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秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
5/12

第三章 展開 (1)

上司の荒木を利用してナオミは、マーザーへのアクセスコード(パスワード)と指紋を手に入れた。ジュンと家に戻った、ナオミは、直ぐにアクセスしようとしたが、ジュンは「今は、危険だ」とそれを止める。

そして、ナオミはついに内調のプロジェクトに参画するが。

第三章 展開


(1)

二人は家に戻るとすぐに荒木から採取した指紋をパレートに移した。

「これでアクセスできる」

ジュンは、そう言ってほほ笑むとナオミはバッグからパスコードの書いたノートを取り出した。

ナオミは、ノートPCを立ち上げ、鍵マークのついたアイコンをクリックすると

「お姉さん、待って。パスコードは荒木のもの、今アクセスしたら、すぐにお姉さんだと分かってします。荒木が普通の仕事、そう特に出張に行っている時がいい」


ジュンの言葉を理解したナオミは、ノートPCを閉じると

「ジュン、シャワーを浴びてくる。あいつの匂いが染みついているようで」

ジュンが頷くとバスルームに行った。今日着て行ったワンピースは、すぐにクリーニングに出すつもりだ。

ワンピースを脱ぐと薄いキャミソールを取って自分を見た。昼間、あいつから見られても大丈夫なように胸を覆うようなピンクのブラをつけていた。

眉間に少しだけしわを寄せるとナオミは手を背中にまわしてブラのホックをはずした。今まできつく締められていた形の良い胸が“ふっ”と軽くなる。ゆっくりと右腕と左腕からブラのひもを外すと形の良い胸が鏡に映った。

“この体は、あの人のもの”そう思うとパンティに手を掛けた。


ジュンは、自分のベッドルームに行って寝る支度をしているとナオミがノックして入ってきた。バスタオルだけ巻いていた。

「ジュン、約束よ」

瞳が潤んでいた。

「忘れさせて。あのいやな気持を」

「分かった」

そう言うとナオミの体を優しく包んだ。


数ヶ月前、あまりの心の苦しさに、初めて体を委ねた。二人で生きていくといった以上、ナオミは他の男と体の関係は持たないと心に誓った。昔から他の男には興味を持てなかった。それは、何が原因か心の奥で少しだけ分かっている。

あの事件がなければ、それは胸の奥にしまい込んだままだったろう。だが二九歳の体は、初めて異性を要求した。仕方ないと思った。ジュンに初めて話した時、驚きのあまり声を出さなかった。

だが、自分がしっかりと弟の瞳を見つめながら近づき、自分の胸に手を持って行ってあげた。ジュンは戸惑ったようだったが、自分の真剣な眼差しを見ると優しく抱いてくれた。


自分の体の上を離れ横になった可愛い弟に

「ジュン、ありがとう」

そう言って、頬に口付すると

「大丈夫よ。あいつには触れさせてない。私の体はジュンのもの」

そう言って思い切り抱き締めた。

「分かっていた。それにお姉さんを見ていれば分かるよ。これからだ。問題は。お姉さんは、どうする。うまくしないと荒木に付け込まれる」

「大丈夫よ。あいつのせいにさせるから」

そう言ってほほ笑むとジュンの体の上に乗って口づけをもう一度した。


 翌日、ナオミは、出社すると部長席に座る荒木を無視するように自分のデスクに行った。荒木の視線が自分の背中に食いついているのがわかる。だが、それを無視して仕事をしていると今のプロジェクのマネージャから呼び出された。

「神崎君。どういうことだ。今朝いきなり荒木部長から呼び出され、君を内調のプロジェクトに回せと言われた。あそこは、女性が耐えられる職場ではないぞ」

「分かっています」

しっかりと目の前で椅子に座る男に言うと“じっ”と見た。

「わかった。事情は分からないが、そこまで意志が固いなら、向こうプロジェクトのマネージャに言っておく。あいつは俺の同期だ。うまく伝えておく。しかし、君が抜けるのは痛いな」

そう言って、本当に困った顔をした。


 普通、プロジェクトが変わってもデスクが変わることはないが、内調のプロジェクトは違う。国家機密事項を管理するシステムの構築及び保守をするため、政府管轄の建物に移動することになる。

 二人の目的はそれだ。“荒木のパスコードは都合よく使わせてもらう”そう思いながら自分のデスクに戻った。

 私物を整理していると

「えっ、神崎さんどうしたの。机片付けたりして。会社、辞める訳ないよね」

その言葉に周りの男が振り向いた。周りはほとんどナオミのファンだ。いつもそばにいることが生きがいに思っている男もいる位だ。

「大丈夫よ。会社は辞めないわ。プロジェクトが変わるの。部長命令」

少しだけ寂しそうな振りをすると

「許せない。なんで、なんで神崎さんがプロジェクト変わらなければいけないの」

「私にも分からない。でも上司の命令だもの」

いかにも自分が強引に移動させられるようなそぶりを見せると

「荒木の野郎、今度飯に下剤入れてやる」

「俺も許せねえ」

「横断歩道から突き落としたる」

周りの男の同僚が、本当に怒りをにじませながら言葉を出すと、ナオミは心の中で“ごめん、みんな。私もここにいたかったのだけど”そう思って少しだけ本当に寂しそう目元が緩むと

