プロローグ 肉親との決裂
――――第6章 あらすじ――――
季節は夏。なずなとも和解でき、平穏な日常に戻ることができた志具たち。
学園生活の一学期も無事、乗り越えることができた志具は、女性陣たちと羽を伸ばすために遊びに行くことになった。
より親密な仲になろうと奮起する者と、それを傍らで見て楽しむ者……。騒々しくも平穏と思える日常に、志具は温かさを感じていたのだが…………。
父親――万条院源武は、自分にも他人にも厳しい性格だった。
不義を許さず、それを目にし、気がつけば、父親は容赦なくその人間を粛清していった。自分をひたすらに律し、自制し、感情に左右されない彼の言動は、人を惹きつけもしたし、恐れおののかせもした。
それは何も仕事のときだけでなく、プライベートな時間のときもそうだった。気が休まらぬ日常に、幼い頃からななせは、父親に反感をもっていた。しかしそれでも、母親――万条院沙耶により、父親に不必要に逆らわないように言いつけられていた。実際、源武のやり方は人の血の通わない冷徹なものが目立ったが、行っていることは筋が通っており、反論の余地がなかったためだ。
正しいことをしていることはわかってはいた。……が、あまりにも人情の欠片もなければ、それに反感を覚えてしまうものだ。ましてや子供というものは感情で動く生き物。理性が伴わなければ自制を利かすことなどできず、そういった理性が伴うのは、ある程度歳を重ね、経験を積んでいかねばならない。ただ、経験するだけでなく、そこから何かを学び取る姿勢がなければ、はっきりいって無駄なものだが……。
父親との交流の時間は、とても少なかった。仕事は基本的に、彼ひとりがこなしていたし、仕事から帰っても、食事のときに数度言葉を交わすだけで終わっていた。その数度の会話というのも、雑談というよりは何かの聴取を受けているような気にさせる、堅苦しいものだった。
そんなことがずっと続けば、さすがに嫌になってくるというもの。ただでさえ少ない会話が、いつしかゼロになっていたのを、ななせは憶えている。食事の場はただ、栄養を摂取するだけの時間となり、それ以外の時間は、基本的に自分の部屋で過ごしていた。
そんな彼女を危惧したのか、ある日、母親がななせ専属のメイドを雇うことを、食事の場で父親に提案した。どうやら、そういうツテが、母親にはあったらしい。
父親は特に反論せず、ただ一言「ああ、いいだろう」と答えただけだった。
それからしばらくし、ななせのもとに自分と同年齢と思われるお手伝いがやってきた。それが、花月菜乃との出会いだった。
菜乃との出会いで、冷めついていた日常に色と温度が宿るのを、ななせは感じた。正直、父親に感謝の念を感じた瞬間でもあった。なんだかんだ冷徹な態度をとっていても、自分のことを考えてくれているのだなと、そう思った。
ただ……そんな父親への思いも、ある日を境に、跡形もなく霧散した。
父親――万条院源武が、沙耶を殺した、あの日から――――。




