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第5話 契約者N

 魔王復活。双牙バルツェフは今、確かにそう言った。

 討伐イベントで倒された魔王が、聖王女レミーの行動によって甦るかも知れない。ランファとバルツェフは、それを止めに来た。そういう事なのか。

「ち……ちょっと待ってくれよ」

 何を言うべきかわからぬまま、恵介はとりあえず言った。

 言わせまいとするかのようにバルツェフが、ぎろりと獣の眼光を向けてくる。そして言う。

「お前に言ってやれる事、ただ1つ……俺たち、こっちの世界、滅ぼす。だから恨め」

「やめなさい、双牙」

 抜き身の長剣を構えたまま、レミーが言う。その長剣が、ぼんやりと白い光を帯び始める。

「恨まれる覚悟を決めるくらいなら、戦う覚悟を決めなさい……2つの世界を、守るために」

「ごめん、戦いは嫌……」

 そんな事を言いながら闘姫ランファが、戦う意思を丸出しにして12節棍を構えている。

「あんな戦い、もう1度やるくらいなら……今ここでアンタらと戦った方が、ましなわけで」

「やめろって!」

 恵介は叫んでいた。

「あんたら全員、俺のデッキにいるんだぞ! だから俺の許可なく勝手に戦ったりしちゃダメだ! 仲間割れなんてのは絶対禁止だ!」

「わけのわからぬ事を言っておる暇があったら、どうにか自力で身を守って見せろ小僧」

 轟天将ジンバが、巨大な両拳をポキポキと鳴らしながら言う。猛虎の眼差しは、しかしバルツェフとランファではなく、周囲の鉄骨に向けられている。

 建築途中で放棄された、ビルの内部。剥き出しの鉄骨の上から、陰から、こちらに凶悪な視線を注いでいる者たちがいる。

 猿の群れ、に最初は見えた。いや、猿にしては大きい。小柄な成人男性ほどの身体が、猿のように身を屈めているのだ。

「こいつら……!」

 ランファが周囲を睨み、身構える。

 人間に似た、だが人間ではない生き物たちが、一見しただけでは数を把握出来ぬほど群れを成していた。

 禿げた頭の左右に大きな両耳を広げ、血走った眼球をギョロリと見開いた、どこかグレイ・エイリアンにも似た者たち。全員、小柄な身体に軽めの革鎧をまとい、大型の短剣あるいは小型の長剣と言える得物を手にしている。

 恵介がよく知る生き物の一種だった。

「ソードゴブリン……」

 ブレイブランドを『探索』していると頻繁に出会うモンスターである。ファイヤーヒドラなどと比べて、格段に出現頻度が高い。いわゆる雑魚であり、魔王配下の雑兵という設定だ。

 そんな架空の設定物ではない、現実に存在するソードゴブリンたちが、一斉に襲いかかって来た。鉄骨の陰から飛び出し、あるいは鉄骨の上から飛び降りながら、小型の剣を凶暴に振りかざす。それらの切っ先が、レミーを、ジンバを、ランファとバルツェフを、そして恐らく恵介をも、狙っている。

「この数だ。我らとて己の身を守るので精一杯……小僧、貴様は自力で生き延びてみよ」

 冷酷な事を言いながらジンバが、まるで羽虫でも追い払うかのように両手を振るった。

 ソードゴブリンが2体、3体、分厚い平手打ちを喰らって破裂した。肉片やら臓物やらが、汚らしく飛び散りながらキラキラと光に変わり、消えてゆく。あのファイヤーヒドラの死に様と、同じである。

