表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
4/12

第二章 インフォメーション (2)

湾岸線で思わず会った小野寺の口から、両親は事故死ではなく、殺されたのだと知った。彼の乗った車のナンバープレートより、彼の居場所を知った二人は、もっと事件の詳細を聞くべく、出かけるが。

第二章 インフォメーション


(2)

「お姉さん、行こうか」

「うん」

 あの後、家に戻るとジュンは、ナオミに小野寺から聞いたことを話した。ナオミの反応は、冷静だった。

 ジュンの話を聞き終わると、リビングにあるノートPCを持ち出し、すぐに稼働させた。デスクトップにある、鍵のマークの付いたアイコンをクリックすると、ジュンから聞いた車のナンバーを入力した。すぐにスクリーンに持ち主の住所が映し出された。

 ナオミは、表示された住所を見ながらジュンの言葉を待った。

「お姉さん、今週末、行こう」

言葉も出さずにナオミは頷くともう一度ディスプレイを見た。


今日は、車は出さない。そこに着いた時の状況を考えると動きにくいからだ。パステルのブラウスにブルーのスカート、白いハイヒールを履いた姉のナオミを見ると弟でも“ドキッ”とする位美しい。

輝くように肩先から胸元まで伸びた髪の毛、切れ長の大きな目に“すっ”とした鼻に吸い込まれるような潤った唇、それを際立たせる顔の輪郭。形が整った少し大きめの胸。そして身長一七二センチの姿は、そばにいるだけで十分に引き寄せられる。母方の血を濃く引いているのが分かる。

 ジュンは、そんな姉のナオミが、なぜこの年まで男が出来ないのか不思議に思った時もあったが、今となっては、そのことも理解できていた。

ただそれは、一般的には許されることではなかった。だが、二人だけで生きていくと誓った以上、それは必然的なことであったかもしれない。


 駅までの通り道でも明らかに自分たちが歩いて行く方向からくる人が、ナオミの姿を見ているのがはっきりとわかった。

近くの駅から下高井戸で乗り継ぎ新宿駅まで行くと二人は、都営丸の内線に乗った。降りたところは“東高円寺”。改札を出て階段を昇り、地上に出ると目の前は大きな道路だ。

ジュンは、湾岸警察署に努めている小野寺がなぜこんな遠くに住んでいるのか分からなかったが、車のナンバープレートは、ここの町の住所を特定していた。

地上に出てから左にある小さな公園を通り、少し行ったところを右に曲がる。車のナンバーから突き止めた住所はもうすぐだ。

閑静な住宅地を周りの状況を把握しながら歩いていると、目的の住所の前に男が立っている。というより隠れるように家を見ている。

ジュンとナオミは歩みを止めて手前の横道に体をひそめた。目的の住所、湾岸警備隊の小野寺の家の前に誰かがいた。

上背はジュンと同じ一八五センチ位だ。サングラスを掛けがっちりとした体で、少なくともサラリーマンのような容姿ではなかった。

身なりはきっちりとしている。普通に道路すれちがったら、どこかの優秀な商社マン風にしか見えない。だがその物腰は明らかに訓練を受けた人間のこなしだった。

二人は、そのままその様子を見ていると、目的の家から人が出てくる気配がした。その男は、すぐに脇に隠れると出てくる人間を、サングラスをかけていても分かる位、しっかりと見ている。

出てきた男は小野寺だった。小野寺がこちらに向かってくる。仕方なく、自分たちがいる道路の反対側深くまで離れると小野寺は、自分たちが来た駅方向に向かった。少しして先ほどの男がついて行く。

二人は、更にその後を追うようについて行くと小野寺は、駅の方に向かって行った。更に信号を渡り反対側の道路に行くと少し下る坂道を下りて行った。男がついて行くようにすると二人は、信号を渡らずに見ていた。


「お姉さん。今日は帰ろう」

姉のナオミに説得するような瞳で言うとナオミも頷いた。明らかに自分たちが、立ち入る状況ではないことが分かった。下手に関わって危ない状況に陥ることほど二人とも愚かではない。

 都営丸の内線に乗り新宿に出るとジュンは、ナオミの顔を見て

「お姉さん、食事して行こう」

「ここで」

姉の言葉の意味が分かると

「じゃあ、渋谷に行こう」

嬉しそうに頷くとナオミはジュンに寄り添った。周りから見ればうらやましいほどのカップルにしか見えない。

 ジュンは身長一八五センチ。姉と同じ切れ長の大きな眼に短めの髪。精悍な顔立ちの青年だ。普通に歩いていれば女性が振り返るほどの容姿だ。その二人が歩いていればいやでも人の目を引く。

 山手線で移動すると渋谷で降り、横断歩道橋を渡り少し二四六を三軒茶屋方面に歩くと左手前方にエスカレータが見えた。

二階に上がり、反時計回りに右側から歩くとロビー階になる。中に入り左奥手にあるエレベータホールに行った。ジュンは三四階のボタンを押すとナオミの顔を見た。嬉しそうに目元を緩ましている。