「神崎さん、送別会しよう」

「そうだ、そうしよう」

「うん、ありがとう」

そう言って、うれしそうな顔をした。


「ジュン。うまくいった。今度内調のプロジェクトに移動する。荒木のパスコードを使わなくてもある程度は調べることができる」

「お姉さん。気をつけて。そのプロジェクトは常にアクセスをトレースされていると思う。僕のところもそうだから」

「分かっている。うまくやるわ」

そう言ってほほ笑むと目の前のグラスに手を向けた。

ジュンは、姉のナオミが動いている以上、自分自身は下手に動いていらぬところから疑われるよりナオミをサポートして静かにするだけだと思うと研究に没頭した。同時に動くのは、どちらかが、危機に陥った時に動けなくなる。


 ナオミは、内調のプロジェクトに移った。永田町の一角にあるセキュリティセンターだ。普通の人は、存在すら知らない。

 ビルの入り口と入館位置にある非接触型のパスはもちろんのこと、ホールでの動きは全て監視されている。

 更にプロジェクトルームに入る前にロッカーで個人の備品は全て入れ、仕事に必要な物だけを持っていく。そして片手全体の静脈認証をパスするとプロジェクトルームに入れるのだ。中に入れば、食事はもちろんの事、仮眠施設も備えられ数日はプロジェクトに没頭できる。

 ナオミは、スラックスにブラウスのいでたちで出社した。普段見慣れない背の高い物凄い美人に、この建物の中に入っていく男たちは注目した。


「誰だ」

「知らないのか。あれが噂の神崎ナオミだ。我社では、創業以来の才女と言われた女性だ。その上、超美人」

「もてるんだろうな」

「それが、そうでもないらしい。噂では、彼がいないということだ」

「信じられない。まさか、あっちか」

「それも違うみたいだ。美人過ぎて、声が掛けられないのだろう」

「へーっ」

その声をよそにナオミは、ゲートを通過した。廊下を少し歩くとガラスに“NIP”と書かれたドアがあった。それを開けると入り口近くにいた、男が“えっ”という顔をした。それは感染症のように瞬く間に部屋の中に広がった。

 ナオミは自分が見られているのを無視して冷静に部屋の中を見ると総勢で二〇名程度、女性は三人だった。奥のデスクに男が座っている。

 ナオミは、みんなの視線を無視して机の間を通るとそのデスクの前に行った。

「神崎ナオミです。荒木部長の指示により着任しました」

そう言って、前プロジェクトリーダーから渡されていた書類をデスクの上に置いた。

その資料を開けて見ながら

「プロジェクトリーダーの弦神だ。宜しく頼む。君が前にいたプロジェクトリーダーは私の同期だ。先に連絡は貰っている。“相当に優秀な人材だ。期待していいぞ”とい言葉をもらっている。私も期待する」

そう言うと顔をあげて、ナオミの顔を見た。そして少しナオミの左方向を見ると

「桂浜さん」

手で来るようにという仕草をした。弦神も自分より前からこのプロジェクトにいる桂浜には一目置いている。プロジェクトの内容が内容だけにローテーションが聞かない。ただ一生いる訳にはいかないので、フェーズが終わると副メンバーはリリースする。

 設計は個々にクローズしたルーチン形式を取っている。個別のシステムだけでは、中身が分からないように情報は分断されている。

だが、個々のシステム単位を連携する上位層の部分を担当するメンバーはおのずと長くいることになる。

 桂浜は、そのメンバーの中でも最古参だった。内調プロジェクト全体を見渡していると言ってもいい。それだけに弦神も一目置かざるをえなかった。

「神崎さんに教えてあげてくれ」

そう言うと、後は“興味無い”という仕草で自分の仕事に戻った。

「神崎さん、こっち」

と言うと視線をナオミの左後ろに向けた。


「ここが、君のデスクだ。聞いてはいると思うが、このプロジェクトは、情報機器の持込み、持出しは一切許されない。この机の上にあるPCを利用してくれ。ミーティングの時は、ミーティングルームにあるシンクライアントからデスクトップで自分のPC入って資料説明になる。ペーパーは一切使わない。

 ナオミは、周りのデスクを見ると確かにペーパー類はなかった。

「では、早速、君の分担を説明する」


 その日、ナオミの歓迎会が開かれたが、建物の中にある、レストランの一角だ。この建物の中と外は簡単には出入りできない。その為に、仕事が終了し、明日の仕事で泊らないといけないと人間の為にアルコール類も格安で提供されている。

