表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
7/12

第三章 展開 (3)

ジュンとナオミは、小野寺での一件以来、おとなしく仕事をしていた。そんな中、ジュンは意外な資料を発見する。だが、それは、小野寺を襲った組織にも知れることになる。そしてナオミも危険な罠を仕掛けられる。

第三章 展開


(3)

 ジュンとナオミは、小野寺の自宅での出来事以来、静かにしていた。ジュンは、ケネパル・フォーミュラに出社して、ひたすら反物質の研究に取り組んだ。

 本来この様な研究は、地下に建設された巨大なリングの中を陽子、電子を飛ばして行うことを想像するが、ジュンは、その基礎的な研究はすでに終わり、実用化への研究を進めていた。

“反物質が現実化すれば、敵対する国など一瞬にして消せる”。小野寺の言葉が、たまによぎる。“ふざけるな。この研究は、人類の将来を豊かにする為の研究だ”そう信じながらもこの研究所自体、海外と日本の巨大企業が合同出資して作られたものだ。

当然、いくつかの国も関わっている。日本もその一国だ。だが、このことは、時の総理大臣さえ知らない。“万一悪用に走るなら全ての情報を消す。この研究の自らの力で”そう思い始めていた。あの情報さえ見なければジュンは、純真に研究に没頭していただろう。


「神崎主任、明日のMTマネジメントチームへの報告資料が、できました。目を通してもらえますか」

その声に振り向くと、何も知らない研究員が、真面目な顔で声をかけた。

「分かった」

 別に紙の資料がある訳はない。全ての資料は、厳格にアクセス権が決められている所定のフォルダに入れられている。

 神崎は反物質の研究主任。月一回開かれるこの研究所のMTに報告する責任を負っていた。

 この研究もフェーズⅡが終了しようとしていた。フェーズⅠは、基礎研究、フェーズⅡは、基礎研究で得られた情報を実用化に持っていくためのシナリオを作るフェーズだ。

実際には、実用化するに当って、一番効率的な方法を構築する。研究員から報告のあった、資料を見ながら明日の報告の方法を考えていた。


「神崎さん、RM651のロジックの設計レビューをしてくれ」

桂浜は、仕事を依頼しながらナオミの顔を見た。“確かにレベルは高い。普通の技術レベルなら難しさに時間を必要とする。だが、この女は、自らの技術で時間を短縮している。その上、この器量。俺には理解できないカテゴリの人間だ”。桂浜は、神崎の両親の事故死は知っているが、その裏事情までは知らなかった。

桂浜の言葉にナオミは、頷くとRM651と名前のついたフォルダを開けた。いくつか入っているドキュメントの中で指示された資料見て一瞬だけ目を見張った。“マザーアクセスコードの生成ロジック”。ランダム関数にアクセス時の時間位相を加え、更にカルダノ分解論を加えたロジックであり、解析は不可能だ。

ナオミは、数十ページに及ぶ資料を一時間ほどで読み終わると、指摘事項を記入して、更新コードを付加してセーブした。

「桂浜主任、終了しました。今日は、もう帰宅したいのですが、よろしいでしょうか」

声の主の方を見ながら桂浜は声が出なかった。“バカな。普通なら三時間はかかるぞ”。依頼したのは午後三時。普通なら六時位かそれ以上かかるだろうと思っていた。それだけにナオミの仕事のスピードに驚いた。

「ちょっと、待ってくれ」

そう言って、直ぐにナオミの更新した資料を見ると、確かにしっかりと仕事をしていた。頭の中であきれながら

「分かった」

と言うとディスプレイに顔を戻した。

桂浜はナオミがプロジェクトルームから出るのを見計らって弦神のところに行くと

「弦神リーダー。何者ですか。あの女」

「どうした」

桂浜は、弦神のそばによると小声で今の事を話した。それを聞いた弦神は、何も言わず自分の目の前にあるキーボードにタッチするとディスプレイにナオミの顔と履歴が映っていた。

