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秋風が運んだデスティニー  作者: ルイ シノダ
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第五章 決着 (2)

ジュンは、家に戻るとナオミの姿を見て何が起こったのかすぐに理解した。ジュンは、自分を見たナオミの気持ちが落ち着くまでずっとそばにいた。そしてついに戸野上から手に入れた情報を世界のメディアに流します。

第五章 決着


(2)

 ジュンは、大切な姉の心が落ち着くまでずっとそばにいて、さっきまでの事を思い出していた。

ジュンが部屋に入って来るとナオミはバスローブのままジュンに近付き、何も言わないままにジュンの右胸に顔を埋めると声を出して泣いた。ずっと泣いていた。泣きながらただ、“ごめん、わたし、わたし・・”と言って言葉を“とぎり”ながら、ただ泣いていた。ジュンは、腕を柔らかく背中に回しながら

「お姉さん、何も言わなくていい」

その言葉に更にナオミは泣き声が大きくなった。ずっとそのままでいるとやがて泣く止め静かに横にあるベッドに腰を落とした。

そして何も言わず、ただ下を向いていた。ジュンは、やさしく左に座る姉の背中に手を回すと自分の左肩から流れる弟の腕を左手で自分の頬に持って来て、ずっとそのままにしていた。


 だいぶ時間が経ったような気がした。“ふと”ドレッサーの上にある姉の素敵な置時計を見ると一八時半を回っていた。帰って来てすでに二時間半が経っている。

 やがて、ナオミが体を起こし、ジュンをしっかりと見ると

「ジュン、始めましょう」

そう言って、鋭くジュンを見た。ジュンはナオミの顔を見て頷くと今度はジュンがしっかりとナオミの瞳を見た。そして

「お姉さん、この情報をメディアに流す。このプロジェクトに参加している国と敵対する国全てに」

「ジュン、流した後は」

「姉さん、もうこのマンションには居れない。お父さんたちが別荘に使っていたオーストラリアのバースに行こう。あそこは治安も安定している。だけどその前に」

 二人はリビングの行くとナオミは何も言葉にせずただ頷いてレコーダーをUSBでPCに接続した。

そしてデスクトップにあるアイコンをクリックすると、目の前でレコーダーの情報がテキストに変換されていく。一通りの内容を確認すると今度は音声データを確認した。

ナオミは横に座る可愛い弟の顔を見て、その瞳に迷いがない事を確認して頷くとその細く長い美しい指でエンターキーを押した。


日本時間は夜七時。時計方向に時間が浅くなる。アメリカ西海岸は一七時間差だ。だが、各国のメディアは眠っていない。

「何だ、これは」

最初に気づいたのは、習志野郊外のビルの地下にある情報収集を専門に行っているオペレーターだった。だが、それはほんのコンマ何秒の差だ。北半球の国と南半球の国が、その情報に気付いたのは、ほぼ同時だった。


