最終話 ちびっこちゃんとでかっちょくん
夕暮れ時。
でかっちょくんは観覧車の前で待っていました。
黒いTシャツにGパン。
それは二人が初めてデートした時と同じ格好でした。
ちびっこちゃんがおずおずとやってきました。
水色と白のチェックのワンピース。
でかっちょくんと同じく初めてデートした時の格好でした。
でも、一つだけ違うところもありました。
それは彼女の首元に観覧車に乗るくまのネックレスが光っていたことでした。
でかっちょくんが去年のお誕生日にくれたプレゼントでした。
「来て下さってありがとうございます」
優しく微笑み、ちびっこちゃんを迎えるでかっちょくん。
ちびっこちゃんは「ううん、大丈夫だよ……」とどこか元気のない様子で答えます。
でかっちょくんは心配そうな表情をしましたが、すぐに笑顔を作り、「行きましょうか」と観覧車に向かいました。
公園の中にある大きな大きな観覧車。
向かい合って座る二人を乗せてゆっくりゆっくりまわります。
「ちびっこちゃん、覚えていますか? 初めてこの観覧車に乗った時のこと」
外の景色を眺めながらでかっちょくんは話し始めます。
ちびっこちゃんも同じように外の景色を眺めながら答えます。
「……うん、初めてのデートの帰り道に乗ったんだよね」
「せっかく一緒に遊園地に行って下さったのに俺はろくに話せなくて。でも、このまま別れたくなくてこの場所を選びました」
「覚えてるよ……。ちょっと震えた手で「あの観覧車に乗ってくれませんか」って私の手をつかんで。遊園地じゃなくてこの公園で観覧車に乗るんだなあって思った」
ちびっこちゃんの口元がわずかに綻びます。
「すみません。でも、ちびっこちゃんが「いいですよ」って言ってくれて本当に嬉しかったです」
「私も嬉しかったよ。この観覧車のてっぺんででかっちょくんが「これからもずっと一緒にいてくれませんか」って言ってくれて」
でかっちょくんの瞳が景色からちびっこちゃんに向きます。
ちびっこちゃんの手を握ります。
ちびっこちゃんの肩はびくりと震えます。
「ちびっこちゃんの幸せって何ですか?」
「……え?」
ちびっこちゃんの瞳がでかっちょくんの方へと向きます。
でかっちょくんは真剣な表情で言います。
「俺、ちびっこちゃんの幸せが大好きです。だから、訊きたいんです。ちびっこちゃんの幸せって何ですか?」
「……っつ」
ちびっこちゃんの瞳が大きく揺らぎます。
「ねえ、ちびっこちゃん。俺の幸せはあなたと一緒にいることなんですよ」
「……ずるいよ、でかっちょくん」
それまで我慢していたものがあふれるようにちびっこちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれはじめました。
「今日、姿を見ただけで「でかっちょくんだあ……」って思ってたまらなくなってたのに。そんなこと言われたらもう我慢できなくなっちゃうじゃない」
「我慢なんてしなくていいですよ」
「でも、私、甘えちゃうもん! しんどいよって、もうダメだよって、全力でよりかかっちゃうもん! 嫌なものいっぱいでかっちょくんにあげちゃうもん!」
「甘えてくれていいですよ。嫌なものいっぱい、俺にください」
「でも、でも、そんなことしたら……!」
ちびっこちゃんの顔が両手で覆われます。
「でかっちょくんに嫌われちゃう……」
絞り出すような声。
それはちびっこちゃんが一番恐れていたことでした。
でかっちょくんは困ったように笑いました。
「こんなに好きなのにどうして嫌いになれるんですか、ちびっこちゃん」
観覧車がてっぺんに着きました。
観覧車が揺れました。
ちびっこちゃんがでかっちょくんに抱き付いたからです。
「一緒にいたい」とちびっこちゃんは言いました。
「でかっちょくんと一緒にいたい」と。
でかっちょくんは「はい」と全力でその言葉を受け止めました。
二人はお互いの幸せに対して両思いでした。
その方法が同じなら選ぶものは一つしかなかったのです。
こうして本物のでかっちょくんが学内に戻ってきました。
でかっちょくんの愛情と美保ちゃんの経験によるスパルタ教育のおかげでちびっこちゃんは内定をとることが出来ました。
凸凹の背中は今日も寄り添って歩いています。
二人が一緒にいる姿を見て、周りの人々はちびっこちゃんとでかっちょくんと名付けました。
一緒にいるからこそ呼ばれるこのあだ名が二人は大好きでした。
二人はコンプレックスを引き立たせる存在です。
ちびっこちゃんはでかっちょくんと一緒にいるとより小さく見えます。
でかっちょくんはちびっこちゃんと一緒にいるとより大きく見えます。
でも、一緒にいると大好きなものが増えていくと二人は言います。
見上げて、見下ろして、その度に二人はこの人と一緒にいたいと思うのです。
はい、これでこの物語は終了となります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
お互いのことが好きで好きでたまらないそんなバカップルのお話を書いてみよう。
そんなことを考えて今回のお話は書かせて頂きました。
この二人には一緒にいてほしい。
もし、読んで頂いた方にそう思って頂けたなら幸せに思います。
ここまでお読み頂きありがとうございました。