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神奇世界のシグムンド  作者: 上川 勲宜
第3章 心の境界線
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第8話 神の雷

 ななせは猛る炎を宿らせた『桜紅華』を左下段にかまえると、一気に袈裟気味に振り払った。刹那、炎の斬撃が衝撃波となって、ゲルディめがけて放たれた。


 しかし、ゲルディは特に回避するようなそぶりを見せない。人を不快にさせるニヤついた顔をする彼の前に、あの『オーガ』と呼ばれた巨漢が壁となって立ちはだかった。


 衝撃波が『オーガ』の太鼓腹に直撃し、一瞬眩い緋色の閃光を放ち、爆音を響かせる。


 細い黒煙が散り散りに上がるが、『オーガ』はびくともしていない様子だった。直撃した個所が黒ずんだ程度で、傷を負わせることができたとはとてもではないが言い難い。


 ――直接斬りつけるしかないな!


 そう判断したななせは、次の瞬間にはひとつの弾丸となったかのごとき速さで、『オーガ』に迫った。


 『オーガ』の動きは、見たところ非常に緩慢だ。ななせの動きに、まったく対処できていない。迫っていることすらもわかっていない様子だった。


「はああぁぁ――‼」


 今度は振りかぶってからの一撃。相手の贅肉を削ぎ落とす勢いで、ななせは『オーガ』の腹に、己の『桜紅華』を振り下ろした。


 ……が、


「なっ⁉」


 斬撃の軌道が止まった。敵の肉によって。


 彼の丸く肥えた腹の肉に、『桜紅華』がめり込むものの、斬れない。まるで伸縮自在のゴムでも斬ろうとしているかのように。


「クク……。蚊ごときの針のように貧相な得物で、こいつの腹を掻っ捌けるわけがないだろう!」


 ゲルディが哄笑を上げる。


 刹那、ななせが身の危険を感じ取り、その場をバックステップで退いた。


 すると、彼女が先程いた場所が、爆発する。


 ……いや。爆発したように見えただけだ。正確には、『オーガ』の振り下ろした拳が、アスファルトの地面を打ち砕いたのだ。


 地面を揺るがすほどの一撃に、後方からマリアの悲鳴が聞こえる。……が、ななせも気にしている暇がなかった。


 ――来る!


 前方を凝視するななせ。


 そんな彼女の視界に、『オーガ』が立ち込める土煙を突っ切って突進してきた。


 まるで暴走した軽トラックが向かってくるような威圧感。だがそれを、ななせは気分を奮い立たせることで振り払った。


 気分を振り払うと同時、『桜紅華』を『オーガ』のどてっ腹めがけて切っ先を突き立てようとする。「斬り」よりも「突き」のほうが、表面積が狭い分、一極に威力を集中しやすいためだ。


 ――これでやつの腹を貫いてみせる……!


 『オーガ』は幸いにも、こちらに向かって突進している。こちらも真正面から向かい討てば、威力は倍々になることだろう。


「てりゃああぁぁ――――‼」


 渾身の一撃を、『オーガ』に向かって放つななせ。


 『オーガ』に魔剣がめり込んだ瞬間、ドゴオオオオォォォォン‼ と人がトラックに轢かれたような轟音が響き渡った。同時、ななせの腕がメキメキと悲鳴を上げる。


 プチプチと筋肉が断裂されていく感覚を感じ取り、ななせは苦悶に顔を歪ませた。


 しかし、彼女は怯まない。魔剣の切っ先をより深く敵に突き立てるため、腕にかかる力を落とさないでいるのだが、


 ――な、んだ……? これは……。


 まるで皮膚を貫いているという感じがしない。それはまるで、指先を水に浸した片栗粉の中にゆっくりと沈めていっている感じに似ていた。押し込んでいる感覚はあるのだが、貫いているという気がまるでしないのだ。


 こいつ……っ、とななせは歯噛みした――――直後、彼女の身体が後方に大きくはじけ飛んだ。


 弾丸の速さを上回る勢いで、ななせは吹っ飛び、向かい側のビルの壁に叩きつけられた。衝撃で壁は破壊され、ななせは瓦礫の中に埋もれる。


「ななせさん!」


 悲痛に満ちた、マリアの声。


「クヒャハハハハ…………‼ 愉快だ! 実に愉快! パチンコでアマガエルを吹っ飛ばしたような快感だよ!」


 対し、恍惚に満ちたゲルディの声。


 それらはすべて、瓦礫に埋もれたななせの耳に届いていた。


 畜生……、と思いながら、ななせは瓦礫を押しのけ、姿を現した。


 彼女の背には、赤く血が滲んでおり、双方の二の腕からも、裂けたような傷跡ができていた。吹っ飛ばされた際、力を緩める暇がなかったため、腕の筋肉が張り裂け、裂傷となったのだ。そのせいで腕に力がなかなか入らない。


