第12話 待っていた言葉
どれほどの間、気を失っていたのだろう。目を覚ますと、空は星空満たされていた。もっとも、壷の中にいるというのに、空があるなんておかしいのだが、それを言ってしまえば色々と終わりである。
なずなは鬱蒼とした森の中――高い位置にある太い木の幹に寝転がっていた。
……いや、落ちてきたと言ったほうが正しい。なずなの見上げる視界の上には、鋭い崖があった。
土蜘蛛の制御が効かず、襲われる立場になってからどれだけの時間が経過したのか、なずなにはわからなかった。ただ、身体に蓄積された疲労が、時間の経過の長さを物語っているかのようだった。
土蜘蛛はどこに行ったのだろうか? 神殿から森に避難し、崖まで追い詰められ、こうして落とされたわけだが……。
――もう殺したって思っているのかな……。
だとすれば幸運だが、そう嬉しい方向に考えを巡らせるのはよくないだろう。耳を澄ませると自分が寝転がっている樹の下で、何かが蠢く音が聞こえる。それは何か、捕食するための獲物を探しているような獰猛さがある足音で、聞く者の心を恐怖で震え上がらせるものだった。
――このままこの場にいたら、どうなるかな……。
いつまでもこうしているわけにはいかない。対策を練らなければならないが、『壺中天』の出入り口が塞がれている以上、どれだけ頑張っても助からないのは、薄々感じていた。
ここで抵抗したところで、結局のところ無駄なものに終わるのではないか。そんな無力感が、なずなの心を揺さぶる。
だけど……、となずな。これも、なるべくしてなった結末なのかもしれないと、そう思うようになっていた。
正直自分は、一度死んだ身だと、なずなは考えていた。
かつての同志に牢獄に入れられたとき、あそこで本来ならば餓死するはずだったのだ。
それが……どういうわけか運よく、助かった。
そして、その助けられた理由も、結局のところは自分を組織の手足として使いたいからというものだった。玖珂なずなという一個人を必要としたものではなく、いくらでも替えの効く駒として必要とされただけだった。
――駒を捨てるときが来たのかもしれないな……。
遅かれ早かれ、彼女に……さらにいえば『フリーメイソン』についていけばこうなる運命だったのだ。その時期が『今』来ただけに過ぎない。そう考えれば、納得できるではないか。
そう、納得……。
――…………。
……できる、はずだというのに……。
どうして……? 自分の心は反発を覚えるの?
なずなは、嫌だった。いくらでも犠牲を払い、利己的に今までつとめてきたというのに、それでも諦めきれなかった。
諦めが悪い。
見苦しい。
他人が見れば、きっとそんな風に映るだろう。
しかし、結局のところ、いきつくところはそこだった。
諦めたくない。
死にたくない。
そういった、生きることへの根源的な想いが、今のなずなのすべてだった。
過去を悔いるには、犠牲を払いすぎたかもしれない。
自己満足に振る舞い過ぎたかも過ぎない。
それが身勝手なことだということは、なずなとてこれまで幾度となく自覚してきた。自覚して、それでも兄を助けるために、自分の身を汚してきた。汚名を着せられようとも、自分のことだから我慢できた。どれだけ針刺すような心身の苦痛にも耐えてきた。
それでも……。
それでも……死にたくないのだ。
そのとき、なずなのいた樹の幹が、彼女の嘲笑うかのごとくへし折れた。
「きゃ――っ!」
下で徘徊していた土蜘蛛の群れに盛大な音を立てて落ちたなずなは、すぐに立ち上がり、『村正』を構える。
子供くらいの背丈から岩のように巨大な土蜘蛛まで、計五匹ほど。ここにいるのはまだほんの一握りで、すべてを数えれば、それこそ星の数ほどいる。なにせここは、土蜘蛛の飼育小屋として使われていたのだから。
「はぁっ!」
なずなは壁の薄い、小さな土蜘蛛を妖刀で一文字に真っ二つにすると、その場から脱出した。
