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秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
6/12

第三章 展開 (2)

ジュンとナオミは、荒木から手に入れたマザーへのアクセスコードと指紋認証を利用して海外のサテライト経由とプロバイダを使用し、アクセスした。

だが、その結果として荒木は消された。

二人は小野寺に再度会いに行くが、想像もできない状況に追い込まれる。

第三章 展開


(2)

“反重力物質の敵性国家に対する有効利用について”

余りにもショックな内容だった。

「ばかな、反重力物質の研究は、将来、人間が地球上で化石エネルギーが枯渇した時、それを必要としなくても良いようにするための壮大な計画だ。なぜ」

「ジュン、お母様とお父様は、ジュンの言ったことを実現しようとしたのよ。だからここに書かれていること反対したのよ。だから殺された」

ナオミは体に自分では理解できないエネルギーが湧いてくるのが分かった。

「ジュン、このデータすぐにダウンロードする」

「お姉さん、そんなことしたらばれるよ」

「任して、全ては荒木の性にするから」

そう言うと荒木のPCに一度ダウンロードした。そしてシンガポールの民間プロバイダ、UKのサテライトを通じてUSのサテライトのテンポラリのフォルダに一時的にダウンロードした。

そして一度、通信を切ると、今度は、UKのサテライトから、今度はシンガポールのサテライトを通してUSのサテライトに置いてあったデータを自分のPCにダウンロードし、データの置き場所を直ぐにゼロサプレスした。削除だけでは簡単によみがえる。更に各サテライトのログを時刻前後が合うように削除した。

全てはUS国家機密246暗号化を利用した。これは、USエアフォースが使用しているデフコンワンの時しか利用しないコードだ。


「お姉さん、これをどこで」

目に止まらないほどの程のスピードでキーボードをタッチしていたしなやかな指先が止まると

「ジュン、子供のお遊びよ」

そう言って微笑んだ。ナオミの理解できないレベルの能力にあきれながら、ノートPCにダウンロードされたデータを見た。

「この内容は僕のテリトリーだ。お姉さんは、当分静かにしていたほうがいい。荒木が表から消えてお姉さんに手が回っていないことが分かるまで」

ナオミは頷くとジュンの顔を見た。

ナオミは、横に座るジュンの顔を見るゆっくりと体を寄り添った。頬をジュンの肩にかけながら預けるようにしながら

「ジュン、少しの時間でいい。このままにさせて」

“お姉さん”心の中で思うとゆっくりとナオミの背中に手をまわした。


ジュンは、翌日出勤するとすぐに研究の合間に、ケネパルフォーミュラのマスターDBにアクセスした。知識参照レベルではアクセスモニターから気にされるレベルではない。反重力物質プロジェクトの情報を“あいまい検索”で行い、表示させた。

 そこには、研究目的と研究の進捗、今までに得た成果など、他のプロジェクトメンバーが自分の研究の糧にするためにアクセスできる範囲だ。ジュンの研究内容や研究主任の立場を考えれば、誰も疑うことはない。

“なぜ、両親が、僕と同じ研究の世界に”ジュンは両親からは“貿易をビジネスにしている”と聞いていた。だから出張が多く、一緒に母が付いて行くのは、何も疑問を持たなかった。

しかし、今になって見ればお母さんも参画していたことになる。自分たちのDNAを考えれば納得のいくことでは、あったが。

 反重力物質の研究は、人間にとって大きな利益をもたらすものであった。アニメの世界には良く出てくるが、現実的には、何もつかめてない・・・はずだ。

グラビティを司る物質があるとこまでは分かっているが、それが何であるかなど一般的には知る由もなかった。

 だが、現実の裏の社会では、すでに“それを武器として使えるか”というところまで来ている。あまりにも異なる世界だ。だが、一般には知らないことが、人として生活していく上では、幸せなことが多い。