「今日から、我々のプロジェクトに参画してもらう神崎さんだ。宜しく頼む」

その後、全員の紹介があった。ナオミにとっては何者がいるか分かるこの場は貴重だった。だが、一切、外との連絡が取れないことはジュンとの事を思うと都合が悪かったが、得られる情報を考えれば比較できなかった。


「ジュン、ただいま」

「お姉さん、お帰りなさい。どうだった」

その言葉にナオミは少し目元を緩ませると

「ゆっくり話すわ。リビングで待っていて」

玄関を入るとリビングいるジュンに声をかけて自分の部屋に入った。バッグをサイドデスクに置くとドレッサーの前に行き、ゆっくりとブラウスのボタンをはずした。

ナオミは、少し疲れていた。本当はこのままバスに入り横になりたかったが、まだ九時前。ジュンにも今日の事は話さなくてはいけないと思うと、ドレッサーに移る自分の顔を両手で少し押して気を引き締めた。

こういう時は、ジュンに抱いてほしいと思ったが、二人の関係を考えれば、そうそうに、心に流される訳にはいかなかった。

部屋着に着替え、バスルームで手を洗うとリビングに行った。

「お姉さん、何か飲む」

リビングに入ってきたナオミの顔を見てジュンは“疲れているな”と思うとブランディか何かで、心を和らげてあげたほうが良いと思っての言葉だった。

「ありがとう。ジュンに任せる」

そう言うとジュンの隣に座った。ソファは向き合いに二つあるが、ナオミはジュンのそばにいたかった。

 姉の言葉にジュンはサイドボードからヘネシーのVSOPを取り出すと足の短い口元が少しだけすぼまったグラマラスなグラスに三分の一程注ぐと、自分の分は左手にナオミの分は右手に持ってソファに座った。

「はい、飲むと少し落ち着くと思って」

そう言って、右手に持ったブランディグラスをナオミの前のテーブルに置いた。

「お姉さん」

自分のグラスを右手に持つとナオミを見た。目の前に座る美しい女性を見つめるとその女性ひとは、ゆっくりと右手をグラスに向けた。

 手に持つグラスを弟のグラスと同じ高さに持っていくとほほ笑んで口元に運んだ。“カチッ”と合わすような“げす”な事はしない。

 その姿を見たジュンは、自分もグラスを口元に運ぶとふくよかな香りを楽しみながら少しだけその琥珀色の液体を口に含んだ。一瞬にして口の中、全体に広がると舌先に残る液体をゆっくりと喉の奥に持っていった。

 ナオミは、何も言わずにブランディを口に含むとジュンを見つめた。

「お姉さん、疲れているんだね」

ジュンの瞳を見ながら顎を“コクン”と頷くと、少しだけつらそうな眼をした。

「お姉さん、大変だったらいいよ。明日の朝、少しだけ早く起きて、おいしいコーヒー飲みながら話そうか」

下を向いて首を横に振ると顔を上げて、

「大丈夫、今日の事は、大切だから」

そう言って話し始めた。


「お父さん達が、関係していたプロジェクト。まだ何も見えない。ただ小野寺が言っていた言葉から必ずマザーに情報がある。とにかくきっかけを掴まないと調べが始まらない」

一度言葉を着ると

「お姉さん。そろそろあれを使おう」

ナオミの瞳が一瞬だけ輝くと何も言わずに頷いた。

ナオミは、リビングのテーブルの上に置いてあるノートPCを開けると鍵のマークのアイコンをクリックした。

 そして、更にグリーン画面を表示させると、コマンドに続いてUSの民間に公開されているサテライトにアクセスした。更にそこからUKのサテライトにアクセスするとシンガポールの民間プロバイダーを通してグローバルフロンティア東京オフィスの荒木のPCにアクセスした。

今日から荒木は一週間、USへ出張している。都合の良い時期だ。当然荒木はUSで自分のPCにアクセスする為、起動したままにしている。荒木のPCの中にあるデスクトップコマンドを利用してマザーへアクセスした。

要求されたパスコードに荒木のパスを入力して指紋認証機で荒木の指紋を読み取らせるとマザーが開いた。

「すごい」

思わずジュンは声を出した。一般には知られてはいけない情報が信じられない量で入っていた。

「お姉さん、湾岸事故の件、入力して」

何も言わずにナオミは頷くと指先を動かした。ほんの少しの時間待っていると

「これは」

ジュンは表示された余りに受け入れがたい内容に信じられない思いで見ていた。


ナオミは疲れた体を奮い立たせ、ついに荒木のアクセスコードを利用して、マザーへのアクセスを試みる。ジュンとナオミは、その内容に驚きを隠せなかった。

いよいよ、両親の死の真相を調べる、二人の本格的な動きが始ります。しかし、それは、険しい山を登るより大変なことでした。

次回もお楽しみに。

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