね。この自己評価は高い?低い?

 ヒナの場合、周りの友人たちのレベルが高過ぎる。大人美人サユリ、可愛くてふわふわしたチサト、ボーイッシュ王子様サキってなんなの?その中でヒナの立ち位置って、もうボケ役ぐらいしか残ってないんですけど。アイドルチームなら「ツッコミ待ち」って言われるポジションだ。うわー、突っ込まれたくねぇー。

 まあいいのさ。ヒナには素敵な彼氏様がいますからね。ずっとずっと好きで、今までも沢山大事にしてもらってきて、高校に入ってようやくお付き合いっていう関係になった、大切な幼馴染。

 朝倉ハル。ヒナの一番大事。ヒナの居場所。大好きな彼氏様。

 そのプレミアムでプレシャスなハル様、先週末にようやく補習を終えてくださいました。ハル様は一学期の期末テスト、物理で赤点を取ってくださいましてですね、ヒナの夏休みのスイーツかっこ笑いな予定は全ておじゃんにされてしまっていたワケです。これで更に追加補習とか言われてたら、ヒナは泣きわめいて物理のすだれハゲ先生の自宅に押しかけて、「コイツにレイプされそうになりました」とか騒いでやろうかと思ってました。うん、やらないで済んで良かった、テヘペロ。

 何にしても、これで晴れて二人の夏休み開始です。うわぁ、なんだか顔がにやけてきちゃう。ハル、ヒナは今年の夏、色々期待しちゃってもいいのかな。ええっと、高校生らしい健全な夏にする?それとも、もうちょっとトロけちゃう?それともそれとも、行くところまではっちゃけちゃう?ふふふ。

 全部ハルにお任せ。ヒナはハルに全てを預けてるからね。今のところお姫様みたいに大事にしてもらってる感があるけど、ヒナ的には何があってもどんと来いです。離さないって決めましたから。信じてますから。ま、根性なしのハルのことだから、ヒナがプッシュしない限りきっと何もないでしょ。もう何年一緒にいると思ってるんだか。

 夏休みにハルと二人で遊ぶのって、考えてみれば本当に久しぶり。会ってはいたんだけどね。ウチの場合家族ぐるみのことが多くて、ヒナの弟のシュウとか、ハルの弟のカイとかが普通にセットで付いてくる。ポテトもドリンクもいらんのにね。残念ながら単品販売はしてくれなかった。

 別にシュウやカイのことが嫌いって訳じゃなくてね。うーん、二人きりになれる機会って、思ったよりも少なくて。中学に上がってしばらくの間は、本当に割と疎遠だったんだよ。ヒナも色々あってさ。ふと左手を見下ろす。ああ、忌々しい。

 ヒナの左手には神様が宿っている。いや、電波とかお花畑とか、そういうのじゃなくて。なんかガチのマジックアイテム。神の園である幻夢境カダスに通じる道標、銀の鍵。そして、銀の鍵の所有者をカダスに導く守護神ナシュト。こんなものがヒナの左手には埋め込まれている。なんでやねん。はい、別にツッコミは待ってません。

 目に見えないモノが見える。聞こえない音が聞こえる。他人の心が読める。これ、そのまんま統合失調症だよね。そんなこと言う奴がいたら、間違いなく病院に直行だ。お陰様で人に話すことなんか絶対に出来ない。

 百歩譲って、信じてもらえたとするよ?「あなたの考えてること、何もかも判るんだ。あと、勝手に書き換えることも出来るんだ」こんな奴が近くにいたらどう思うよ?ってこと。ヒナならおっかなくて逃げ出す。ヒナ自身、こんな力気持ち悪くて仕方が無い。

 いらないって言ったのに、銀の鍵はもうすっかりヒナと同化してしまっている。クーリングオフもさせてくれないとか、神様の世界は実に遅れている。今ならおまけで付いてくるって感じのナシュトに至っては、イケメンであること以外にはほとんど利点が無い。ハルがいればそれで満足のヒナにしてみれば、イケメンってところにも訴求力を感じない。もっとユーザーのニーズを考えてさ、キャッチーに行こうよ。意味判らんけど。

 中学も三年生の後半になって、ヒナはこの銀の鍵をはっきりとダメ認定した。基本的に封印。使ってもロクなことにならない。中学時代のヒナについて、カイ辺りがなんだかすまなそうに言ってくることがあるんだけど、もう原因ははっきりしてるから心配ご無用。人の心なんて気安く読むもんじゃないよ。本当に。

 そんなヒナを助けてくれたのがハル。ハルはいつもヒナのことを助けてくれる。小学三年生の時、雨の中で怪我して泣いていたヒナを助けてくれたのもハル。中学三年生の時、銀の鍵が見せる人の本性があまりにも汚れきっていた中、純粋な気持ちでヒナのことを好きでいてくれたのもハル。そんなハルのこと、好きにならないはずが無いでしょ。ヒナは、ハルのことが好き。