背後から、茂みをなぎ倒しながら、土蜘蛛の軍勢が追いかけてくる。蜘蛛が波のように押し寄せて襲ってくることに、これほどまでに生理的な嫌悪と恐怖を感じるとは……。
身体に傷があるとはいえ、なずなのほうがずっと身軽のようであり、森の中を駆け抜ける分には、彼女の方に分があった。
しかし……、
「あっ……」
拓けた草原となっている場所で、なずなは駆けるのを止めざるを得なくなった。
正面から、三階建ての一軒家ほどの巨体を誇る土蜘蛛が、木々をなぎ倒して現れたからだ。おまけに、子分の土蜘蛛を連れて……。
引き返そうにも、すでに追いかけてきていた土蜘蛛が道を遮っており、なずなはもはや、逃げるすべがない。
立ち向かおうにも、これだけの数を相手にできるわけもない。四肢を引き裂かれ、土蜘蛛のディナーとなる自分の姿が、なずなの脳裏をかすめた。
生きる気力が、風前の灯火のように消え入りようとしていた。無駄な抵抗をし、衰弱しきった状態でなぶり殺されるのは嫌だと、身体が動かなくなっていた。
空が、遠い……。地獄に下りてきた蜘蛛の糸のように、星の光が一条の糸となって自分を救い出してくれないだろうかと、なずなは思った。
しかし、そんなことは万にひとつもあり得ない。仮にあったとしても、自分のような利己的な人間では、糸がすぐに切れてしまうことだろう。
それでも……。それでもなずなは、死にたくなかった……。
そういえば……、となずなは思い出すのは、ひとりの先輩のこと。
今まで何度と自分に救いの手を差し伸べてくれていた、先輩のこと。
彼が差しのべたその手を、自分はどうしただろうか?
どうしてあのとき、握ろうとしなかったのか?
助けられたくなかったから? 違う。
きっと……見られたくなかったのだ。心身ともにこんなに汚れた、自分の姿を。
本当は、助けてほしかった。
こんな醜い自分を……こんな醜い自分でも……。助けてほしかった。
今まで恥ずかしくて、見られたくなくて、言えなかったけど……。
自分は……。
自分を……、
「………………………………助けて…………」
そのとき、一条の青白い光が、天から落ちた。
それは斬撃。青白い斬撃が、土蜘蛛の群れの一部を盛大に両断し、ぶっ飛ばした。
星が落ちてきた。
一瞬、なずなはそう思った。流れ星となり自分の不躾な願いを聞き入れ、助太刀を入れてくれたのかと思った。
けど……違った。
それは、流れ星よりもずっと温かなもの。
自分の近くにありながらも、はね除けてしまっていたもの。
それは、ひとりの少年。
青白い光を放つ、幅広のバイキングソードを携えた、なずなの先輩。
「――待っていたぞ、その言葉を」
助けて……。
なずなのその儚げな言葉を聞き届け、その願いを実現しに来た流れ星――真道志具が、そこにいた。
――◆――◆――
なずなの位置を見つけ出すのは、思った以上に難しくなかった。『壺中天』の出入り口である海の崖に造られている神殿にやってきた志具とななせは、なずなを追ってできたのであろう、土蜘蛛の大群がつくった道をすぐに見つけたのだ。森の木々や茂みをなぎ倒してつくられた道を、志具とななせは急いで進み、そうして案の定、なずなを発見することができた。
土蜘蛛に包囲されているなずなを助けるべく、先行していた志具が『グラム』で土蜘蛛の大群の一角を両断した。威力の加減や、精密な攻撃の照準を合わせる必要などありはしない。当たるべき的はいくらでもあるため、『グラム』ほどの巨大な剣ならば、でたらめに振るうだけでも攻撃を当てることができる。
「先輩……さん…………?」
志具はなずなをかばうように、彼女の前に立ちはだかる。そうした志具に、なずなが「信じられない……」というニュアンスを含んだ言葉を発していた。
なずなのその反応が、志具にもわかる。彼女にしてみれば、もう助かるとは思っていなかっただろうから……。
だから志具は、彼女を安心させるという意味で、背を向けて言葉をかけた。
「なずな、助けに来たぞ」