 生まれた時から、事故を除けば“いくつまで生きられる”という情報など普通の人は知りたくないだろうから。

ジュンは、一般より少しだけ深く得れる情報を目にしながら、次の手段を考えていた。


「お姉さん、今週末、もう一度小野寺のところに行く」

はっきりした目でナオミに言うと何も言わずに頷いた。

「あの時の男、要注意だ。行く時は自分たちの後ろも気をつけよう。駅から直接行くのをやめて、この前行った時に知った、公園を回るように行こう。そうすれば、後ろを取られることもないだろう」

ジュンは、自分も考えを言うとナオミは、何も言わずにまた頷いた。こういうことは、やはり“自分よりジュンの方が”と思うと自然にほほ笑んだ。


習志野の市街地から外れた一角にある建物の地下室でマザーDBから重要情報がアクセスされたという情報を入手した二人の男たちがディスプレイを見ていた。

「ジャック、これをどう見る」

「トランザム、間違いないだろう」

「発信元はずいぶん手を混んでいるが間違いない。日本からUSのサテライト、UKのサテライト、シンガポールの公共プロバイダを通してアクセスしている。ここまでできる人間はそうそういない。その上、パスと指紋認証までUSのエアフォースの戦時暗号化を利用するという手の込みようだ。お遊びではないだろう」

「しかしこのボケ顔がか。信じられないが」

サングラスの中で見つめながら

「公安に知らせるか」

「いや、俺たちだけで片付ける。こいつは間違いなく“S”だ」

トランザムこと戸野上は、サングラスの奥で不気味に“ほくそ笑む”と専用WSに映し出されている男の顔を見た。


「ジュン、今日はいないわ。あの男」

自分たちが歩いて来た後を注意深く見ながらナオミの声に

「気を抜かないで行こう」

やがて、小野寺の家の前に付くと時計を見た。まだ、九時前だ。余程でない限り、出かけていることはないだろう思うと、家の前が見える場所で体を潜めるように待った。

人が通る時は、いかにも物件を探しに来た風に装う。二人の姿は、これから住む家を探す、新婚さん位にしか見えないのだろう。うれしそうにほほ笑みながら通り過ぎて行った。


目的の玄関が“ガラガラ”と大きな音を出して開けられると、間違いなく小野寺が出てきた。こめかみの上にガーゼが張ってある。二人は顔を見合わせて不思議に思いながら、潜んでいた路地から出た。

そのまま後ろを付いて行くようにすると表通りに出る前に声をかけた。

「小野寺さん」

いきなり後ろから声を掛けられ、一瞬身構えた。小野寺はこの前と同じようにいきなり襲われると思うと、攻撃と防御を一体化した側刀展開をし、相手の右に素早く動いた。

 同時にジュンはすごい速さでナオミの前に立つと防御の姿勢を取った。寸でのところで腕の動きを止めた小野寺は

「神崎さんか」

そう言って姿勢を戻した。ジュンを鋭く見ると

「何か用か」

二人は、いきなりの展開に少しだけ時間が必要だった。

「人の後を付けるのは、あまり良くないな。まして現役の警察官の後など付けるものじゃない」

そう言って“くるっ”と体を回すと、通りの方へ歩こうとした。


「小野寺さん、話があるのですが」

その言葉に姿勢を変えずに背中で“何の用だ”ともう一度表すと

「アンチグラビティ」

その言葉に小野寺は驚いたように振り返ると周りを素早く見た。

「下手に口にするものじゃない」

厳しく、そしてやさしく二人を見ると

「もう、そこまで知ってしまったのか。荒木は利用されたんだな。お前たちに」

「えっ」

「その顔を見ると知らないようだな。もっとも知られるはずもないが」

「どういうことですか」

今度は、ジュンとナオミが鋭く小野寺を見返した。二人の視線に

「戻ろう。ここじゃ話すのは無理だ」

そう言って、自分の家の方を見た。


「荒木は消された。表向きはUS転勤だ」

その言葉に二人は、目を丸くすると

「いっただろう。あれに関わるなと。関わったものは利益にならない限り、この世から消える。それほどまでに危ないんだよ」

「どういうことですか」

「もう調べたんじゃないのか」

「反重力物質を現実世界で実用化し、敵対国を無効化させる。神崎君、君のプロジェクトも同じだ、反物質が現実化すれば、敵対する国など一瞬にして消せる。原爆のように後腐れはない」