「なんだ」

「信じられない」

「どうするんだ」

「とにかくホワイトハウスへ」

これから夜になる国とこれから朝が来る国、そしていま、昼間の国のメディアと各国の諜報機関が一斉にその情報を知ることになった。


「お姉さん、直ぐに着替えて。一時間もしないうちに連中が来る」

ナオミは頷くと自分の部屋に戻り、着替えると化粧もせずに目先必要なものをバッグに入れリビングに戻った。

 ジュンはすでに着替えている。動きやすい格好だ。そしてナオミのPCとチップ型の小さなレコーダーをバッグに入れると

「お姉さん、行くよ」

ナオミは、心の中にはっきりと決めたものが有った。一階の駐車場に行き、十分になじんだフェラーリのインジェクションにキーを差し込んだ。

そして向こう側に回すと直ぐに発進させた。いつもは十分にアイドリングし、エンジンにオイルを回してからスタートする。だが今日はその時間がない。

ジュンは心の中で“ごめん、フェラーリ”そう思いながら、少しハンクラ気味にゆっくり走り表通りに出ると思い切りアクセルを踏んだ。

「二人がマンションを出ました」

耳に小さなイヤホーンを付け、口元に小さなボタン型のマイクを持ってきて言うと、イヤホーンの着いている耳に手を当てて、指示を聞いた。

「了解」

それだけ言うとその男は、一見一〇〇〇CC程度にしか見えない車に乗ると、その容姿に似合わないエンジン音と共にものすごいスピードで追いかけ始めた。


ジュンは、首都高環状を湾岸に進みながらラジオを付けた。日本のメディアが一斉に緊急放送を流している。

「これは本当でしょうか」

「信じられません。反重力とか反物質とか、アニメの世界なのではないですか」

「今時点では、何も分かりません。直ぐに習志野に有るこの組織にレポータが着くと思います。その報告を待ちましょう」

 ラジオから流れてくる声にジュンは微笑みながら助手席に座る姉のナオミの顔を見た。ナオミはジュンの視線に気がつくと左を向いて微笑むと

「もう少しよ。あいつらが表に引きずり出されるのは」

そう言って、微笑んだ。

フェラーリは、成田に向かい気にされないギリギリの速度一三〇キロで巡行させた。だが後方二〇〇メートルの左車線をぴったりとついて行く車が有った。


二人が発信した情報は、ケネパル研究所に参加している国、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国そして日本を震撼させた。

これらの政府は必死にメディアに対する強硬な姿勢を取り、情報が一般人に知れるのを押さえたが、民間ネットワークは、騒ぎ立てた。

一度漏れた情報は世界中を駆け巡る。今回の研究から外されていた南半球の国々は、研究に加わっていた国に対してその情報の全面開示を要求した。

自分達が途方もない危機にさらされていると知った、中東各国、シリア、レバノン、イラク、イランや親米派だったサウジアラビアやイスラエルは、露骨なまでに反米意識を表に出し、各国はアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、日本の大使館の閉鎖と大使の拘束及び関係者の外出禁止を行った。


日本の時の総理大臣“名部晋太郎”は、その肉の固まったような顔を引きつりながら

「公安委員長どういうことだ。この情報が流れ出るとは」

「はっ、我々も予想すらしていませんでした」

「バカ者。これは歴代の首相が引き継いできたものだ。なぜ私の代になって漏れた」

国家公安委員長は、肉に固まった顔を引きつらせ、ものすごい形相で食いつくように罵声を浴びせる首相に、何も言えないままに下をただ向くだけだった。

野党は、緊急の調査委員会を招集した。その中で首相は、必死に否定したが、野党特に、先の選挙で負けた門主党と他の野党はこれがチャンスと徹底的に追及した。


ケネパルフォーミュラ東京研究所は、取材陣と一般民間人の押しかけに、直ぐに公安の治安部隊と警察によってバリケードを築いた。

“自分たちの研究は絶対に外に漏らすわけにはいかない。万一にも漏れたら地球上の生命の存続に関わる”そう思った研究所長は、公安に指示を出した。もちろん習志野に有る施設にも。

しかし、今回の情報に反応した検察は普段から快く思わない公安と警察を叩くチャンスと見て、法律に照らし国家安全維持活動を名目に座間に駐屯する中央即応連隊に出動を要請した。


中央即応連隊司令部は、始め何を言っているか分からなかったが、“反物質”の言葉に反応し特殊作戦群と中央特殊武器防護隊まで出動させた。

静かな東京の市街地にいきなり物々しい自衛隊が乗り込んできて、周りの住民は、最初パレード程度にしか思わなかったが、東京研究所からの最初の銃声に一斉に、自分の自宅に逃げ込んだ。

研究所内には、拳銃と軽機関銃程度だったが、それでも到着して間もない部隊へのいきなりの攻撃に中央連隊は一時的に混乱に陥ったが、三〇分もしないうちに体制を立て直した。

やがて、攻撃箇所を特定すると前面に軽装甲機動車を立て攻撃を開始した。さすがに拳銃と軽機関銃では軽装甲機動車の装甲には歯が立たず、三時間時間ほどで公安と検察のバリケードは崩れ、その後六時間で完全に研究所を中央連隊が制圧すると、翌日には各県の検察の協力を得た東京地検は、二〇〇〇人の体制でケネパルフォーミュラ東京研究所に乗り込んだ。


 習志野に有る国際科学アカデミーでは、学校運営を表向きにしながら、実態は国家機密漏洩阻止とその処置を目的としたために、その実態と機構を知られることは国家転覆にもなりかねないと判断した公安は公安直属の治安部隊を出して抵抗した。

東京研究所のレベルではない。重機関銃と対戦車ロケットランチャーも装備した完全武装集団だ。

初め松戸にある部隊だけで簡単に片付くと考えていた自衛隊は、アカデミーの隊員たちと公安の治安部隊との間で激しい銃撃戦になった。

習志野にある国際アカデミーのビルは、周囲五〇〇メートル、高さ三メートルの壁に囲まれ外からは一切見れない。軽装甲機動車が、対戦車ロケットで破壊されるに至り、危機感を覚えた東部方面隊は、この状況に遂に木更津、大宮、土浦の部隊まで投入した。