息を呑む声が、背後から聞こえた。何を意味したものなのか……。色々な複雑な思いが、なずなの頭を巡っているのかもしれないゆえにものなのかもしれない。
「むっ……」
志具が土蜘蛛の骸で開けた穴を、他の土蜘蛛が押し寄せて塞ぐのが見えた。これほどの数だ。あの程度の穴では、すぐに修復されてしまうことはわかってはいたが……。
志具はそれほど深刻には考えていなかった。
「おい、あたしを無視しないでくれよ。化け物ども」
直後、目を灼くような朱色の炎が、爆炎とともに舞い上がった。その場所にいた大小の土蜘蛛が四肢をバラバラにし、肉片をまき散らしながら、空中を散っていた。
化物級に巨大な蜘蛛といえど、巨大な猛りを上げる炎に、本能的な恐怖を察知したらしい。炎を避けるように、土蜘蛛の波が割れた。
まるでモーセみたいだな、と志具。もっとも、あの神話の人物のような神々しさは、あまり感じなかったが。それは波となっているものが蜘蛛という中々グロテスクなものである以上に、波を割って現れた人物に問題があるものだと思われる。
「置いてくなよ、志具」
不満そうに口をとがらせてやって来たのは、ななせだ。
「君が遅いのだろう?」
「そういうお前は早すぎるって。まったく、あたしの中に出すときもそんなに早いんじゃ、がっかりなんだからな」
「き、君は何を言っているのだ!」
「おやおやぁ? さっきの意味が分かったのかぁ~、志具~。やっぱりムッツリスケベだな」
「い、今はそんなことを言っている場合ではないだろう!」
いきなり下話をしてこようとするななせに、志具は慌てた調子でそう言った。こんな猥談を好むような人間に、神々しさなど感じるわけがない。
ははは、とななせは軽快に笑っていたが、やがて気を切り替えると、
「さあ、早くここから脱出するぞ!」
ちょうど今、炎に包まれている場所がひらけている状態だった。この間に土蜘蛛の包囲から抜け出さないと、後々面倒なことになることは、目に見えていた。
ああ、と志具は頷くと、放心となっていたなずなの手首を掴み、駆けだした。
「あっ……。せ、先輩さん……」
我に返ったように口を開くなずな。何か言いたげだったが、言葉がつっかえて出てこないようだ。
本当なら待ってやりたいところだったが、
「なずな、話は後だ。今は逃げることだけを考えていろ」
落ち着いた調子で言う志具に、なずなの返答はなかった。ただ、黙りながらも反抗せず足を動かしていることから、言いたいことは伝わっているようだ。
「ずいぶんと多いんだな、土蜘蛛っていうのは!」
道を往く間も、群れに入っていなかった土蜘蛛が、そこらかしこから姿を現すのを見て、ななせは苛立たしそうにそう言った。
迫ってくる土蜘蛛を、先陣を切っているななせが『桜紅華』で斬り払っていく。とどめを刺しているかを確認するほどの余裕はなかった。
「……あの、先輩さん…………」
沈黙を続けていたなずなが、再び口を開いた。
走りながら志具は訊く。
「なんだ?」
「どうして……ボクを助けたんですか? 敵である……ボクを…………」
敵か……。
その言葉に、志具は失笑と悲しさを感じた。
だけど、それは結局のところ真実なのだ。敵として、玖珂なずなが真道志具の命を奪いに来ていた現実は、過去となってしまった今ではもう、揺るがないものになってしまった。
しかし……、と志具。
『過去』が揺るがないもので、変えられないものであるのならば、自分となずなの関係にも、変わらないものがあるはずだ。
敵対しているという関係よりも、ずっと昔の関係……。
「……ああ、そうだな。私と君は、敵同士になっていたな……」
けどな、と志具は言う。
「それ以前に、君は私の学校の後輩だ。先輩である以上、後輩が悩み苦しんでいるときは、助けるのが人情ってやつだろう?」
「……そんな関係、もう消えましたよ」
「消えていない。消させはしない。現に私はこうして、君の手を掴んでいるだろう?」
「……離してください」
そっぽを向いてなずなが言うのを、志具は失笑を禁じ得なかった。
やれやれ、と志具は内心、肩をすくませた。世話のかかる後輩だ、と。
