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詩人の密薬⑫

 水島羽鳥は目を覚ました。今がいつなのか何時なのか春なのか夏なのか秋なのか冬なのか、私には判らなかったしどうでもよかったと彼女は感じていた。水島羽鳥は、そういえば夢を見ていた。夢は今この瞬間と認識されている過去においてもまだ連続しており、彼女に夢を見せ続けていた。

 夢の中で、水島羽鳥は天使を見た。天使はとても美しく、白く、みずどりにも似たはかない何かだった。その夢の光景では、顔のない多くの人々が、暗い地の底へ続く階段を黙々と整然と下っていた。その中で天使はただひとり、天に続く階段を登ることを許されていた。天使の方もまた、遠ざかる群衆に一切の関心を示すことはなく――軽い足音を奏でながら上を目指していた。天使の美しい顔に感慨の色はなく。天使はそれが自分自身に課された使命だとでも言いたげに、澄ました顔で光の差す方を見ていた。天使は美しい。そして血の色を感じさせないほど冷たい。美しいそれに欠けたものをたったひとつ挙げるのなら、その天使には翼がなかった。

 自分たちを射殺す毒の光を避けて暗いところを目指す人々の誰もが、一様に天使を羨んでいた。それと同時に、決して手の届かない美しい存在を妬んで、知らんぷりをしていた。本当は天使のことが気になって仕方がないのに、だ。人々の誰もが我慢を決め込み、断固として天使を視界に入れようともしない中、ただひとりだけ天使を見上げた者がいた。そう、ほかでもない水島羽鳥だ。

 水島羽鳥は、見えない何かに吸い寄せられるようにして天使を捉えた。

 天使もまた、水島羽鳥の視線に気が付き、彼女を見下ろすようにして――水島羽鳥の夢は、そこで終わった。


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