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秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
2/12

第一章 いたずら (2)

ジュンとナオミは、両親が亡くなった場所へ行った。そこの景色はとてもトラックが横転して、両親の車が火を噴くなどあり得ない、まっすぐな道路だった。ますます、不審に思う両親の死に二人は今はどうするもこともできなかった。

第一章 いたずら


(2)

「ジュン、行くわよ」

玄関で弟に視線を投げると目の前にいる弟が頷いた。エレベータで一階に降りると左に折れてすぐに右に行くとドアを開けた。

手も持つキーのオープンのマークが描かれている部分にタッチした。目の前にある車のウィンカー部分が軽く輝き、ドアのロックが外れる音が聞こえた。

 まるで、待っていたかのように赤いシルエットの車が、“いつでも”という姿を見せていた。ジュンは、姉より少し早く歩くとその車の右のドアを開けた。

ジュンは、左側の運転席に体を沈みこませるように座ると姉のナオミも沈み込むように座った。

 ナオミは、弟の顔を見て微笑むと静かに腰を落とす様に体を沈めた。ドアを閉めると自分は、フロントが側から左に回るとドアを開け腰をゆっくりと沈めた。

 キーを差し込み、軽く手前に回すと背中から心地よいストレートV8サウンドが聞こえてきた。ETCカードを装着し、その音声を確認すると、右手に持ったシフトレバーをゆっくりと手前に引く。

 目の前にあるディスプレイに“D”マークが表示されると、サイドブレーキを左足で解除した。

「お姉さん、行こう」

そう言ってナオミの横顔を、前を見ながら流し眼で確認すると右足をアクセルに軽く乗せた。踏み込む必要はない。100キロ位までは、アイドリングとほぼ変わらない回転で走れる。ゆっくりとしたスピードで駐車場から、マンションの前にある車止めに出るとポーターが深く頭を下げた。それを左横目に見ながら右に回るように門に行くとそのまま左へ曲がった。

 一つ目の信号を更に左に曲がり二四六に出ると、少しだけ背中に静かにしていたストレートV8が、少しだけ微笑んだ。

 ジュンは、その微笑に応え様としたが、一般道であることを考えると、そのまま静か走らせた。

やがてインターから首都高三号線に乗るとジュンは少しだけアクセルを踏んだ。強烈にシートに体が押し付けられる。

 ナオミが少しだけ目元を緩ませると運転するジュンの横顔を見た。膝の上には、両親が好きだった、大きな赤いバラと小さなオレンジのバラ、そしてお父さんが大切にしていたレモンの枝が花束にして乗っている。


“なぜ湾岸道路に。あの日、両親は御殿場にあるアウトレットに行くと言っていた”。

ナオミは、いつものように、子どもでも恥ずかしいくらい楽しい顔をして帰ってくるお母さんとお父さんが好きだった。今日もマンションの前で“これからインター出るよ”という言葉しか考えていなかった。しかし、二人に突然飛び込んできた情報は“湾岸道路での両親の自動車事故”だ。

 不思議だった。両親の乗る車は、耐久性や安全性においても世界一を誇る。いくらトラックがぶつかり横転したと言っても火が噴くような事はあり得ないトラックと正面衝突してもコンパートメントは守るように作られている。

 焼けただれた両親の姿を見ながら、ただ“不審に思う二人は、県警に現場検証を強く要求したが、湾岸警備隊は、あくまでも事故として片づけた。それさえも不審だった。

 ジュンとナオミは、戻ってきた車を見ても何も分からなかった。だから二人で調べることにした。両親と自分たちの為に。

 

 やがて、二人が乗る真っ赤なフェラーリは、三号線から高樹町のジャンクションを環状に入ると流れに乗り、さらに次のジャンクションを右に入り湾岸線へ向かった。ジュンは、緩めていたアクセルを少し踏みこむと心地よいエンジンサウンドと共にタコメータの針が跳ねあがった。周りが流れるように過ぎていく。一緒に走る車が止まっているようだ。