だが、反撃は、厳しく一進一退の攻防が続いた。攻防は、二日間に及び、激しい抵抗に手を焼いた自衛隊は、遂に主力戦車、一〇式戦車八台を投入し四方向から攻撃を仕掛けた。


「まさか、自国で、それも東京近郊でこいつを打つとはな」

そう思いながら、指揮車に乗る小郡三尉は、装填手の合図に五〇メートル先にある打ち間違えることない三メートルのでかい壁に向かって目の前に有るボタンに指をふれた。

 無反動砲とはいえ、四四口径一二〇ミリ砲は、それなりに体にショックを感じながらスコープを見た。四メートル四方で完全に壊れている。やがて埃が収まると口に有るマイクに

「小隊前進」

と叫んだ。そして四四トンの重々しい車体がキャタピラの音をきしみさせながら前進し始めた。

 一〇式戦車を投入してから更に四〇時間も掛けてやっと地上部分を制圧したが、建物の地下通路にはトラップが仕掛けられ、まともに進むことはできず、地下三階にある情報収集室に辿り着くまでに自衛隊側は、実に一〇〇人を超える死傷者出した。

さらに、そこを攻めていた東部方面大宮駐屯地第三二普通科連隊がドアに爆薬を仕掛けようとして近付いた時、中からドアが吹っ飛ぶほどの爆風とともに決着がついた。

これだけで自衛隊側は一〇人を超える死傷者を出した。指揮をしていた中隊長が入った時は、まるでがれきの山だった。

結局、今回の問題となった総理大臣“名部晋太郎”は終身刑となり、与党民自党は解散、二度と党が再結成されることはなかった。かといって野党門主党も民自党とコネクションの有った党員との激しい確執の中で民意を得られないでいた。


しかし、日本で起こったことはほんの些細なことだった。ついこの前まで敵同士だったシリア、レバノン、イラク、イラン、そしてサウジアラビアは、一度結束すると紀元前からの仲は結束が固く、イギリス、フランス、アメリカの懐柔も全く効かず、ますますそれらの国に対する政治的攻撃は激しく、核攻撃も辞さない姿勢を見せた。

その中でロシアは、大統領モンハントンを公開処刑する形で決着を付けた。各国のメディアの攻撃と南半球の国、特に盟主と思っていたイギリスから裏切られた思いの強いオーストラリアは、国交を断絶し駐イギリス大使を拘束、大使館員を全員軟禁状態とした。

アルゼンチンもかつての戦争の恨みをイギリスに向け、軍艦によるドーバー封鎖を行った。

これにより、イギリス元首バーモントは終身刑、アメリカ合衆国大統領バリントンは実に三〇〇年の刑に処せられた。


 一見して半重力、反物質の騒ぎは収まった様に見えた。しかし、それは新たな第三国の勃興と争いの火種にしかならなかった。“まるで水爆が、赤子のおもちゃ”でしかないほどに。

世界中を驚かせたこの事件から一年後、南朝鮮が反物質の実用化に至り、各国の忠告を無視して、敵対する北朝鮮に対して反物質を使用した攻撃を開始した。

南朝鮮は三八度線に縦横に四点、推進エンジンを持つ飛行体を用意し、それを始動させた。一瞬飛行体が輝くとスモークの様な大きなスクリーンができ、やがてそれが消えた。そして飛行体が北へと移動し始めた。

初めは、双方ともに何も分からなかった。やがて北朝鮮の地上物が、南側から北側にかけて消しゴムで消されるように地球上から消滅するピョンヤンまで到達したところで飛行体がエネルギーを失い落下した。北朝鮮は、まったくなだらかな土地だけになった。

この結果はそれを注視していた地球上のすべての国を震撼させた。これに驚いた地球連盟“国際連合が解体され、その後に出来た国際機関”は、地球上のすべての国に対し、その使用と研究を全面的に禁止することで合意した。


 それから更に三年後。オーストラリア、バース。温暖な気候とアットホームな人当たりのする街を美しい女性と男が、可愛い女の子の赤ちゃんを抱いて街を歩いている姿が有った。

「ジュン、ふふふっ」

「どうしたのナオミ」

「リカが笑っている」

その女性は、嬉しそうに右に歩く男に寄り添いながら微笑んでいた。


二人から発信された情報に世界は震撼し、大混乱に陥ります。そしてついにそれぞれの国で決着がついたかに見えましたが、やはり人の心とは、恐ろしい結果を生み出しました。でも、それは、人類の本性を垣間見た気がします。

でも二人が幸せに暮らしてくれると良いですね。


これで、この物語は終了です。サスペンスものを目指しましたが、難しかったというのが本音です。

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