 やー、でも中学三年の冬、二人で高校受験の勉強会している時は、今思えば惜しかった。結構遅い時間まで二人きりでいられた、貴重な体験だったんだよなぁ。ヒナがもっと頭良くて、学力的に余裕があったんなら、勉強会なんて口実に出来たのに。あ、ハルもそうか。一緒の高校に入るためにお互い必死だったから、あんまりロマンス的な要素は無かった。まあ、頑張ろう、とは思えて良かったかな。

 高校に入って告白してもらえて、本当に嬉しかった。ああ、ヒナの人生無駄じゃなったんだなーって、十代真ん中にして達観しちゃった。こういう色恋ってのは、若いうちにしか出来ないじゃん。ヒナは全力でぶつかってきたつもりだし、それが報われたって思うと、感極まっちゃうよね。ハルが相手なら、なあなあでもなし崩しでもなんでも良かったんだけど、でもちゃんと告白されて、彼氏彼女になって、恋人になるっていうのは、やっぱり憧れだった。

 恋人。うん、恋人だよ。良い響きだね。またワンステップ進んだイメージ。ヒナは、ハルと手をつないでこのまま人生の階段を登っていきたいなぁ。

 おっと、その前に大人の階段だな。夏休み前の公園デートで、ヒナのファーストキスはハルに奪われてしまった。むふふ。幼馴染で高校生になってからファーストキスってどうなのよって思われるかもしれないけど、いいじゃん、別に。なんかすっごい昔にハルのほっぺにチュウした記憶もうっすらあるけど、唇が触れ合うのは確実に初めてなはず。結構大事にしてました。そして、ちゃんと好きな人に奪ってもらいました。ふふっ、よっしゃー、このまま行くぜーって感じ。フォローミー!

 相変わらずこの思い出だけでご飯三杯くらいはいけちゃいそう。いかんいかん。それより今日のことだってばよ。

 今日は地元の花火大会。結構大規模で、同じ日にお祭りをする寺社や町内会もちらほら。お盆前なのに町中がそわそわした空気に包まれていて、とても賑やかだ。

 もともとこの花火大会には、毎年ハルの家と一緒にわいわいと観に行っている。ハルのお母さんが車を出して、河川敷の芝生にゴザを敷いて、寝転がってお菓子やら出店で買ったたこ焼きとか焼きそばやらを食い散らかす。お花見に近い感覚かな。ヒナのお父さんは大体お盆まで出張で帰ってこれないから不参加、ハルのお父さんは仕事が繁忙期でやっぱり不参加が多い。そういえば最近ハルのお父さん見てないな。お付き合いしてますって、一応挨拶しといた方が良いのかな。

 ふふん、しかしですね、今年の花火大会はちょっと違うのですよ。なんかハルのお母さんとヒナのお母さんが結託してですね、ヒナとハルの二人は別行動になったのです。良いように踊らされてるみたいで正直滅茶苦茶腹立たしいんですが、そこはぐっと飲み込みますよ。結果が全てですからね。結果にコミットします。

「今年は二人で観に行くんでしょ?」

 とかもうアッサリと言いやがって。ええ、そうさせていただけると嬉しいですね。なにぶんお付き合いさせていただいてますからね。ただ、なんでそのお付き合い関係の話が、両家の家族全員に知れ渡ってるんですかね。お父さんからヒナの携帯におめでとうメールが来た時は失神しそうになりましたよ。うん、どうせくっつくんだろお前らって、昔から言われてたからさ、我ながら今更だよなー、って思ってはいるんですよ。いるんだけど。

 でも、なんかムカつくんじゃー!

 気を取り直して、鏡の中の自分を見直す。例年と違ってデートですからね。スウェットとかジャージとかありえないですから。ハルの彼女として恥ずかしくないように、綺麗で、可愛く。それでいて、屋外デート的な。毎回難易度が高い。かといって手は抜けない。頑張れ、ヒナ。

 とりあえずワンピース。この前買った新作です。白と水色。夏らしくていいよね。実はうっすらと透けてる。身体のラインが見える奴は諸刃の剣。ヒナは今回、あえて勝負に出てみる。夏の日差しの逆光、白いワンピースの向こうに、ヒナのシルエット。どやぁ。

 その代わりインナーはあまりご期待に添えないかな。カップ付きのキャミ。透けブラとか期待されても、この時期ブラ紐はきつくてね。ハル以外のオッサンとかにうへうへとヤラシイ眼で見られるのも腹立たしい。下は膝上のレギンス。う、もうちょっと脚細くならんかな。あとヒナ、少々O脚気味。気になる。