 夏も終わりの東京湾は、風が弱く白波も立っていない。気持ち良い風景を見ながら更に進むとやがて、湾岸線に流入した。


“両親の事故に遭遇した場所はもうすぐだ”そう思いながら車を走らせるとゆっくりと左車線に寄った。そして、本来は止めてはいけない路肩にゆっくりと止め、ハザードランプをオンにするとゆっくりとドアを開けた。

 すでに、あの時の事故の後は、綺麗になくなっていた。ナオミは、持ってきた花束をフェンスのそばにゆっくりと立てかけると、“じっ”とその場を見た。

“お父さん、お母さん”心の中に刻んだ言葉を口には出さずに思いながら見つめた。

そして膝を折ると二人で手を合わせた。“なぜ”という思いだけが募った。そしてお父さんとお母さんのほとんど焼け爛れた体を目にしながら、“捜して”という言葉が頭の中に入ってきた。

必ず本当の事を明らかにする。手を合わせながら心も中で誓うと立ちあがった。そしてナオミの瞳を見つめると軽く頷いて車に戻った。

車道を見てもトラックが横転するような処はない。まっすぐな三車線が続いているだけだ。

 “いきなり、トラックが横転して、そこの横を通った両親の車がはじけるようにガードレールにぶつかり、横転すると発火した”と言っていた。“無理がありすぎる”説明に納得がいかなかった。右から左に通り過ぎる車が“こんなところで”と言っている気がした。

ただ、なぜか、悔しさだけが混みあがってきた。“なにも分らない”と言う現実に。

ジュンは、ナオミに視線を送るとまるで同じ思いをしてかのように瞳の中に思いを表していた。

「お姉さん帰ろう」

一言だけ言うと、ジュンはハザードランプをオフにしてアクセルを踏み込んだ。思い切りストレートV8のパワーユニットが吠えた。強烈にシートに押さえつけられるままに、タコメータとスピードメータが跳ね上がった。日本車は、180km+10だが、輸入車は、全く関係ない。

今の感じた思いを吐き出すようにジュンはアクセルを踏んだストレートV8が自分の役割だと言わんばかりに、その本領をはっきりする。軽く200kmを越えるとジュンはゆっくりとアクセルを緩めた。いつの間にかシフトレバーを持つ右手に姉のナオミに手が重なっていた。

「ジュン」

それだけ言うと涙を目元に浮かべながら、自分の耳には聞こえない言葉を口が表現していた。


「お姉さん、じゃあ、ここで」

「行ってらっしゃい。ジュン」

長い、休みの後、二人はお互いに会社に戻ることを決意した。“このまま時間を過してもなにも解決できない。それならば積極的に動くしかない”だが、なにも分らないまま時間が過ぎた。

 やがて、心の中にある強烈なまでのエネルギー少しずつ落ち着いてくると、とりあえず職場に戻ることにした。もう一ヶ月は過ぎている。

 別れ際に微笑むと二人は、方向が反対の電車に乗る為に別れた。ナオミは、踏切を渡り左に折れてホームに行った。

 ナオミは、ジュンの姿を見送るとホームに入ってきた電車に乗った。三軒茶屋方面に走る電車の中で高井戸方面ホームで待つ弟の姿を見た。

ジュンは、姉と視線が合ったのが解る。周りに気付かれないように少しだけ微笑むとパッドに視線を落とした。

パッドは、研究所のサーバと連動しており、スケジュールが見えるようになっている。朝一番の会議が入っていないことを確認するとパッドを閉じて窓の外を見た。

“何か外に出ない理由がある”ジュンは、事故現場の状態を確認しながら、ほとんどブレーキ跡もないままにトラックが横転した道路を記憶に置きながら考えていた。

“しかし、なにをどうやって調べれば”。解らないままに下高井戸に着くと京王線を調布方面線に乗った。


ジュンの務める研究所は、“ケネパルフォーミュラ”。自然界にありながら人工的には作り出せない物質の組成を研究するという超自然科学的な研究だ。例えば反物質。一般には“存在は認められているもの組成はおろか、影形も解らない”とされている。しかし、それを人工的に生み出せれば・・。そんな途方もない研究の主任だ。