「久しぶりね。ここに来るの」

「ああ、何年ぶりかな」

「そうね。お父さんとお母さんに連れて来られたのだからもう五年くらいだわ。確か、ジュンの就職祝いだと言って」

両親の事がでると一瞬だけ悲しそうな眼をしたが、

「ジュン、おいしいご飯食べよう」

何も言わずに頷くとエレベータが到着するのを待った。やがてドアが開くと右手に行って左を見た。ウエイターが立っている。


「ご予約ですか」

と聞いたので

「いえ」

と言うと二人の姿を見て

「お二人様ですか」

何も言わずに頷くと

「こちらへ」

と言って前を歩いた。


「ジュン、あの男」

まだグラスに残っている赤ワインの空気とワインが触れ合う一線の透明な部分を見ながらナオミは言葉を出した。なにも言わないままに姉の目を見ると

「お姉さん。小野寺が言っていた言葉。“あれは、事故じゃない”と。お父さんとお母さんの僕たちに見えていた仕事とは違う、なにか僕たちには知らない世界の仕事。それが見えない限り今度の件は、むやみに深み入ることはできない」

真剣なまなざしで言葉をナオミに向けると姉の瞳を見た。そして言葉をつなげる様に

「お姉さん、頼みがある」

そう言って更に深くナオミの瞳を見た。


「ジュン」

言葉を切るともう一度

「ジュン、いいのね」

「うまくやってくれるといいのだけど」

「私も自信ない。どこまでうまくできるか」

「でも、お姉さんの会社を利用するしかない」

「わかったわ。でもお願いがある」

しっかりとジュンの瞳を見るとジュンは、顎を引いて頷いた。


 翌月曜日、ナオミは会社に出社すると真直ぐに荒木部長の所に行った。いつものようにセクレタリに入れさせたコーヒーを飲む荒木のデスクのドアをノックすると、左手で持っているコーヒーを置いて新聞を机の上に置いた。

 初め“どうせ、また無理な決済だろう。誰だ、持ってくるのは”と思いながら新聞を置く荒木に、ナオミはまんべんの笑みを作りながら

「荒木部長」

と言った。あまりにも想定外の訪問者に一瞬だけ躊躇する姿見ながら、言葉を置いてナオミも少しだけ躊躇するように

「お話があるのですが」

その言葉に荒木は鼻下が机まで伸びるような顔をして言葉だけは、はっきりと

「何だね。話とは」

と言った。

「会社では、ちょっと」

と言うとますます、荒木は、目じりまで下がり始めながら

「では、今晩夕食でも一緒にするか。話を聞いてあげよう」

そう言ってコーヒーを持とうとして手元が狂った。机にコーヒーをこぼすと、

「あーっ、やっちまった」

とい言って、自分の座る机の横にあるサイドデスクからティッシュを取り出そうと体を向けると、ナオミはすぐにそのティッシュを取り、わざと荒木に近づくように机を拭いた。 

今日は少し胸元に緩みのあるワンピースを着ている。前かがみに胸元が少し見えるように拭くと明らかに荒木が、視線を思い切りそこに注いでいるのが分かった

ナオミは吐き気がする位気持ち悪かったが、ジュンとの約束を果たすため、わざとそうした。

荒木は、ナオミの胸元から見えるほんの少しのピンクのブラにたまらない顔で

「あっ、かっ、神崎君、悪いな」

と言いながら、嬉しそうに胸元を見ていた。ナオミは、拭き終わると

「荒木部長、これで大丈夫です。では夜に」

そう言って、お辞儀をして更に胸元を見せるようにするとそのまま部長室を出た。荒木は、心臓が飛びだしそうになりながらトイレに走って行った。


「お姉さん、頼みがある。お姉さんの会社のマザーにアクセスしたい」

「えっ」

一呼吸置くと

「あれは、国の情報網につながっているのよ」

「だから、アクセスしたい。お父さんやお母さんの事故の真相を知るためには、あれを使って調べるしかない」

「でも、あれは厳しいセキュリティパスがあるわ。それに指紋認証も」

「だから、頼んでいる。お姉さんの上司の荒木は、アクセス権を持っているだろう」

「でも指紋は」

ジュンは少し下を向くと

「荒木の手を優しく合わせるように握ってほしい。その後、すぐに触った手にこれをつけてくれ」

そう言って、薄い被膜のようなシートを出した。

 その次の日、ナオミは、前かがみになると少しブラが見えるくらいのワンピースを着て出社した。ブラも中年には、刺激的なピンクのブラを付けている。そして荒木の部屋に行ったのだ。