 縁日見て回ると思うし、履物は慣れてるサンダルで。あえて不慣れで可愛い系のものをチョイスして、「脚痛くなっちゃった」からのおんぶコースもありかな、とか思いつつ却下。普通にハルに迷惑だよね。ヒナからは無理に変なイベントを発生させない。ハルに優しくリードしてもらう方向性で。

 それから帽子。暑いからね。日が落ちた後は良いんだけど、日中デートも込みなら日除けは必須。日傘とかはヒナにはレベルが高すぎる。普通に、白い帽子。つば短め。可愛く着こなさないとね。

 あー、後は見えない努力系。日焼け止め。制汗剤。虫除け。この時期は特に大変。男性側としては女性の露出が増えることに期待が膨らむのでしょうが、女性側の都合ってのも大変なんですよ。色々と匂いが混ざるのもきつい。なるべく無香料のものを使うように意識はしている。最後にシュッと消臭剤をかけたくなる。

 窓の外で、ドンドンドン、と花火が上がる音がした。お昼の三段雷だ。

 ヒナはお父さんから聞いて知ってたんだけど、みんな意外とこの三段雷って知らないんだね。運動会とかでもやるよね。今日は予定通り花火をあげますよーっていう合図だ。ハルは(らい)って言ってた。

 これだけ天気が良いからね。中止ってことは無いでしょう。ちょっと風が強いかなー、程度だ。むしろ少々風が吹いている方が、花火の煙が流れて観る方としては便利。毎年観てれば、その位の知識は身についてくる。

 二人でお祭りとか。二人で花火とか。

 うわー、良く考えたらすごいな。なんか照れくさいな。ハル、ヒナはハルとお付き合い出来て、本当に幸せ。

 この幸せを、ずっと続けていきたい。守っていたい。

 大切にしたい。


 花火大会の正式な会場は大きな国立公園だ。広い園内の一部が解放されて、縁日みたいな出店が並ぶ。メイン会場の広い芝生には朝のうちからゴザやらビニールシートやらが敷かれて、日が暮れる頃にはもう足の踏み場もなくなってしまう。何よりつらいのはトイレの行列で、並んでいる間に花火が始まって、出てきたら終わっているという笑い話が全然冗談になってない。

 なので、地元の慣れている人間は最初から国立公園の方にはいかない。少し離れた河川敷の方に行く。こっちでも出店は沢山出てるし、何より広々とした場所でのんびりと花火を見ることが出来る。仮設トイレも設置されてて万々歳だ。

 しかし、今回ヒナとハルはあえて国立公園の会場にやってきた。そりゃあそうだ、両家の家族が河川敷の方にいるんだから。折角二人で別行動しているのに、かき氷買おうと並んでいるところで鉢合わせとかしたらどうするのよ。何もかも台無しだよ。ハルと腕組んで歩いているところなんて、カイとかシュウとかにはあんまり見られたくないかな。いやまあ、普段から割とくっついてはいるんだけどさ。無防備にいちゃついているところは、流石に、ねえ。

 一応携帯で連絡すれば車でお迎えに来てくれるらしい。ははあ、一応ね。無いと思いますよ。なんでわざわざデートを放棄しなきゃいけないんですか。意味が判らない。むしろこのまま二人で何処までも行ってしまいたい。

 空を見上げるとすっきりとした青空。ものすごく暑いかと思ったけど、想像していたよりも風が気持ち良い。汗対策とか色々考えてたのは杞憂になるかな。そこまで酷いことにはならなそう。日焼けにだけ気を付けておこう。

 ちらり、と横にいるハルの方を見る。今日はハーフパンツとTシャツ、ビーチサンダル。ハル、夏仕様って感じ。はは、去年の花火の時も同じ恰好だった気がする。日焼けしにくいからちょっと白さが目立つかな。むさくるしいよりはいいよ。ハル、思ったより体毛濃いね。そういうところに目が行っちゃう。

 まだ日没までだいぶ時間があるのに、国立公園は人でごった返していた。花火の日は無料入園になるので、それにあやかって遊びに来ている人もいるのだろう。で、みんなきっとそのまま花火見て帰るんだろうな。こりゃすごい人出だよ。その熱気だけで汗が出てきそう。

 これだけ暑いと、べたべたくっついたりは出来ないかな、って思ってたんだけどね。

 ハルが、ヒナの手をぎゅって握ってきた。どきっとしちゃった。わ、ハル、どうしちゃったの?

