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第四話 ちびっこちゃんと夏祭り

がんがんに寒いほどクーラーがきいた教室で、ちびっこちゃんは真面目にルーズリーフに文章を書いていました。


携帯枕に頭を置き、睡眠から目覚めた美保ちゃんは、「相変らずちびっこは真面目ね。テストも近いし、あとでノートうつさせてもらおう」と思いました。


そうして、ちらっとルーズリーフをのぞくとそこにはこう書いてありました。



・でかっちょくんと夏祭りに行くとどうなるか。


でかっちょくんに浴衣を着てもらう→興奮する→鼻血が出る→祭りが台無しになる


・鼻血が出ないにはどうすればいいか。


1、目をつむる→何も見えなくなる

2、最初から鼻にティッシュをつめておく→見た目が台無しになる

3、浴衣を諦める→私が泣きそうになる


結論:どうしようもない



美保ちゃんは無言でちびっこちゃんの後頭部を叩きました。


ちびっこちゃんはルーズリーフに顔を突っ込みました。



喧騒に包まれた夏祭り会場。


「結論:どうしようもない」から何の変化も見せないまま、ちびっこちゃんはこの日を迎えてしまいました。


ちびっこちゃんは思った通りドキドキしていました。


藍色の浴衣。


背が高くすらっとしたでかっちょくんにとてもよく似合っていました。


ちびっこちゃんはピンク色の朝顔の浴衣を着ていました。


はぐれたら大変だからと二人は手を繋いでいました。


でかっちょくんの手はちびっこちゃんにとってちょうどいい温度をしていました。


ちびっこちゃんは今日もでかっちょくんの手はぬくぬくだと思い、余計にドキドキしてしまいました。


「ちびっこちゃん、何を食べたいですか?」


「ちびっこちゃん、花火はどこで見ましょうか?」


「ちびっこちゃん、何か買ってきましょうか?」


でかっちょくんは色々話しかけてくれましたが、ちびっこちゃんはうまく返せないでいました。


鼻血が出ませんように。鼻血が出ませんように。


そんなことを念じていました。


ちびっこちゃんの様子があまりにおかしいので、でかっちょくんは心配になってしまいました。


「ちびっこちゃん、もう帰りましょうか?」


顔を覗き込み、そんなことを言い始めました。


ちびっこちゃんは慌ててぶんぶん横に首を振ります。


「う、ううん、大丈夫だよ!」


「でも、体調が悪そうですし……」


「これは……!」


ちびっこちゃんは迷いました。


理由を正直に言ったら、でかっちょくんにひかれてしまうんじゃないだろうか。


『え、そんなことを考えてたんですか?』


『ごめんなさい、俺、ちょっとついていけません……』


ちびっこちゃんは冷たい目でどん引きするでかっちょくんを想像して、じんわりと涙が出てきてしまいます。


「ち、ちびっこちゃん!?」


突然泣き出したちびっこちゃんにでかっちょくんは大あわて。


「ごめんなさい、こんなになるまで気付かなくて! すぐ帰りましょう! あ、それとも、歩くのも辛いですか? でしたら、俺の背中に……!」


しゃがみこみ、おんぶする体勢になるでかっちょくん。


ちびっこちゃんはたまらなくなりました。


自分のせいででかっちょくんに迷惑をかけている。


自分のせいで、自分のせいで、


そんな思いでいっぱいになって――


「ごめんなさい、でかっちょくん……」


ぎゅっと後ろからでかっちょくんに抱き付きました。


「ちびっこちゃん?」


不思議そうに振り返るでかっちょくん。


ちびっこちゃんはでかっちょくんの肩に顔をうずめて言いました。


「でかっちょくんの浴衣姿が格好良すぎて、鼻血が出ないか心配していました」


「え?」


「ごめんね、ごめんね、こんな彼女で。嫌いになったよね」


「……ちびっこちゃん、俺、驚いています」


ちびっこちゃんは顔を上げます。


そこには冷たい目で自分を見るでかっちょくんの顔、ではなく、心底驚くでかっちょくんの顔がありました。


でかっちょくんは言うのです。


「俺も同じことを考えていました」


「え?」


今度はちびっこちゃんが驚く番でした。


「俺もちびっこちゃんの浴衣姿が可愛すぎて鼻血が出ないか心配していまして。授業中もついルーズリーフにそれについて書いてしまって」


「え、でかっちょくんも?」


「はい、でも結局結論は出なくて、どうしようって思いながら今日ここに来たんですけど」


「う、うん」


でかっちょくんはそっとちびっこちゃんの手をはずし、まっすぐにちびっこちゃんと向き合いました。


そして、言いました。


「ちびっこちゃんと一緒にいることが嬉しくて今までそのことを忘れていました」


「!」


大きく目を見開くちびっこちゃん。


でかっちょくんは微笑みます。


「ちびっこちゃん、その浴衣、すごく似合っています。ドキドキします。でも、俺、それ以上にちびっこちゃんとこうやってお祭りを楽しめることがすごく幸せなんです」


「でかっちょくん……」


ちびっこちゃんはうるうる目をうるませます。


そうして――


「でかっちょくん、大好き……」


ぎゅっとでかっちょくんを抱き締めました。


でかっちょくんはぽんぽんとその背中を優しくたたき言いました。


「俺もです」



それから二人は手を繋いで花火を見ました。


「ちびっこちゃん、見えますか?」


そう言ってでかっちょくんがちびっこちゃんの背丈にあわせて選んでくれた場所でした。


ちびっこちゃんはやっぱりでかっちょくんの手はぬくぬくだと思い、答えはこんなに簡単で幸せなことだったのかと思いました。


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