研究所の入館に一切の私物の持ち込みは許されない。非接触式IDをかざし、ゲートを通過すると右に折れた。更に壁の右にあるパネルにIDをかざすと中に入った。

奥のロッカーに上着やスラックスを脱いで、研究着に着替えた。小物を全て入れるとロッカーを閉じた。着替えた後、三メートルの表面はセラミックにしか見えない通路を通り、全面ゲートのランプがブルーになれば、施設内に入れる。もしレッドの場合、入館はおろか、瞬時に警備員が来て有無を言わさず、引きだされる。

もちろん人間がセンサーを見ている訳ではない。全てメカニカルにそしてシステマティックに動作している。

ジュンは、通路を通り、アイルですれ違う他の職員からの声かけに応じながら、研究施設の奥にある、自分の研究室に行った。既に研究員は来ていた。


「みんな、おはよう」

その声の主に他の研究員が振り向くと一瞬だけ寂しそうな眼をしたが、ジュンが装って元気な姿を見せたので、すぐに明るく返答した。

「主任」

その言葉に部下の思いを感じると

「この研究は、長い時間を必要とする。しかしそれは人類の明日に一つの光を見出すものだ。決してその炎を絶やさず、未来に向っていく事が、今、我々がこの場所にいる意味だ」

静かな一瞬の時間の後、割れんばかりの拍手が起こった。若い研究者達は、目の隅を浮かべている。

“決して、許さない”その言葉だけが、強くジュンの心に残った。


 ナオミは、三軒茶屋から田園都市線に乗り換えると青山一丁目で降りた。地下鉄から道路に出ると自分が幼い頃とは違った、もう通いなれた風景が有った。

慣れた道をそのまま歩くと反対側から歩いて来る人たちが、自分を見ているのが分かる。いつものことと思いながら道路から少し奥まったところにあるビルの中に入って行った。

 IDをゲートにかざしながら通り、そのままエレベータホールに行く。見知った顔の女性がナオミを見つけ、少しだけ我慢した瞳を投げながら

「おはよう、大変だっだね」

その言葉に何も言わずに頷くと到着ランプの着いたエレベータに乗った。

エレベータを右手に降りて、更に回るように右に行き少し行ったところの左側にナオミのオフィスが有る。ビル全体は、ナオミの務める会社の持ちビルだ。


 ナオミは、すぐに部長のデスクのある透明のガラスの部屋のドアに近づくと、すでに部長はデスクに座っていた。ドアを開けて、頭を下げると

「大変だったな。もう落ち着いたのか。神崎君が不在なのは痛いが、落ち着くまで出社しなくてもよかったのだぞ。社長も気にしておられた」

湾岸道路での派手な事故のおかげで、会社中に知れ渡ってしまっていた。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

そう言って、微笑むと切れ長の大きめの目が少しだけ潤むように見えた。荒木は、立っているだけで引き寄せられる部下の神崎に、そのような顔をされると自分が思い切り泣きそうなたまらない表情で

「うん、うん。君は強いんだな。頑張ってくれ」

そう言ってナオミの体に触れそうになった瞬間、“サッ”と身を引いて頭を下げると部長の部屋を後にした。背中に部長の視線がはっきりと意味している思いを感じていた。

デスクに戻ると隣の同僚が

「荒木の奴、どさくさにまぎれて、神崎さんに触れようとしたの、丸見え。気をつけたほうがいいよ。ここ当分」

「ありがとう」

と言って微笑むと

「いいな、神崎さんは、美人だし、背は高いし。頭はいいし。ちょっと反則気分」

そう言って微笑むと自分の席に戻った。

 隣に座る同僚の女の子に微笑むとPCを立ち上げた。


二人は、とりあえず、職場に復帰します。その二人を職場の仲間は快く向かい入れます。

次回からいよいよ動き出します。お楽しみに。

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