第七話 でかっちょくんと死亡説
冬がやってくるとちびっこちゃんの就職活動が始まりました。
着慣れないリクルートスーツに身を包み、靴ずれを作りながらちびっこちゃんは一生懸命就職活動をしていました。
そんな中、大学内ではでかっちょくんの偽物が出現しているという噂がたっていました。
何でもその偽物は見た目はでかっちょくんそっくりなのですが、ちびっこちゃんに全く近づこうとしないそうなのです。
学内でちびっこちゃんを見かけても知らんぷりで通り過ぎてしまいます。
あのちびっこちゃんバカのでかっちょくんがそんなことをする訳がない。
あれは誰だ。本物はどこに行ったんだ。
季節が過ぎ春が来て夏が来てもその状態は続き、その頃になると――
「でかっちょ、あんた死んだらしいじゃない」
「……すみません、話が全く見えてこないんですが」
いつもの大学のカフェテラス。
頬杖を突き、足を組みながら、美保ちゃんはでかっちょくんと二人きりで向かい合っていました。
『ちょっといつもの場所にきなさいよ』
そんな呼び出しメールがでかっちょくんの携帯電話に届いたのは昨日の夜のことでした。
美保ちゃんは「やれやれ」と面倒くさそうに首を振ります。
「こっちも迷惑してんのよ。あんたがちびっこに近寄ってこないせいで「でかっちょくん死亡説」なんてのが出てきて真偽をいろんな奴らからきかれるし、横でちびっこはどんより負のオーラ出しまくりながら溜め息つきまくってるし。もう面倒くさいから端的にきくわ。あんた達別れたの?」
「……相変らず美保さんは剛速球を投げてきますね。では、こちらも端的に答えましょう。答えはこれです」
そう言ってでかっちょくんは自分の携帯電話を差し出しました。
美保ちゃんは「ん?」と顔をしかめながらそれを受け取りました。
そこにはちびっこちゃんからのメールが表示されていました。
素早く内容を読んだ美保ちゃんは「あのバカ……」と額をおさえました。
そこに書いていたのはこのような内容でした。
『でかっちょくんごめんなさい。でかっちょくんが傍にいると甘えてしまうから内定が決まるまででかっちょくん断ちをしたいと思います』
でかっちょくんは携帯電話を返してもらうとうなだれました。
「ということで、俺もちびっこちゃん断ちをしていたという訳です……」
「その様子だとあんたも相当まいってそうね」
「当たり前です……。ちびっこちゃんの望みとは言え、寂しいものは寂しいです……」
「じゃあ、ちびっこの望みなんて断ればいいのに」
「でも、就職活動の経験なんて全くなくて何のアドバイスも出来ない俺が傍にいても頑張っているちびっこちゃんの邪魔になってしまうんじゃないかと思いまして……」
落ち込むでかっちょくんに美保ちゃんは当然のように答えました。
「何言ってんのよ、アドバイスなら出来るじゃない」
「え」
驚くでかっちょくんに美保ちゃんは訊ねます。
「でかっちょ、ちびっこの良いところって何よ」
「24時間ほど頂くことになりますがよろしいでしょうか」
「バカップルが……。ほら、こんなに自己PRのネタ持ってる相手がどこにいるのよ」
「あ……」
気付いた様子のでかっちょくんに美保ちゃんは笑います。
「経験のアドバイスなんてこのパーフェクトな美保さんが出来るんだから。あんたはあんたでちびっこを一番好きな人であればそれだけでいいのよ」
「美保さん……」
美保ちゃんは立ち上がるとくしゃくしゃとでかっちょくんの頭を撫でます。
「私ね、バカップルって大嫌い。電車や街中で人目もはばからずいちゃいちゃしているカップルを見ると「早く別れればいいのに」って思う。でも、あんた達は一緒にいればいいと思うのよ」
「…………」
いつもと違って優しさと自分たちへの愛情に満ちたその言葉にでかっちょくんはちょっぴり泣きそうになりました。
美保ちゃんはくすりと笑うと二人分のお会計を机に置いて「じゃ、あとは頼んだわよ」とその場を去っていきました。
でかっちょくんはそんな美保ちゃんの背中に頭を下げると上を向きました。
そこにはパラソルの青空が広がっていました。
でかっちょくんは決心したようにメールを打ち始めました。
『今週の日曜日、夕暮れ時の観覧車の前で待っています』と。