そうやって、そっぽを向いて、いじけて、うずくまっているような人間を見たら……、
「――後輩でなくとも、君を助けに来ただろうさ」
そうだろう? と志具。
鬱陶しくは感じるかもしれないが、放ってはおけないだろう。人の良心が疼くだろう。良心が疼けば、少しでも助けになりたいと思うだろう。
結局のところ、そういうことだ。すべての親切心は、そこから来ているはずだ。
志具は、そう思っている。
「もう少しで出口だ!」
ななせが叫ぶ。前を見れば確かに、神殿が小さく見えていた。
目標が目に見え、志具はラストスパートをかけるべく、走る速度を上げた。
志具に手を掴まれているなずなは、無言だった。何も言葉を発しない。志具も、振り返らないので顔が見えず、表情がわからない。
ただ……。なずなの手が、少し震えているようだった。
走っている振動だろうか? ……否、違う。それとは別の震えだ。なおさら、志具は振り返れなくなった。
やがて志具たちは、森を抜け出た。狭かった視界が一気に開け、広大な海が視界に入って来る。
神殿までのあとわずかな距離を、ななせが先行し、その後に志具となずなが続く。
崖脇の道を必死に駆けていた三人だったが、
「……っ! 何か来る!」
志具が気づくのと、その『何か』が現れたのは同時だった。
森の木々が盛大にぶっ飛んだかと思うと、ななせと志具たちの間に見上げるほどに巨大な土蜘蛛が飛び込んできた。
どうやら、その巨体を利用して、道を利用せずにわざわざ森を直進してきたらしい。
「ずいぶんと大きいな……」
ちょっと高級な、三階建ての一軒家ほどの巨体を誇る土蜘蛛を見上げ、志具は表情を引き締める。おそらく、こいつが土蜘蛛の親玉なのだろう。
子分たちは、幸いにもまだ追いつけていないようだ。しかし、それも時間の問題だろう。
鬼のような顔をした土蜘蛛は、紅い八目を志具となずなに向けていた。
正直、この世界に踏み入れる最初に見たときは、ただただ恐怖しか感じなかった。
しかし、今は……、
「後輩を怖がらせたことに対する怒りしか感じないな……」
その怒りに比べれば、土蜘蛛に対しての恐怖心など、砂粒程度にしか感じない。志具はなずなから手を放し、『グラム』を両手で構えた。
直後、土蜘蛛が樹の幹ほどに巨大な脚を振り上げ、叩き下ろしてきた。
志具はそれを回避する。砂埃が舞い、視界が不良となるが、如何せん相手が巨体なので、見失うことはない。
なずなも回避したようだ、後方に下がり、志具たちを見やっている。
正直、身体の傷が疼くので、戦力になってほしいのだが……まあいい。
砂煙を突っ切り、土蜘蛛がその巨体を突進させてきた。その大きさの割に動きがなかなか素早いようだ。
巨大な建物が脚を生やし、向かってくるような威圧感。しかし、今の志具は、その気持ちを投げ捨てていた。
志具は土蜘蛛の動きを見きり、相手の脇をすり抜ける。そうしてすり抜けざまに『グラム』を横一文字に振るい、太い脚をへし折った。
耳障りな、固い表皮をもつ脚が折れる音がし、土蜘蛛の体液がしぶきを上げた。
さらに追撃とばかりに、志具は二撃、三撃と、無防備な脇腹に叩き込む。それで怯んだすきに、八本ある脚のうち、目に映る、残っていた三本の脚を立て続けに砕いた。
さらにそこに、ななせの加勢が入る。『桜紅華』の朱の斬閃が、土蜘蛛の身体を幾重にも踊り、傷を走らせた。
金属を磨り合わせたようときに発せられるような、金切り音を上げる土蜘蛛は、その虎の模様の入った巨大な腹を大きく振り上げ、志具に向かって叩き落した。
地面が揺れるほどの振動と轟音が鳴り響く中、志具は紙一重で避けていた。
ギチギチ……。
それは威嚇音なのか、それとも関節が軋むことでなる音なのか……。土蜘蛛はそんな音を立てながら、背後へと回っていた志具たちへと振り返った。
「馬鹿でかい図体をしてるだけあって、体力だけは有り余っているようだな」
隣にいるななせが、そんなことを言っていた。
