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第六話 ちびっこちゃんと学園祭

学園祭シーズンです。


ちびっこちゃんとでかっちょくんの大学も学園祭でわいわいがやがや大変なにぎわいです。


サークルに所属していない二人は今日はまったりとお祭りを楽しむ予定になっています。


「美保さんとは一緒にまわらないでいいんですか?」


「美保ちゃんは今日は分刻みのスケジュールが組まれているんだって」


もてもて美保ちゃんとは別行動の学園祭です。


二人が道を歩くと色んな学生が声を掛けてきました。


「ちびっこちゃんでかっちょくん、たこ焼きどう? すっごくおいしいよ! 二人ならサービスしちゃうから!」


「ちびっこちゃんでかっちょくん、ふわふわ綿菓子はどう? でっかいのつくってあげるから二人で分け合って食べなよ!」


ちびっこちゃんとでかっちょくんは学内に知らない人はほとんどいない名物カップルなのでした。


あまりにみんなが声をかけてくるため、二人の両手は普通よりも量の多い食べ物でいっぱいになってしまいました。


「こんなにいっぱい食べれないよ……」


「サービスして頂くのは有難いのですが、ちょっと多過ぎますね」


「う~ん、食べ物はもういいかなあ。食べ物以外のお店は……」


そう言ってきょろきょろしていると後ろからまた「ちびっこちゃんでかっちょくん!」と声をかけられました。


振り返るとポニーテールの女の子がニコニコ笑って立っていました。


その右頬には矢がささった赤いハートのシールが貼ってあります。


「これ、参加してみない?」


そう言って女の子が渡してきたチラシには「大学内のハートをさがせ!」と書かれていました。


「ハートをさがせ?」


チラシを見ながら首を傾げるちびっこちゃん。


女の子は頷きます。


「うん、我が恋愛研究会の企画でね。大学内にあるこのハートを探し出す企画なの」


自分の頬に貼られたシールを指差す女の子。


ちびっこちゃんとでかっちょくんは顔を見合わせます。


「どうする、でかっちょくん」


「面白そうですしやってみますか、ちびっこちゃん」


ハートの女の子は嬉しそうに飛び跳ねました


「ありがとう! じゃあ、このチラシに書かれたヒントを基に4つのハートを探してみてね!」


こうして二人のハート探しが始まったのでした。




1つ目のヒントは『美しい魔女がいる喫茶店で二人は青い傘を広げました』。


ヒントを読んで二人はすぐに目的の場所に向かいました。


それは二人が大好きな場所でした。


「あら、いらっしゃい」


お肌ぷるぷる美魔女店主が100点満点の笑顔で迎えてくれました。


「あれ、店主さん」


ちびっこちゃんとでかっちょくんは不思議そうな顔をします。


なぜなら今日は喫茶店はお休みのはずだからです。


そんな二人の気持ちを見越したように店主さんはいたずらっこのようにおどけた顔で答えます。


「せっかくの学園祭だから遊びに来たんだけど、やっぱりここが一番落ち着くのよね」


ちびっこちゃんとでかっちょくんは嬉しそうに笑います。


自分たちも同じ気持ちだったからです。


「青空席お願いします」と言う二人を店主さんは案内してくれました。


いつも3人で集まるカフェテラスには白いパラソルが並ぶ中で一本だけ青いパラソルの席がありました。


ちびっこちゃんとでかっちょくんはハートを見つけました。


「1」と書かれたハートのシールが机の真ん中に貼られていました。


ちびっこちゃんは携帯電話を取り出すとその写真を撮りました。


同時にパラソルの中を見上げました。


青いパラソルの中に白い雲が描かれています。


名前の通り、ここに座ると青空が見えるのです。


「店主さん、どうしてここの一本だけ特別なんですか?」


見上げながらちびっこちゃんは訊ねます。


店主さんは穏やかに答えます。


「特別なものがあれば、幸せを見つけるきっかけになるかしらと思って」


「きっかけ……」


ちびっこちゃんは考えました。


そう言えばここに座ってパラソルの青空を見上げた日は何か幸せなことがあるような気がしていました。


幸せなことに敏感になっているからこそ見つけられた幸福があったように思います。


ちびっこちゃんはちらっとでかっちょくんを見ました。


でかっちょくんも同じようにパラソルの青空を見上げています。


「……でかっちょくん、幸せなことがあるかもよ?」


でかっちょくんはちびっこちゃんを見ました。


そうして目を細めました。


「俺もそう思います」


ちびっこちゃんはでかっちょくんの見つける幸せはどんなものなのだろうと思いました。




2つ目のヒントは『ドロップが沈んだ水辺で二人が選んだのは緑色の青りんご味でした』。


「ドロップ……」


「おはじき噴水のことでしょうか」


「ああ、あそこかあ」


二人は足を進めました。


二人の大学には小さな噴水がありました。


そこには赤・青・黄色・緑の4色のおはじきが色ごとに分かれて上下左右に沈んでいるのです。


「昔からここに沈んでいたんでしょうか、これって」


緑色のおはじきが沈んだ場所。


噴水の縁に2のハートが貼られていました。


ちびっこちゃんがハートを写真におさめるのを横目にでかっちょくんは水の中を覗き込みます。


澄んだ水の向こうで無数の緑色のおはじきがきらきら光っていました。


「ん~、聞いた話ではこれって最初は1つだったらしいよ」


「1つですか?」


意外そうに顔を上げるでかっちょくん。


ちびっこちゃんはうなずきます。


「うん、ある日、誰かが4色のおはじきを1つここに沈めたんだって。その沈んだおはじきを見て「綺麗だなあ」と思った誰かがまた同じ色のおはじきを沈めてどんどんおはじきの数が増えていったんだって」