 ななせはとんだ失態を冒してしまった、と内心で舌打ちをする。


 ただでさえ相手に傷を負わせられないというのに、渾身の一撃が使えないようになってしまったのだから……。


「おやおやぁ~? どうしたというのかねぇ~? ずいぶんと大人しくなっちゃいましたねぇ~? さてはおねむの時間でちゅかぁ?」


 ゲルディが下卑た笑いを含ませ、ななせに言葉を向けた。


 ――こいつは相変わらず、性根が腐っているようだ。


 このような外道に、どうして神様というのは圧倒的ともいえる天才的な頭脳を与えたのだろうか。下衆に高度な知恵を与えるとこうなるという良い例が、まさにゲルディなのだろうと、ななせは感じた。


 だが、ななせとて、彼の安い挑発にのってやる気は毛頭なかった。


 冷静になり、どうすればいいのかを考える。


 ななせが頭を冷やしたことにより、『桜紅華』の炎の勢いが若干弱まった。しかし構わない。今は攻撃する時ではないのだから、こうすることで無駄な魔力の消費を減らせることができる。


「ケキャキャキャキャ! どうやら戦闘意欲も削がれているみたいで。ご・し・ゆ・う・し・よ・う・さ・ま♡ キャア――――ハッハッハッハッハアアァァ‼」


 手をパンパンと叩き、愉快だとばかり笑いまくるゲルディ。それはチンパンジーやオランウータンの様に、よく似ていた。


 ――そういえば、『オーガ』はやつのペットだったな……。


 わざわざペットを相手にする必要は、どこにもない。要は司令塔さえ叩けばいいのだ。


 見たところ、『オーガ』には知恵というものがほとんど欠落しているように思える。彼の頭脳となっているゲルディを叩けば、あるいは……。


 よし、とななせは決断。


 数歩助走をつけると、それからは一気に加速した。それは相手の不意をつくためでもあった。


 現にゲルディは、『オーガ』の陰に隠れておらず、護るべき遮蔽物が一切ない状態だった。


 ゲルディの目は驚愕に見開かれている。まさか自分が狙われるとは、思っていなかったらしい。頭が無駄に働くくせに、こういう戦闘の勘は疎いようだ。


 ――もらった!


 逆袈裟に斬りこもうと、ななせが下段に『桜紅華』を構えた瞬間、


 ――……っ!


 膨大な魔力の気配を、ななせは感知した。


 どこからだ? ゲルディではない。ましてや、『オーガ』でも、まひるでもない。


 考える時間は、ほんの一秒ほどしかなかった。


 刹那、ななせの身体を轟雷が撃ちつけた。


 ななせの視界が一瞬にして白光に染まり、全身に灼けるような衝撃が走った。


 耳の鼓膜が劈かられると思ってしまうほどに凄まじい轟音。地面が吹っ飛ぶほどの凄まじい衝撃。立ち込める黒煙……。


 意識が一瞬にして打ち砕かれそうになるのを、ななせはかろうじて堪えた。……が、身体が倒れたまま動けない。耳がキーンと鳴り、満足に周辺の音を拾うことができなかった。


 土煙が晴れていくと、まず最初に視界に入ったのは、ななせを見下すゲルディの姿だった。


 彼は実に快感だとばかりに目つきを弓状にし、ニヤニヤと嗤っていた。


「ククククク……クックク~のクウウゥゥゥゥッフフフフフフウウゥゥゥゥ! キミキミィ~、まさか本当にワタシが何の対策もしていないと、ほ・ん・き・で、思っていたわけぇ~?」


 全身の筋肉が自分の思い通りに動いてくれない。雷による一撃でマヒし、動けたとしてもピクピクと痙攣する程度にしかならない。


 それが無様で滑稽だとばかりに、ゲルディは口元を歪ませる。


「こおぉ~れだから低能ウジムシ野郎は愚かなんだよおおぉぉ! いざというときに、ワタシは『ゼウスの雷霆(らいてい)』を用意してたのに、まったくそれに気づかないんだからなああぁぁ!」