「神崎君、話とは何だね」

食事が終わり、ナオミをバーに誘った荒木は、下心丸見えでナオミにわざと寄り添うように座った。ナオミは、下を向きながら

「部長、両親のことで」

そう言って少し、涙ぐむようしぐさを見せると、ますますナオミに近づいてきた。荒木は、自分のお尻が、ナオミの柔らかいお尻に触れるように押しつけながら

「うん、うん、聞いてあげよう」

そう言って、ナオミが自分の膝の上に置いてあった手を、触って握った。

「部長」

ナオミは荒木の顔を見ながら

「苦しいんです。両親の事を考えると。でも思い切り仕事をして忘れたいと思っています。

私を内調のプロジェクトに入れてください。あれに入れば気がまぎれると思うんです」

荒木は一瞬、目を丸くしたが、ナオミが顔を近づけた。香水の匂いが荒木の鼻に触れた。荒木は、体が揺れる思いでその香りを嗅ぎながら

「分かった」

と言うとナオミの顔を思い切り見ながら顔を近づけて

「手続きが必要だ。パスコードも教えないといけない。でもここでは口にすることができない。場所を変えないか」

荒木の下心が丸見えでも従うしかないと思うと、しおらしく下を向きながら頷いた。荒木は天に昇るような気持ちでナオミの手を握りながら

「じゃあ、行こうか」

そう言って立ち上がった。荒木は有頂天だった。

バーを出てエレベータに乗り、客室に入るまでずっとナオミの手を握っていた。部屋に入ると荒木はすぐに上着を脱いだ。

「とりあえず、ブランデーでも飲みながら、もう少しい話そう」

荒木は、サイドテーブルにあるミニボトルのブランデーをグラスに分けるとナオミの前に置いた。

「部長、少し用事が」

意味の分かった荒木は、

「うん、早くしてくれ」

 ナオミは立ち上がるとバッグを持ってバスルームに行った。すぐにバッグからジュンから預かった薄い被膜のシートを取り出すと、シートを一度はがして荒木が触っていた、部分のいろいろな個所にその被膜を触れさせた。そしてもう一度シートで被膜を保護させるとバッグに仕舞った。

 後は、想像するだけでもいやな、荒木の匂いの付いた手を必死に洗った。やがて手をきれいにするとバスルームから出てきた。

「長かったね」

ナオミは頷くと

「奇麗にしておかないと部長に恥ずかしいから」

そう言って恥ずかしそうにほほ笑むと荒木はもうたまらなかった。居ても立っても居られない思いで立ち上がり、ナオミの腰を持つようにもう一度ソファに座らせると体を重ねようとした。

「部長、パスコードを教えてくれると」

「後でいいじゃないか」

「だめです。約束です」

荒木は唇をカワハギのようにしながらナオミに近づいたが、今の言葉とナオミの両手で自分の胸を押しのけられると仕方なく

ソファサイドにあった。ノートに備え付けのボールペンで十二桁のパスコードを書いた。

「これでいいだろう。もう」

「だめです。部長の体を奇麗にして頂いてからでないと」

荒木は、ナオミが覚悟を決めたのかと勘違いして、自分を落ち着かせると

「そうだな。女性に失礼だった。私はバスを使ってくるから、ブランデーを飲んで待っていてくれ」

そう言って、バスルームに消えた。ナオミは、すぐにバッグから手帳を取り出し書き写すと、バッグからもう一つの小さな袋を取り出した。それを自分のグラスに入れると荒木が出てくるのを待った。

 やがて、体を上気させた荒木が出てきた。バスタオル一枚だけ腰に巻いている。君も入るかね。ナオミは頷くと

「部長、もう少し一緒にブランデーを頂いてから」

そう言って、わざと荒木が飲んでいたブランデーグラスを持った。

荒木は“ふっ、そこまでやるか。この女結構好きなのか”そう言いながらナオミのグラスを持つと一気に飲み干した。ナオミは、持っていたグラスの荒木が口をつけていないところを唇に当てて飲むふりをすると

「部長、バスを利用します。待っていてください」

そう言って、わざと腰を振るようなしぐさでバスルームに消えた。バスルームは荒木の匂いで臭かったが、我慢してシャワーを最大限で出した。

大きな音と共に蒸気が上がっている。それに触れないようにしながら一〇分ほど待った。バスルームのドアを少し開けると荒木がぐっすりと寝ていた。バスタオルがはだけ、荒木の自身が丸眼であった。

 ナオミは汚物でも見るようにその姿を見ながら部屋のドアを開けると、急いでエレベータに乗り、ロビー階に行って外に出た。車止めで赤いフェラーリが待っている。急いで近づき助手席に乗るとジュンの顔を見て頷いた。


ナオミは、会社の上司、荒木部長よりマザーのアクセスコードと指紋を手に入れるため、少し危ない橋を渡ります。良かったですね。あの時、自分のブランディを飲まされていたらと思うと、ちょっとです。

さて、次回、いよいよ本格的な展開になります。お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