「なるほど、みんなの「綺麗だなあ」が重なって今の景色になったわけですね」


その話を聞いてから改めておはじき噴水を見るといつも以上に綺麗に感じられました。


「美保ちゃんはその話を聞いて「私だったら同じ色じゃなくて違う色のおはじきを沈めるのに」って言ってたけどね」


「美保さんらしいですね」


「違う色が混ざってもきっと綺麗は続くよね」


でかっちょくんの横でおはじきを覗き込みながらちびっこちゃんはにこにこ笑ってそう言いました。


でかっちょくんはその横顔を見て、「そうですね」と愛しげに微笑みました。




3つ目のヒントは『二人は黄色い木の下で月を見上げました』。


「月を見上げる黄色い木の下ってどこだろうね」


暗くなり始めた大学。


二人は頭をひねります。


「黄色い木の下っていうのは銀杏の木のことでしょうか」


「ああ、イチョウかあ。ということは銀杏並木のことかな」


「とりあえず行ってみましょうか」


二人は銀杏並木に向かって歩き出します。


銀杏並木は大学の真ん中にまっすぐに通った一本道にあります。


四季の道と呼ばれたそこには季節を感じられる様々な植物が植えてありました。


「あそこの並木道、毎年綺麗だよねえ」


「これからもっと綺麗になっていきますよ」


「そしたらあそこを通る時、今年も上ばっかり見ちゃうんだろうなあ」


「銀杏並木が綺麗になるとちびっこちゃんが転びそうになるので俺はひやひやしますよ」


「ごめんね。でもでかっちょくんがいるから安心して見上げられるんだよ、私」


「……そうですか」


でかっちょくんがときめいたところで銀杏並木につきました。


二人はきょろきょろと周りを見回します。


「月って何のことでしょうか?」


「月、黄色、まるい? あ!」


何かを思いついたようにちびっこちゃんが走り出しました。


「ちびっこちゃん?」


あわててその後を追うでかっちょくん。


ちびっこちゃんはある銀杏の木の前で立ち止まり、そこに置かれた木のベンチを指差しました。


「見て、でかっちょくん!」


その指先には「3」と書かれたハートのシールがありました。


「すごいです、ちびっこちゃん。どうして分かったんですか?」


感心するでかっちょくんにちびっこちゃんはにこにこしながら次は上を指差します。


そこには文学部の藍色の建物がありました。


「ああ」


でかっちょくんは納得したようにうなずきました。


藍色の建物の前には丸い黄色い外灯が1本立っていました。


それはまるで空に浮かぶ黄色い月のようでした。


「前に思ったことがあったんだよね。ここの外灯素敵だなあって」


「そうなんですか。それに気付けるちびっこちゃんの心は素敵ですね」


「えへへ、ありがとう」


月を背景に笑いあう二人。


こうして二人は無事に3枚目のハートの写真を撮りました。




4つ目のヒントは『二人はあの人の頬に貼られた赤いハートを思い出しました』。


二人が向かったのは恋愛研究会の部室でした。


「恋愛は一日にして成らず!」と書かれた紙がどーんと貼られた扉を開けるとポニーテールの女の子が迎えてくれました。


「あ~、ちびっこちゃんでかっちょくん、おめでとうございま~す」


ファッション雑誌や結婚雑誌がずらっと並ぶ部室内で女の子は両手を広げて歓迎します。


ちびっこちゃんは自分の右頬を指差して言います。


「最後のハートはやっぱりこのハートだったんだね」


「その通り! 実は一番最初に4番目のハートは見てるんだよね!」


自分の矢がささったハートを指差しながら女の子はにっこり笑います。


そうしてちびっこちゃんから携帯電話を受け取り、二人が今まで見つけたハートを確認すると拍手しました。


「さすがベストカップルのお二人! そんなお二人には最後のミッションを差し上げましょう!」


ぺたん。ぺたん。


二人の頬に女の子と同じ矢がささったハートのシールが貼られました。


ちびっこちゃんは右側に。でかっちょくんは左側に。


『?』


お互いの顔を見つめ、不思議そうに二人は首を傾げます。


女の子はにっこり笑います。


「今からお互いのハートに触れてください。その姿を私が写真にとってお二人にプレゼントして差し上げます」


ハートのシールをたくさん貼ったデジタルカメラをかまえながら。


『ハートに触れる?』


そろう二人の声。


「うん、どんな方法でもいいよ! ここに来た人の中にはお互いのほっぺたにキスをしたカップルもいたし、ほっぺたをくっつけあったカップルもいたし。お互いの方法でふれあってくれればそれでOK!」


『…………』


見つめあう二人。


どうする? 


どうしましょう。


瞳でそんな会話を交わします。


キスをする?


それも違うように思います。


ほっぺたをくっつけあう?


それも違うように思います。


自分たちの方法は……。


二人は頬笑み頷きあいました。


そして、手を伸ばしました。


お互いのハートへと。


「……それで、いいの?」


意外そうにぱちくりと瞬きする女の子。


ちびっこちゃんとでかっちょくんは笑います。


『はい』


「……そっか」


女の子は微笑むとシャッターを押しました。


そこにはお互いの頬に触れ、幸せそうに笑うちびっこちゃんとでかっちょくんの姿がありました。


これがちびっこちゃんとでかっちょくんの方法なのでした。



その日、二人はちょっぴり残念な気持ちになりながら頬のシールをはがしました。


でも、ゴミ箱に捨てることは出来なくてもらった写真の裏に貼りました。


そのおそろいを二人が知ることはありませんでした。



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