小野寺の言葉を飲み込むのに時間がかかった。二人は、言葉が、理解できるまで少しの時間が必要だった。

「それに反対した両親は、国に消された」

「国じゃない。もっと大きなものだ」 

それ以上言わない小野寺が二人を見た時だった。いきなりガラスが割れて、何かが投げ入れられた。

一瞬小野寺は、顔が引きつるようにしながら

「隣の部屋へ行け」

叫ぶように言うと、ジュンは瞬間的に理解してナオミの体を信じられない力で強引に抱いて隣の部屋に飛び込んだ。小野寺も同時だ。

その瞬間、今までいた部屋から物凄い音と光が放たれ、それと共に小さな破片が飛び散った。開いている部屋の入り口から入りこんだそれは、三人がいる部屋の入り口から見える部分を跡形もなく破壊した。

「グレナダクラッカー」

小野寺は思わず口にすると投げ込まれたガラスの方に、腰に着けていた銃を瞬時に抜くと、弾膜を張るように三発ほど打った。窓ガラスがけたたましい音と共に割れるのが分かる。

「動くな」

そう言って二人を制した。表口はおろか、裏口も危ないと悟った小野寺は、二人に顔を向けて顎を上にしゃくる様にすると廊下に一度出ると二階に上がらせた。

窓を少し開けて外の様子を見る。誰もいない。ゆっくりと窓を開けてベランダに出ると大きな鉄板を開けて、据え置きの階段を降ろした。覗き込むようにして誰もいないことが分かると

「すぐに降りろ」

小野寺の言葉に、ジュンは先に降りて安全を確かめるとナオミを降ろさせた。最後に小野寺が降りると

「今日はここまでだ。いずれ話すことがあるだろう。今日は帰れ。裏から公園を通って帰れ。俺は連中を引き付ける」

意味が分からないままに小野寺を見た時、自分たちがいた部屋で同じ爆発音があった。

「急げ」

そう言うと二人に指示した方角とは、反対の方向に走りながら銃を連射した。二人は、目を見つめるとすぐに小野寺の言われた方角に走った。

 後方で銃声が聞こえる。周りに人影はない。ジュンはナオミの手をしっかりと握りながら必死に走った。裏通りから公園を抜け人通りが多くなり始めたところで走りを歩みに変えた。周りの人は、“何しているんだ”程度にしか見てないのが幸いだった。

歩きを一度止めて、服装に気を付けると

「ジュン、帰ろう」

ナオミの言葉に頷くと

「お姉さん、明日は日曜日だ。今日はどこか泊まろう。僕たちの事が知られているとは思いたくないが、用心は必要だ」

ジュンの言葉に頷くと少しだけ微笑んでだ。


ジュンは、あれほどの騒ぎがあったのにと思ったが、夕方のどの放送局も、何も報道していない。“どういうことだ”と思うとナオミを見た。

「相当にまずい見たいね」

「ああ、それにしてもここまでとは」

あの後、二人は、街を散歩するようにして誰も後を付けていないことを確認した。食事をして、映画を見て、時間をつぶしながら人の気配を感じようとしたが、何もないと思うと家に帰ることにした。

家に戻る前にも念入りに周りの様子を見たが、特に見はられている様子がないことを確認すると家に入った。二人で交互にシャワーを浴びリビングで落ち着くと、すでに夕方の六時を過ぎている。

東高円寺の一件は相当に派手だった。TVの報道で何かやっているだろうと思ったが、何も報道されていない。

「お姉さん、ここ数日は何も動くのをやめよう。特にお姉さんは注意して。荒木の件がある。一切、関わるようなアクセスはしないようにして」

「分かっている。ジュンもね」

頷くとナオミの瞳を見た。自分たちが考えている世界とは違ったスケールを感じていた。


 ナオミは永田町の一角にあるビルに入り、いつものように自分のデスクに付くと弦神が声をかけた。

「神崎君、君の前の上司の荒木部長は、USへ転勤になったそうだ。何か聞いているか」

「いえ」

表情も変えずに答えると

「そうか。それだけだ。仕事に戻ってくれ」

頭を下げて自分のデスクに戻るナオミの後ろ姿を弦神は、“じっ”と見ていた。


小野寺は、二人を逃がした後、激しい撃ち合いの末、何とか逃げることが出来た。相手は分からないが、今回の一連の事件の関わっているエージェントだろう位は、想像が付いた。