「逃げられるものなら逃げた方が良い、と思うぞ」

 巨大な鎖鉄球を軽々と操る手が、しかし今は何も武器を持たずに、ソードゴブリンたちをことごとく粉砕し、消滅させてゆく。

「俺の護衛、してくれる余裕くれぇあるように見えるんだけどな……」

 ぼやきながら、恵介は見回した。

 まるでジンバを避けるかのようにソードゴブリンの群れが、聖王女レミーに襲いかかっていた。猿の如く敏捷に凶暴に跳ね回り駆け回り、様々な方向から少女剣士に斬り掛かる。

 その時には、レミーの瑞々しい半裸身が、力強く翻っていた。光まとう長剣が一閃し、斬撃の弧が生じて消える。

 ソードゴブリンの生首がいくつか、宙を舞った。数匹分の臓物が、どぷっと空中に溢れ出し、光に変わってゆく。

 それら光の粒子を蹴散らしながら、レミーはなおも長剣を振るう。

 脳漿が噴き上がり、血や臓物の汁が飛び散り、それら全てが光の飛沫に変わって美しく飛散する中。聖王女の半裸身が、ソードゴブリンの群れを蹂躙しながら舞い続けた。

 しなやかに鍛え込まれた太股が、跳ね上がり踏み込み、引き締まった脇腹の曲線と腹筋が柔らかく歪む。

 その度に、光の長剣が幾つもの弧を描いた。

 弧に触れたソードゴブリンたちが次々と、縦・横・斜めに切断されながら光と化す。

 恵介は、思わず見とれた。

 見とれている場合ではないと気付いた時には、遅かった。

 ソードゴブリンが5匹、小型の剣を揺らめかせ、恵介を取り囲んでいる。ニタニタと、残忍な笑みを浮かべながら。

 ブラウザ上では、応援要請などする必要もなく一掃出来るような相手である。だが生身の村木恵介に、モンスターと戦うような力はない。

 5匹のソードゴブリンが、一斉に襲いかかって来た。

 その5匹の隙間から、恵介はレミーの方を盗み見た。目に、焼き付けた。

(いい太股だなあ……腹筋も、綺麗だよなぁ……)

 最後に目にするのが美少女剣士の腹筋や太股というのは、悪くない死に方なのではないだろうか。

 恵介が無理矢理そんなふうに思い込もうとした、その時。

 襲いかかって来たソードゴブリン5匹の首が、ことごとく宙に舞い上がった。首無しの屍が5つ、小型の剣を振りかざしたまま膝をつき、光に変わってゆく。

 豊かな尻尾が、恵介の視界内でふっさりと揺れた。双牙バルツェフが、着地したところだった。5つの首を刎ねたばかりの剣が2本、次なる獲物に向かって一閃する。

「お前……兎や野ネズミより、弱いな」

 バルツェフが恵介を睨み、言う。それと同時に、ソードゴブリン3匹が血飛沫を噴き上げながらキラキラと消滅した。その時には2本の剣が、すでに別の4匹を斬殺している。

「あいつら獣に襲われても、逃げる事出来る。お前、それすら出来ない」

「逃げてる暇があったら目に焼き付けとけ、って感じで見てたよねえ。レミー様の方」

 からかうようなランファの声に合わせ、蛇のようなものが超高速で宙を泳ぐ。

 連結を緩められた、12節棍だった。それが鞭の如く宙を裂き、ソードゴブリン5匹を打ち据える。

 眼球が飛び出し、脳漿が噴き上がった。首から上の原形を失った5つの死体が、光となって消えてゆく。

「冗談抜きで、聖王女様に一目惚れしちゃった?」

 ニヤニヤと恵介に微笑みかけながらランファは、うねる12節棍を棒状に連結させた。いかなる操作を行ったのかは、わからない。

「それなら気をつけた方がいいよー。あたしらと同じで武公子カイン様も、こっち来ちゃうかも知んないから」

「で、でも付き合ってるわけじゃねえんだろ?」

「まあ確かにレミー様の方は全然、眼中にないみたいなんだけどっ」

 恵介の問いに答えながらランファは、12節棍で思いきり地面を突き、跳躍した。何匹かのソードゴブリンが、上階の鉄骨から飛び降り、襲いかかって来たところである。

「カイン様の方はもうねぇ、聖王女様に命捧げちゃってるから!」

 棒高跳びの形に舞い上がった少女の身体が、その棒を軸として楽しげに回転した。チャイナドレスに似た赤い服の裾が割れてはためき、むっちりと形良い左右の太股が、あられもなく躍動する。レガースのような防具を履いた脛と足首が、斬撃の如く弧を描いて空中を薙ぎ払う。