 ――『ゼウスの雷霆』、だと……⁉


 かろうじて聞こえたその単語に、ななせは驚きを隠せなかった。


 『ゼウスの雷霆』は、『アーティファクト』のひとつであり、この名の通り雲の形をしている。


 『アーティファクト』というのは多くの場合、剣や盾、本などの手に触れられる状態であるものであるのだが、『ゼウスの雷霆』は実態が雲である。明確な形を持たない『アーティファクト』はそれだけで珍しいものなのだが、その中でも『ゼウスの雷霆』はトップクラスに貴重なものだ。なにせ、かの有名なゼウスの持ち物とされているものなのだから、ネームバリューも相当のものだ。


 そのような代物を、このような男が所持しているとは……。ななせは本格的に、神様というものを呪わずにはいられなかった。


 ゲルディはゆったりとした足取りでななせに近づくと、靴先でななえの頬をツンツンと突く。


「お似合いだ……。実にお似合いだよ、キミィ~。地べたを這いつくばるアリに相応な様だ」


 こ……、の……、とななせは喰らいつきたい衝動に駆られるが、身体が言うことをきいてくれない。このような外道に文字通り足で扱われ、ななせのプライドに疵がつく。


「さてさて、どうしてやろうかねぇ……。普通に始末しちゃつまらないな……。もう少し興奮するシチュエーションを準備できないものか……」


 強者の余裕というものか、ゲルディはなにやら思索する。いかに自分が楽しめるような殺し方をするか、悩み始める。


 一矢報いてやりたい……。目の前にやつがいるというのに、手を伸ばすことすらできない。足首を掴むことすらできない……。


 己のやるせなさに、ななせは辛酸を味わう。


 ――こんなところで……やられるわけにはいかないっていうのに……っ!


 ここに来てから、まだ彼の姿を一目すら見れていないというのに、こんなところで終わるのか……?


 会いたい……。


 会いたかった……。


 どうして自分がここまで彼のことを想うのか、ななせにはわからない。実のところ、彼女自身も、はっきりとした気持ちがあるわけではない。マリアほどの、確固たる想いが……。


 ただそれでも、自分の心が彼に会いたいと想っている。彼を手に入れたいと、想っている。


 その望みを…………ななせは果たせない。


 苦虫を噛み潰したような顔で、ゲルディを睨み付けるのが、関の山だった。



 ――◆――◆――



 一瞬、目が眩むほどの白光が視界を灼き、脳を突き抜けんばかりの轟音が、マリアの耳朶を打った。


 悲鳴を上げる余裕すらなかった。それほどまでに唐突な出来事だった。


 瞬間的な眩しさから視界が回復すると、次にマリアが見たのは、ななせが焦げ付いた地面に伏している姿だった。


「ななせさ……っ」


 彼女の名を呼ぼうとすると、『オーガ』と呼ばれたあの怪物が、マリアのほうを一瞥する。その血のように紅い眼光に、身が竦み、動けなくなった。


 『オーガ』はゲルディの指示を受けるまでは、動くことはないらしい。無防備同然のマリアや、倒れているななせに襲い掛かるようなことはしなかった。


 ゲルディが、ななせの様を見て恍惚に満ちた表情をしている。彼の浮かべる笑みは、至極気に障るものだった。


 あれに通じるものを、マリアは過去に幾度となく受けたので、彼の現在抱いている感情を読み取ることは容易だった。テレパシーなどという異能の力など、使うまでもない。


 ――助けないと……。


 そう思うマリアだが、身体が恐怖で動いてくれない。足の裏に根が生えたように……。


 仮に、動けたとしてもだ。自分にいったい何ができるというのだろうか?


 自分には、特別な力など何もない。ただの一般人だ。それも、多数の人間の力の前には屈してしまうほどの……弱い人間。


 それは考えようによっては当たり前のことだ。ひとりの人間が本来、相手にできるのはひとりが限界であろう。それ以上の人間を一手に引き受けるには、無理をしないといけないものだ。


 無理をするべきだ。目の前で、友達が危機にさらされているのだから……。


 ――だけど……私にいったい何ができるの?


 捨て身の覚悟で突っ込んでいく? ……いや、そんなこと、何の解決にもなりはしない。犬死に、という言葉があるが、まさにあれになってしまうだろう。


 ゲルディを相手にしようにも、『オーガ』を相手にしようにも、マリアはあまりにも無力な存在だった。


 ――鈴野さんはどうだろう? 自分でも相手になれるかな?


 そう考えるマリアだが、その考えはすぐに棄却する。


 まひるも特殊な能力を使うことに変わりはない。その力の前には、マリアの存在などひとたまりもないだろう。


 ――何もできないの?