しかし、あれだけの派手な事をしたのに、TVのニュースは何も言っていない。“ヤバイな”と感じていた。

“俺も荒木と一緒になるのか”死体も何も見つからない。表向きはUS転勤だが、家族への連絡は一切なかった。失踪したと思った家族から警察に調査依頼が出たが、実際は調べる事はないだろう。


“ここを利用するとはな”。東高円寺の家は、両親から譲り受けたものだ。警察官の給料は安い。だが、信用はある。年を取っても一人で困らないようにと買ったものだ。まだローンが残っている。家具は少しずつ買い揃えた。

“この分じゃ、署に出ても大丈夫だろうか”しかし、まさか桜田門に喧嘩は売らないだろうと思うと出る事に決めた。それに手が回っていれば、すぐに分かる。

小野寺は、今更ながらに職業柄を考えて手に入れておいた銃を見た。“S&WMODEL4506(スミス&ウェッソンモデル4506)”。口径45ACPの大型拳銃だ。古いタイプだが、安定性が高い。少し大きいが、自分の手のサイズなら問題ない。

小野寺は、役目柄、必ずしも表の顔だけではない。その筋から手に入れたものだ。ソファから起き上がり、サイドボードに行って、ジョニーウォーカーの黒ラベルを取ると、その後ろにある箱も手に取った。その箱を見て、口元をゆがめるとソファに戻った。

ソファの前の低いテーブルに、ベルトから外したフォルスターに入ったままの銃を置いた。そしてスコッチと一緒に持ってきた二つのパッケージもそこに並べて置いた。

銃弾は二パック。二〇発入りパッケージが二つだ。マガジンに八発、銃身に装填していれば九発は、入れて置くことができる。

“まさか使う時がくるとは”。今日は七発を発射した。ライフルマークは、まだ未登録だ。持主は分からないだろう。

小野寺は、フォルスターから銃を抜くと安全装置がセーフティになっているのを確認した。グリップの上にある小さなボタンを押すと滑るようにマガジンがグリップから抜け出た。装填されている弾も抜くとバレルを覆っているスライドの先端を左回しにして外すとスライドをゆっくりと取った。バレル本体を取るとバレルの下にあるリコイルスプリングも本体から丁重に抜いた。

そしてオイルを少しだけ布に付けて、その布を専用のバーに巻き付けるとバレルの中に差し込んで拭き取った。結構汚れている。

署でも射撃教練の時は、行っていることだ。汚れをすっかり拭くと手早く組み立てた。そしてテーブルの上に銃を置いた。

目の前にあるショットグラスにスコッチウィスキーをグラス半分くらい注ぐと左手で口元に運んだ。ゆっくりとそして一気に口の中に入れるとその芳香と味を楽しみながら喉に通した。“ツン”とくる感覚がたまらない。グラスをテーブルに置くと片方のパッケージのふたを開けた。

パッケージから一つ一つ弾丸を取り出すとテーブルに並べた。そして一発ずつをしっかりと確かめるように見るとマガジンに丁寧に装填した。万一、ずれや変形があれば、つまりや暴発につながる。

マガジンだけをフルパックするとグリップの底からゆっくりと入れる。最後に“カチッ”と音がすると口元を笑うようにゆがめた。

装填は行わずに安全装置をセーフティモードにして。それをしっかりと確かめるとして銃をフォルスターに収めた。

テーブルに置いてあるショットグラスにスコッチを今度は並々と注ぐと、一気に飲み干した。



何者かに二人と小野寺は、小野寺の自宅にいる時、襲われた。明らかに三人を殺すことが目的とした攻撃だった。

だが、その事件はどこのマスメディアも取り上げないことに相手の組織の大きさが見えた。

次回もお楽しみに。

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