 小型の剣を構えて降って来たソードゴブリンたちが、その蹴りをグシャッ、バキッ! と喰らって墜落し、大量の血を吐きながら絶命し、光に変わった。

「よこしまな目でレミー様を見てるとぉ、君……カイン様に、切り刻まれちゃうよん?」

 そんな軽口を叩きながらランファが、ふわりと着地する。軽やかな着地に合わせて、左右の乳房が重々しく揺れる。チャイナドレスのような赤い衣装が、胸の部分で本当にはち切れてしまいそうである。

 思わず見入ってしまった恵介に、三日月のような刃が突き付けられた。

「お前……何、見ている」

 バルツェフが、左の剣を恵介に突き付けながら、右の剣でソードゴブリンを叩き斬っていた。

「あっはははは、その前にバル君に切り刻まれちゃうかなぁ」

 ランファが笑いながら12節棍を振るい、ソードゴブリンの最後の1匹を撲殺した。

 鉄骨だけの廃ビルの内部は、静かになった。切断あるいは粉砕されたソードゴブリンたちの屍が、光の粒子となってキラキラと飛散し、消えてゆく。

「と、いうわけでぇ……とんだ邪魔が入ったけど片付いたし、始めよっか? 聖王女様に獣おじさま」

 血まみれの12節棍がくるりと回転し、レミーたちに向けられる。

 対抗して長剣を構えたりはせず、レミーは言った。

「さあ……何を始めようと言うのかしら?」

「……殺し合いに決まってんでしょうがぁ」

 ランファの幼げな美貌が、獰猛に歪んだ。

「あたしらがアンタを殺しに来たんだって事! 何度言ってもわかんないようなら行動で教えたげるしかないねぇえ」

「やめておきなさい。私たちが殺し合いをする理由などありはしないと、たった今、判明したばかりでしょう」

「何、ぬかす……!」

 激昂しかけたバルツェフを、なだめるように、あるいは威圧するように、ジンバが言った。

「双牙おぬし、何故その小僧を守ったのだ」

「何……」

「こちらの世界に災いを押し付け、ブレイブランドを守る。そのために聖王女殿下のお命を狙っておる……のであれば、こちらの世界の人間を守る必要などないはずだ。そのような小僧の1人や2人、ゴブリンどもに切り刻まれるまま放っておけば良かろうに」

 まさしく放っておかれた恵介は、思わずジンバを睨みつけた。この虎男、最初からバルツェフとランファに恵介の身を守らせるつもりであったに違いない。

「あんた、それで……俺の事、守れる余裕あんのに守ってくれなかったわけだな」

「……ワケわかんない事言ってんじゃないわよ、この縞猫おやじ!」

 ランファが、若干うろたえたような怒声を発した。

「あたしたちはただ、ゴブリンどもが襲いかかって来たから応戦しただけ! こんな、女の子の太股や胸しか見てないような馬鹿男なんか守るわけないってのよ!」

「腹筋と尻も見てるぜー」

 恵介は明るい声を出してみたが、全員に無視された。

「……ごめんなさいねランファ。私には、守っているようにしか見えなかったのよ」

 相手が12節棍を構えていると言うのに、レミーは長剣を鞘に収めてしまった。

「これで明らかになったわね双牙バルツェフ、闘姫ランファ。あなたたちには、こちらの世界の人々を見捨てる事など出来はしないわ。他の世界にブレイブランドの災いを押し付けて、自分たちだけが平和を享受する……そんな事に、あなたたちの心は耐えられません」