「神崎ナオミ」

その言葉を口にするとディスプレイを見た。ここに来る前の同期のリーダーからも優秀だとは聞いている。しかしここまでとは思っていなかった。

弦神は、心の中に少しずつだが、確信し始めたものがあった。“後はあの餌に食いつくかだ”そう思うともう一度、ディスプレイに移るナオミの顔を見た。


「ジュン、今日、とても素晴らしい資料を見たわ」

“なにっ”という顔をすると

「マザーDBのアクセスコードの生成ロジックの設計資料よ」

「えっ」

と言うと姉の顔を見た。

「あの生成ロジックならば、この前の方法を使えばいくらでもアクセスできる」

うれしそうに話す姉の顔見ると

「お姉さん、ちょっと待って。内調のプロジェクト入ってどの位だっけ」

“何を聞いているの”という顔をしながら

「まだ、二か月よ」

その言葉に

「お姉さん。何もしないで」

“えっ”という顔をするナオミに

「この前のマザーDBにアクセスして得た情報。お姉さんの荒木とかいう部長ではないという仮説をもし立てたとしたら、今回、内調のプロジェクトに動いたお姉さんを疑うというロジックになる。お姉さん、動かないで。餌かもしれない」

「餌」

ナオミは、その明晰な頭で考えると“確かに”と思う節は、あった。荒木部長が消された後、弦神がわざわざ、自分を呼んで荒木部長の事を聞いた。

その時は気にしなかったが、今ジュンが言ったことを考えると、なぜあんなことを言われたのか分かったような気がした。

「分かったわ。ジュン何もしない」

そう言って二人で久しぶりに早めに家に帰り、食事をした後、飲んでいるブランディグラスを口元にしながら頷いた。


あの銃撃戦の後、東高円寺の家には行っていなかったが、親から継いだ家であり、下手に引っ越しでもするとそちらが疑われると思った小野寺は、この家を元に戻すことにした。

 銃撃戦は、一切メディアに現れることはなかった。それだけに組織の力が分かった。高円寺の駅に一週間ぶりに立つと直接、家には向かわずにあえて逆方向に行った。

相手は、今のマンションは知らないが、いずれ高円寺に戻ると予想して駅や自分の家を見張っている可能性があったからだ。

家と反対方向の左に出るとあえて人通りの少ない方向に歩いた。付けられていれば直ぐに分かる。二〇〇メートルほど後ろの注意しながら歩いたが、誰も付いてこないことが確認できると、やや大回りしながら家の近くに歩いて行った。

じっくりと家の周りを一回りしながら見て、誰もいないことを確認すると、派手に割った窓をまず見た。

“あちゃー。さすがにあんなことがあったから泥棒は入らなかったようだが、部屋の中はボロボロだ”。覗き見ながら、玄関に戻ると一度ドアをしっかりと見た。

今風のドアではなく。引くと大きな音が出るようになっている引き戸の玄関だ。引き戸の周りに仕掛けなどないことを確認すると、ゆっくりと引き戸を引いた。

“ガラガラ”と大きな音を立てて開いた。ゆっくりと一歩入ると家の中を見た。“ラグダナクラッカー”のおかげで部屋の中がボロボロだ。爆発すると一〇〇個の鉄球が中から飛び散る殺傷を目的とした手投げ爆弾だ。

一度、二階にも上がり様子を見たが、特に爆発物が仕掛けられていないことを確認すると完全に割られたリビングの窓をシートとガムテープで塞いだ。ソファやサイドテーブル、テレビなどはボロボロだ。

“くそっ、安給料なのに。買わないといけないじゃないか”そう思いながら片付けて始めた。

「小野寺が自宅に戻りました」

習志野の市街地にある建物の地下にある部屋の中で、あの後、家の中に移動物を感知するセンサーを部屋の天井隅に分からないように仕掛けた。

「分かった」

サングラスをかけた男がそう言って頷くと

「当分、監視対象とする」

それだけ言って部屋を出た。この前派手に立ちまわった挙句、確実に仕留められなかったことや、マスコミへの圧力など不必要な手間をかけたことに上層部から“指示あるまで監視のみ”という命令が出ていた。

“まさか、銃で応戦してくるとは。それも護身用の小さな銃じゃない。軍用だ”そう思うと“たかだか警察官一人の口封じなど容易い”と甘く見ていた自分に腹が立った。

 それだけに“次は確実に仕留める”と考えていたところに上層部からさっきの命令が下りて来た時はショックだった。

 “自分は命令を実行するだけの立場だ”と思うと自身で消化するしかなかった。


弦神は、神崎ナオミが“餌”に食いつかなかったことに“上層部の勘違いか”と思いながら自分のデスクの右斜め向こうに座りながら仕事をする女性を見ていた。

あれ以来、何も起こっていない。“誰も動いていないのか。それとも準備しているのか。気が付かないだけなのか”ジレンマを感じながら

“荒木はあのデータなど必要なかったはずだ。敵対する企業に情報を売ろうしていたのか。しかし、結局あの後、荒木の背後を調べたが、何も出てこなかった。上層部は別に犯人がいると判断してその時、荒木と接触した神崎ナオミに目を付けたが、何も出てこない” 