初めて出会った土蜘蛛と比べると、火力、耐久力ともに高スペック。図体に見合うだけのものは持ち合わせているようだ。
あのときの土蜘蛛とは、能力的にはるかに上。
だが……、と志具は不敵に口元を緩める。
それはこちらとて同じ事。あのときのように、ただ目の前の怪物に恐怖し、足手まといになっていた自分ではない。あのときは、ななせだけで戦っていたが、今は自分も戦えるのだ。
「万条院。――行くぞ」
志具の短い一声。それだけでななせは「応!」と答え、二人同時に土蜘蛛に向かって駆けた。
土蜘蛛が粘質の糸を口から吐き出すのを、二人は左右に分かれることで回避する。そうして両側から、一斉に攻撃を叩き込んだ。
澱みがない攻撃の数々。朱と青の線が円舞を踊るように土蜘蛛の巨体を走り回る。
それは苛烈にして神秘。
暴力的だというのに、美しいと思わせる攻撃。
そう思わせるのは、志具とななせの動きが絶妙に合わさっているからだ。息の合ったダンスは、見る者を圧倒し、虜にするように……。
土蜘蛛が巨体を揺らし、脚を無作為に暴れさせ、鼓膜を悪戯に振るわせるような金属音めいた叫びを上げる。
しかし、志具たちの攻撃は止まらない。土蜘蛛が振るう巨木のような脚をかいくぐり、巨岩のような丸く太っている身体の押しつぶしを避けてみせる。隙をかいくぐり、ダメージを蓄積させていく。今や土蜘蛛は、全身から腐臭を放つ、緑色の体液をだらだらとこぼしていた。
ギチ……ギギチギチチギ…………ギギギギギイイィィィイイイイィィィィィイイイ――――――‼
土蜘蛛が雄たけびを上げた。その異変に、志具とななせは一度、敵から距離を置いた。
折れた脚を引きずり、ギチギチと唸りながら志具たちに向き直る土蜘蛛。その八つの目にはいずれも憤怒の紅に染まっていた。
そのとき、『グラム』の青白い光が一層の輝きを放ち始めた。夜の闇を消さんとするほどの、眩い光を。
「志具。後は任せろ」
「任せる」ではなく、「任せろ」か……。
一見、矛盾するような言葉だが、志具には、その言葉の真意が理解できていた。
志具は土蜘蛛を見据える。蜘蛛の怪物は、『グラム』の放つ光に恐れおののいている様子だった。しかし、
ギギイイィィイイィイイイイ――――‼
やられる前にやる、というわけだろうか。土蜘蛛が志具に向かって突進した。砕け、かろうじてついていた脚を飛びかかる反動で吹き飛ばせ、体液を噴き出しながら。
傷つき、疲弊した身体……。そう言う点では、志具とて同じだった。ここまできたら、もう気力の勝負なのだろう。
だから志具は、己の気力をすべて振り絞った一撃を、見舞うことにする。
気力を燃やし、血潮を滾らせ、全身全霊の一撃を。
後先なんて、考えない。きっと、彼女が何とかしてくれる。
「ドラゴン――――スレイヤアアアァァァァ――――――‼」
志具の咆哮と同時、『グラム』の刀身が青の閃光となり、土蜘蛛を貫いた。
刀身は一条の光線のごとく土蜘蛛を刺し穿つと、貫いたかの身体を膨れさせ、やがて爆散した。
青白い光の粒子とともに、土蜘蛛の肉片が飛び散る。しかし、肉片は『グラム』の光の粒子に触れると蒸発し、跡形もなく消えていく。
星の光のような『グラム』の粒子と、親玉の土蜘蛛が跡形もなくなり、やがて場に静寂が訪れる。
――終わったか……。
倒したという安堵を志具は感じた。その直後、
――っ……。
視界がぐにゃりと歪み、同時に四肢の力が一気に抜けた。まるで全身の筋肉と骨を失ったかと思ってしまうほどの脱力感。その気持ちが志具の意識を鷲掴みにし、彼を深い眠りの中へと引き摺り込もうとする。さすがに抗えそうになかった。
――しかし……今回はかまわないか……。
ななせの言葉が蘇る。
後は任せろ。
つまりは、そういうことだ。
だから志具は、今まで溜めに溜めていた疲労を清算するように、意識を闇へと落とした。
眠りの中に落ちる直前、誰かが自分の背を支えてくれる感触を、確かに感じた。
二人分の温もりが、そこにはあった。