「何わかったような事……!」

「待て、ランファ」

 バルツェフの方が、いくらか冷静さを保っているようだ。

「退くぞ……お前も俺も心、怯んでいる。怯んだ心で戦っても、この2人に勝てない」

「くっ……あたしたち、殺し合う前に口喧嘩で負けちゃったってわけ」

 本当に悔しそうな、いくらか泣きそうな顔で、ランファはレミーを睨みつけた。

「さすが王家で政治なんかやってる人は、口先で丸め込むの上手いよね!」

「あなたたちを口先で丸め込むつもりはないわ……そんな事をしても、意味がないから」

 聖王女のその言葉には何も言い返さず、バルツェフもランファも背を向けて駆け出した。駆け出した、と見えた時には、2人の姿はもう見えなくなっていた。

「あの2名を我らの味方に引き入れる事は、そう難しくないでしょうな」

 2人が去った方向をじっと見据えながら、ジンバが言う。

「問題は、あやつらに命令を下す鬼氷忍……こやつを動かすのは、並大抵の事ではございません」

「あんたたち、鬼氷忍ハンゾウとは敵同士なのかよ……」

 恵介にとっては、聖王女・轟天将と並ぶ、デッキの主力である。

 ランファもバルツェフも、その3名と比べると扱いが軽くなってしまうのは否めない。2人とも、無課金ではレアの最高レベル30までしか育たないのだ。SRスーパーレア以上のランファとバルツェフは、課金ガチャでしか手に入らない。

「どうにか生き延びたか小僧。それならそれで、おぬしからもまだ色々と話を聞かねばならんな」

 ジンバが、人食い虎の眼差しをギロリと向けてくる。

 恵介はまっすぐ見つめ返し、言った。

「ああ。俺の方も、あんたたちから話を聞きたい。一体、何がどうなってんだよ」

「……そうね。こちらの世界の方々には、お話ししておかなければ」

 レミーが、意を決したように言った。

「全て、私たちの行いが原因なのだから……」

「魔王復活、とか言ってたよな。双牙バルツェフ君が」

 彼もランファも、詳しく語ってくれる事なく去ってしまった。

「倒された魔王が復活しちまうってのは、ファンタジー物のお約束なの?」

「何の約束なのかは知りませんが……魔王は実は、倒されたわけではありません」

 魔王討伐を、気楽なイベントではなく生死を賭けた戦いとして実行したはずの聖王女レミーが、そんな事を言っている。

「……私たちが、こちらの世界に追い込んでしまったのです」



 コンビニ弁当の空容器に、猫缶の中身を盛りつけた。しらすとマグロである。

 そこに仔猫が、小さな鼻面を無心に突っ込んで口を動かしている。

「ふふっ……美味しいですかー?」

 食事中の仔猫の背中をそっと撫でながら、中川美幸はちらりとベンチの方を見た。

 弁当1つをあっという間に平らげた銀髪男が、それで足りた様子もなく、辛子高菜のおむすびに齧り付いている。

 恐る恐る、美幸は声をかけた。

「あの……美味しいですか?」

「人間の肉よりは、ましだ」

 冗談としか思えない事を真面目な口調で言いながら、男はたちまちのうちに握り飯を食い終えて、ペットボトルのお茶を一口流し込んだ。そして間髪入れず、菓子パンの袋を破く。