何かあれば腕ずくでもと思っていただけに少し残念な気もしたが、プロジェクトに参画するナオミの姿勢を見ているとそれも薄れていった。


二人は一カ月の間、ただ普通に仕事をした。“明らかに自分達が、怪しまれていると分かった以上、変な素振りを見せることだけは、しない方がいい”と判断したからだ。

ジュンは、今日も自分の研究室で研究資料をまとめる為、ボストンにあるケネパル・フォーミュラボストン研究所のDBを検索していた。研究資料と言っても、すでに実用化にめどを付ける為の資料だ。“反物質を利用して人類の進歩に役立てる”。それはジュンの夢であり、使命だと思っていた。

ケネパル・フォーミュラの研究主任以上にアクセス権限のあるURLをクリックして、ディスプレイに表示されているサブジェクトの一覧をスクロールした。目の前を流れる莫大な情報に一瞬、ジュンの目が止まった。

“これは・・”サブジェクトの起草者の名前を見て、マウスの上部にあるスクロールラグを止めた。

“神崎建夫”。間違いなく自分の父の名前がそこにあった。文献の名称は、“反重力を利用した空間移送について”と書かれている。

 ジュンは、素早く、カーソルをそのヘッダーに当てると、直ぐにクリックした。サブジェクトの下に書かれている概要の中身は、それを開けなければ開くことができない。

“アクセス不可、どういうことだ。僕の権限で見れないサブジェクトはない”もう一度クリックしたが、結果は、同じだった。

その頃、習志野にある建物の地下室で

「デザートにアクセスしているものがいます」

世界中に飛び交う情報を分析し、必要な情報や自分たちの利益にならない情報の発信源を突き止めて処理する組織だ。

国家機密漏洩阻止を目的として作られ、ケネパル・フォーミュラの研究の漏洩阻止も目的としている裏の表情も持っている。表面上は、国際科学アカデミー出資の関連企業である。

情報サーチをしているオペレータからいきなり報告が上がった。コードネーム、トランザムこと戸野上が、サングラスの下にある目をそちらに向けるとジャックが、オペレータのディスプレイを見ていた。


「アクセス元は、ケネパル・フォーミュラ東京研究所」

その言葉に

「間違いない。動いたな」

「いや、まだだ。この文献は、あいつの作業範疇にある。単に父親の名前が出ているからと興味でアクセスしたのかも知れない」

ジャックこと柴森恭介。戸野上の同僚だ。

「どちらにしろ、監視を強めるか」

戸野上の言葉に柴森は頷くとそばにあるキーボードを叩いた。


「お姉さん、ボストンに行ってくる」

愛おしく、そして心のよりどころにしている目の前に座る弟の突然の言葉に大きな目を更に大きく開いて

「どうして」

ジュンは、“じっ”とナオミの瞳を見ると

「お父さんの資料が見つかった。“反重力を利用した空間移送について”というサブジェクトでボストンのケネパル・フォーミュラのDBに保管されている。東京からではアクセスできない。ハッキング保護の為、現地アクセスのみ許可されている」

「だからってジュンが直接ボストンに行かなくても。仕事の資料だと言って、向こうから送ってもらえば」

そんなことなどできない事を分かっていながら口にする姉を見ながら

「お姉さんだって、理解しているだろう。僕たちの研究に媒体などあり得ない。全ては完全な管理下にあるDBのみに保管されている。現地に行って見るしかない。何かつかめかもしれない」

弟の瞳の中に光る強い決意に

「いつ行くの」

「表向きは、今の研究の延長線上でボストンにあるサブジェクトを参考にするという理由だ。社内手続きがあるので、今週末になる」

「そんなに早く」

寂しそうな目をしながら言葉を口にする姉に

「なるべく早く帰ってくる」

そう言って目の前に座る姉の瞳を見た。



ジュンは、自分の研究の為に調べていたデータベースの中に父、神埼建夫の資料を見つける。だが、それは、ボストン研究所まで行かないと見れない資料だった。だが、そのアクセスは、ある組織によって気づかれていた。ジュンは、ボストンに行きますが。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