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神奇世界のシグムンド  作者: 上川 勲宜
第4章 金色の焔
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幕間3 凡庸、からの一歩

 理不尽な現実。


 理不尽な環境。


 理不尽な人々。


 幼い子供が生き抜くには、あまりにも苛烈な経験だった。大人ですら根を上げてもおかしくはない現状に、菜乃は耐え忍んでいた。


 不満に声を上げることすら許されなかった。そうすれば最後、血の通っていない大人たちに煙たがられ、孤立への道を歩むことになってしまう。それが嫌で、菜乃は表面上だけの笑顔を作って、その日その日を取り繕っていた。


 そうした生活を五年ほど続けたときだ。


 彼女――西元佳織と出会ったのは。


 ……いや。出会ったと言っても、面識があったわけではない。最初は電話だけの関係だった。実際に対面したのは、中学二年くらいに上がってからのことだった。


 当時の佳織の話を聞くと、どうやら彼女は、ずっと菜乃のことを気にかけていたらしい。どうしてそこまで気にかけてくれたのかを訊くと、佳織はどうやら、あの事件の担当になっていたとのこと。


 両親を殺されて、天涯孤独の身になっていた菜乃のことで、ずっと気を揉んでいたとのこと。今まで連絡を取ろうかどうかを悩んでいて、今回、ようやくその決意が固まったとのことだった。


 安い同情か、と菜乃は初めのうちは思っていた。しかし、毎日のように電話をしてくれる佳織に、いつしか菜乃は、心を許すようになっていた。

佳織と電話で会話するようになって、凍り付き、暗澹とした雲を漂わせていた心が、少しずつ晴れていった。


 佳織は親身になって、自分のことを気遣ってくれていたことを、菜乃は今でも覚えている。時折、お節介が過ぎると思うこともあったが、それは何の悪意もなかったことから、そこまで不快に感じ取ることはなかった。


 そうして菜乃が中学に上がった頃だ。彼女が、万条院家のもとで働くことになったのは――――。


 佳織が仲介役となってくれたおかげで、菜乃はそこで働けるようになり、同時に住処を移すことができた。中途半端に自分を知ってくれている人よりも、自分のことを一切知らない他人のところにいたほうが、不思議と安心感があった。


 そこで菜乃は、ななせと出会った。


 そこで気づいたのは、ななせもななせで、それなりの苦労を味わっているのだな、ということだった。


 自分とは違うベクトルの苦労だったが、それでも菜乃は、ななせが抱いている悩みの程を、ある程度察することができた。


 ななせは当時から、今のような性格だった。明るく、竹を割ったような性格で、時折、底意地の悪い悪戯をするのだ。


 初対面の菜乃も、その制裁に初めは困惑したものだった。ただ、悪意がないことがわかると、不思議とその意地悪さも苦にならなくなった。それだけに、時折見せる、ななせの父親に向ける負の感情には、怖いものを感じさせるものがあった。


 ななせの美点は、そういった私的な負の感情を、誰彼かまわずまき散らさない、というところだった。関係ない人にまで、理不尽さをぶつけるような真似を、ななせはしなかった。こういう面のおかげで、菜乃は比較的早く、ななせに心を許すことができるようになったのだ。


 いつしか菜乃は、ななせの専属のメイドとなった。歳も近いということもあるのだろうが、一番の理由は仲がよかったからだろうと、菜乃は思っている。


 ななせの身の回りのお世話をするうちに、菜乃はさらに彼女と仲良くなった。それは、専属のメイドになってからも、ななせの態度が前と全然変わらなかったことも手伝っていたのだろうと、菜乃は思っている。


 だからこそ、ななせがとある少年のもとで暮らす決心をしたときも、菜乃は彼女について行こうと、そう思えたのだ。


 その選択に、後悔などありはしない。


 ここに初めて来た当初よりも、今の菜乃は強く、そう想えるようになっていた――――。



 次回で第4章、完結します。

 更新予定日は、12月7日、土曜日、18時の予定です。

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