「ところで小娘……貴様に1つ、訊きたい事がある」

 アップルソースのデニッシュを齧りつつ、男は言った。

 今は全裸ではなく、ぴっちりとしたボクサーパンツを穿いている。それしか売っていなかったのだ。

「俺は一体、何者だ?」

「……それを、あたしが知りたいんですけど」

 美幸としては、そう答えるしかない。

「あの……もしかして記憶喪失、なんですか?」

「記憶か。確かに、何やらいろいろと忘れてはいるようだ」

 言いながら銀髪男は、デニッシュを口に押し込み、モグモグと何度か頬を動かしてから飲み込み、お茶の残りを一気に呷った。ペットボトルが、ベコベコッと潰れた。

 男が、息を吹き込む。潰れていたペットボトルが一瞬にして膨らみ、バンッ! と破裂した。

 仔猫がビクッと怯え、美幸は尻餅をついた。

 そこへ銀髪男がギロリと視線を向け、声を投げる。

「まあ記憶など、いずれ取り戻すとして……小娘、貴様は俺に食べ物をくれた。俺に1つ、貸しを作ったわけだな」

「そ、そんなつもりは……」

 この男とは、これ以上の関わりを持ってはならない。美幸はそう思ったが、銀髪男は構わずに一方的な話を続けた。

「貴様は俺と、契約を交わしたのだ……望みを言え。俺が、叶えてやる」

「望み、ですか……」

 記憶喪失なら、大人しく警察か病院にでも行って下さい。美幸がそう言おうとした、その時。

「あいつだな……おーい、そこのあんた」

 警官が2人、歩み寄って来た。

「公園に素っ裸の男がいるって通報がありましてね……あんた、パンツだけ穿いてりゃいいってもんじゃないよ」

「お嬢さん、知り合い?」

 美幸は慌てて、首を横に振った。

「あたしは、ただの通りすがりで……あの、この人、記憶喪失みたいで」

「じゃ名前とか訊いても、わからないかなあ」

「どっかの病院から、抜け出して来たのかな」

 言いつつ警官2名が、現場検証のような事をしている。見つかるのは、コンビニ食品の空容器くらいだ。

「この食べ物は……あんた、まさか泥棒とかしてきたんじゃないだろうね」

「泥棒だと……」

 銀髪男の両眼が、ギラリと危険な輝きを帯びる。

 美幸は、慌てて言った。

「あっあの、あたしが買って来たんです! この子が、食べられそうだったから」

 証言でもするように仔猫が、にゃーと声を発する。

「お嬢さん……親切なのはいいけど、あんまりそういう事しない方がいいよ」

「とにかく、ちょっと話聞かせてもらうから」

 警官の1人が、銀髪男のたくましい腕を掴んだ。

「あんた……凄い身体してるね」

「俺に、触れるな」

 掴まれた腕を、男が無造作に振り上げる。警官が、悲鳴を上げながら空を飛んだ。

 もう1人の警官が、気色ばみながら、腰の警棒を引き抜く。

「お、お前!」

 幸い、拳銃は携行していないようである。

 拳銃の1つ2つでは、しかしこの男を大人しくさせる事は出来ないのではないか、という気が美幸はしてきた。

「た、助けてくれ〜」

 物のように放り投げられた警官が、木の上に引っかかって悲鳴を上げている。

 もう1人の警官は、銀髪男に向かって、おっかなびっくり警棒を構えている。

「お前……何だよ、抵抗するのかよぉ……」

「抵抗……そうだ。俺は何やら、どえらい抵抗に遭ったような気がする……」

 呟きながら銀髪男は、向けられた警棒を無造作に奪い取り、割り箸か何かのようにへし折った。

 丸腰になってしまった警官が青ざめ、へなへなと尻餅をつく。

 そこへ、パンツ1丁のたくましい半裸身が迫り寄る。

「貴様を叩き殺してみれば、何か思い出すかも知れんな……」

「やめて下さい!」

 美幸が叫ぶと、銀髪男は動きを止めた。

「やめる……それが望みか? 小娘」

「はい……乱暴は、やめて下さい」

 この男を野放しにしてはならない、と美幸は思った。

 同時にもう1つ、あまり感心出来ない考えが浮かんだ。

「さっき契約って言いましたよね。その契約、どのくらい有効なんですか?」

「俺が、飯の借りは返せたと判断するまでだ……小娘、俺に何をさせたい?」

「ちょっと、面倒な事を……」

 感心されたり感謝されたりするためにやる事ではない、と美幸は思い定めた。自分が学校で嫌な思いをしないために、する事だ。

 この男の馬鹿力を上手く使えば、九条真理子へのいじめを止めさせる事が出来るかも知れない。

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