「迷子になるなよ」

 もう、だから一人で行かないよ。まだ気にしているのかな。大丈夫、ハルと約束したでしょ。一人で走り出すことはしない。ハルにいつまでもそんな迷惑はかけられない。

 強く握り返す。汗ばんだ掌の感触。そこに、ハルがいるって確かに判る。

「ならないよ。離れないから」

 銀の鍵のこと、ハルには話せない。ハルはヒナに何も訊かないでくれた。その代わり、一人で走り出して、一人で泣かないでほしいってお願いされちゃった。そうだね、ヒナはいつもハルの前で泣いちゃってる。

 でもね、それはヒナにとって、ハルがとても安心出来る場所だからなんだよ。つらいこと、悲しいことがあった後、ハルの顔を見ると、ハルの声を聞くと、ほっとして、気が抜けちゃうんだ。つい涙が出ちゃうんだ。ハルのこと大好きって気持ちが、ヒナを泣かせちゃうの。そこだけは大目に見てほしい。本当のヒナをさらけ出すのは、ハルの前でだけなんだから。

「ならいいけど」

 ヒナだって成長してるんですよ。ハルの彼女に、恋人にしてもらったんだから、ちゃんとハルのお願いくらい聞きます。こんなにヒナのこと信じてくれるんだから、応え無い訳にはいかないでしょう。もう、何言われてもヒナはハルに従います。ヒナはハルのものです。ずっと前から、そして、これからもずっと。

 ハルが笑う。ヒナも笑う。銀の鍵とかマジで投げ捨てたい。ハルと一緒にいるといつもそう思う。二人の時間が愛おしくなればなるほど、邪魔者にしか感じられなくなる。二人の間に隠し事を作る要因。ヒナとハルを困らせる、不自然で歪な力。

 うまく使いこなせれば、便利なんだろうな、とは思う。でもヒナにはまだまだうまく扱えそうにない。こればっかりは成長しそうにないかな。ナシュトはヒナがカダスに近いとか、寝言みたいなことを言ってるけど、別に神様になんか会いたくもない。仮に会えたとしても、文句しか出てこないかな。とりあえずキャンセルぐらいは出来るようにしといてくれ。

 ハルと手をつないだまま歩き出す。あ、今気付いたけど、花火大会って結構高校の知り合いとかいるんじゃないの?こんなラブラブ状態でいいのかな。えーっと、ハル?

「さっき高橋がいた。こっち見てた」

 ぎょえー!ええと、高橋くんって誰?ハルの友達で、ええっと、じゃがいも1号?2号?ああっと、小っちゃい奴か、さといもだ。ハルの周りにはイモしかいない。炭水化物祭り。

 この状態で見られたりして、ハル的には構わないの?

「えーっと、ハルは平気なの?」

「まあ今更だしな。あいつらの誘い断って来てるわけだし」

 あー。

 あーあーあー、そうだよね。友達同士で誘って来たりするよね。ヒナもサユリから『声だけかけるけど来ないでしょ?』ってぶち失礼なメッセージもらったわ。『ご明察でございます』って返事しておいた。サユリお嬢様の優雅な花火見物にも、正直興味はある。後でサキとチサトに訊いてみよう。

「デート宣言とかしてるし、手遅れじゃね?」

 うう、それは忘れてほしいよ。ハルが補習だって判った時、教室の中、クラスメイトの面前でハルにデートをせがんじゃったんだよね。もう公認どころの騒ぎじゃない。普通に夫婦扱いだよ。へいへい、それで結構ですよ。その代わりもうぜーったいに邪魔するなよ。変な噂流すなよ。茶化すなよ。

「ヒナは、目立たない方が良い?」

 んー、必要以上に目立つのは嬉しくないかな。やっぱりいちゃいちゃしてるってだけで反感は買うものだし。それに、学校はそういう場所じゃないってことぐらいはわきまえてるつもり。ただ、今は学校の外だし、学生であるのと同時に、ヒナとハルは幼馴染で恋人同士なんだから。仲良くしていることは自然でしょ?

「これくらい、普通のことだと思うよ」

 そうじゃなきゃやってられません。生活指導どんと来い。負けないぞ。男女が愛し合わずして、日本の少子化は解消されない!

「なら良かった」

 ホントにね。ハルがそう思ってくれてるから、こうしていられる。えへへ、実は嬉しい。ハルって結構、度胸があって男らしいんだよね。ヒナを引っ張ってくれるハル、頼りがいがあってすごく好き。

 暑いけど、あんまり気にならなくなってきた。多分体温が上がってる。ヒナも熱くなってる。ええい、ままよ。手は握ったまま、ハルの腕をそっと抱く。ハルの二の腕、ひんやりとしている。筋肉、しっかりと付いてるね。逞しい。ぎゅっと、身体を押し付ける。ハル、好きだよ。ヒナを感じて。

「じゃ、行こ」

 いつまでもその体勢じゃ歩けないからね。ぱっと離れてにこっと笑う。戸惑ったハルの顔を見るのが楽しい。

 ほらほら、夏休み、ヒナは手加減しないぞ。もっと手を出してきてもいいのよ、ハル?

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