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詩人の密薬⑤

 嘘よ、嘘。そんなの嘘なの。私、信じない!

 水島羽鳥は朝、自分のベッドで目を覚ました。水島羽鳥はひざを抱え込むような姿勢で眠っていた。少しふらふらして身体が痛いのは、きっとこのおかしな寝相のせいで心地が悪かっただけだと、彼女は思った。さて、彼女の心は躍っていた。彼女は昨晩飲んだ薬の効き具合を確かめたくて仕方がなかった。

 水島羽鳥はいつもの手順で包帯を外した。さすがに夢の中のように勝手に外れたりはしないのねと、彼女は思った。水島羽鳥が患部を覗き込むようにして見ると、そこではいくらか症状が改善したそれが、私を見つめ返していた。

 私は喜んだ。水島羽鳥は上機嫌で包帯を巻き直した。水島羽鳥はキッチンに向かい、この輝かしく新しい一日のための朝食を用意する。食後はもちろん、魔法の錠剤を飲む儀式だ。あの風と同じくぬるい水と一緒に、この魔法を私の身体に取り込むの。昨晩の経験から、彼女は錠剤を五つほど飲んだ。水島羽鳥は日常に戻っていく。

 水島羽鳥は外出することにした。いつものようにシャワーを浴びて、念入りに身支度をしてから出かけることにした。そうだ、いつもより包帯は減らせるんじゃないの? だって私は、魔法を手に入れているんだから。今ならきっと、空も飛べるのだと、水島羽鳥はつぶやいた。

 私の腕には大きなふたつの目があります。その目は、いつも私を見つめ返しています。私はその目が恐ろしくて、目を、包帯の奥に閉じ込めているのです。私は私に鍵をかけているのです。私に内在する、恐怖に。

 水島羽鳥の患部は順調に快復しているように見える。水島羽鳥はシャワーの後で包帯を巻き直す。彼女は自分の腕が怖かった。私の腕には大きなふたつの目があるから。

 目。目。大きな目。私を見ている大きな目。大きな目は何を見ている? 水島羽鳥は青いワンピースを纏う。さらりさらりとした布が私の肌に触れて心地よい。ああ、そうね、あなたが見ているのは、あの絵なのね。彼女は心地よく鼻歌を歌う。私は今ならきっと空も飛べるのだ。

 水島羽鳥は意気揚々と外に出る。私の足は軽い。今の彼女は今日のこの曇天すらも力に変えられるような気がしていた。私は魔法を纏っている。私はこの青いワンピースの下に上に、無敵の魔法を纏っている。

 だから私は大丈夫。

 だから水島羽鳥は大丈夫ではなかった。

 だから彼女は大丈夫だと思った。

 水島羽鳥が歩く。青い色した水島羽鳥が歩く。彼女は楽しかった。彼女は今なら何でもできるような気がしていた。私は魔法を纏っている。この魔法の錠剤は、私をきれいに変えてくれる。だから私は、いつもより包帯を減らしてきたのよ、ねえ、判ってる? ねえ、そう、あなたのことよ。

 判ってるの? 判ってくれないといやよと、彼女は言った。


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