 目の前でゲルディで足で小突かれているななせの姿を見て、胸がきつく締め付けられる。


 ななせさんを助けたい……!


 あの男の人を赦せない。赦せそうにない……!


 あの男の人に立ちむかうだけの力は、自分にはない。


 それでもせめて……、ななせさんを……。ななせさんの力を回復させるだけの何かを……、






 ――――してあげたい――――‼






 ――◆――◆――



 パシュッ――――!



 不意に、周囲の明かりを掻き消さんばかりの光が発生する。


「なんだ⁉」


 ゲルディの余裕を、その光は掻き消したようだ。真剣な顔となり、光源を見やる。


 ななせも何事かと、光のほうへと見やると、


 ――マリア……?


 光源はマリアだということがわかった。


 光は白……というより銀に近い。彼女の精神の上品さを表わしたかのような、高貴な光。


 その銀光が粒子となり、ななせの身体に入り込んでいく。するとななせは、自分の身体に異変が起きているのを感じ取った。


 全身に走っていたマヒが、心地よい清涼さとともに消えていく。同時に、傷口が徐々に癒えていき、流血が止まるのを、確かに感じた。


「てりゃああぁぁ!」


 身体が動く! ――そう確信したななせは、目の前で佇んでいたゲルディの脚に向かって魔剣を一閃。不意を突かれた形となったゲルディは回避できずに、足の腿から鮮血を噴き出した。


「――チィッ!」


 ゲルディの顔に浮かぶ、苦悶と憤怒。今まで散々にこき下ろしていた相手から一撃を喰らうことで、彼のプライドに疵がついたようだ。


 それはなにより、とななせは立ち上がりながら内心でほくそ笑む。自分が受けた屈辱を、相手にそっくりそのまま返上してやったのだから。


「ゲルディさん!」


 まひるが慌てたように彼の名前を叫ぶ。気遣うようなその言葉に、ゲルディは、


「まひるううううぅぅぅぅ! キミはなんのためにここにきてるんだあぁ~あああぁぁぁぁ~~~~んんんん? 役立たずの木偶人形が! せめてワタシの身代わりの藁人形になるくらいにはなってくれよなああぁあぁぁああぁぁぁぁ⁉」


 憤りに満ちた血走った眼で、ゲルディはまひるに暴言を吐く。


 そんな彼の様相に、まひるは恐怖で萎縮しているようだ。身を縮こまらせ、瞳に怯えの色が見られる。


「ご、ごめんなさ……」


「謝って済むと思うんじゃねぇぞおおぉぉ⁉ なんだい、キミはぁあ? そんなに死に急ぎたいのかぃ~? せっかくこの世に生まれさせてやった命を、す・て・て・ほ・し・い・の・か・いいぃぃぃぃいい~~~~?」


 まひるに詰め寄ろうとするゲルディ。その背に向かって、ななせは『桜紅華』の一撃を叩き込もうと魔剣を振りかぶる。


「――っ!」


 怒りでななせの存在を忘れていたのか、ゲルディはようやく彼女の攻撃に気づき、振り返った。


 だが、もう遅い。今更回避行動がとれないほどに距離が詰まっている。


 ――いける!


 ゲルディも避けられないことを察しているようだ。苦々しいとばかりの憤怒に満ちた表情を、ななせに向けていた。


 ななせの一撃が、ゲルディに決まる――――そう思ったときだ。


 演奏が、響き渡り始めた。


 誰の演奏なのか、どこから鳴っているものなのか、わざわざ確認するまでもない。


 ――まひる……っ!


 ななせが、クッ、と葉を噛みしめ、剣の腹がゲルディに届きそうになった寸前のところで、ななせの攻撃は止まった。見えない壁に阻まれて……。


 ――障壁か!


 まひるのもので間違いない。ゲルディが避けれないことに勘付いて、彼に障壁を張ったのだ。


 ゲルディは一瞬、呆気にとられたような表情をしていたが、やがて口元を狂気に歪ませる。


 そして彼が、アイコンタクトで背後に合図を送った。それが何を意味しているのか悟ったななせは、瞬発的にその場から退避してみせる。おかげで、『オーガ』による一撃から逃れることができた。


 ……が、ゲルディとの距離を離してしまった。せっかく彼に攻撃を加えられるチャンスを、これで失ってしまった。


「クヒャハハハハハハハ! ぶわぁ~かめえぇ、ワタシがそう簡単に隙を見せるわけがないだろうが! さっきのは、キミを油断させるために、わ・ざ・と、背を向けていたんだよぉ!」


 居丈高に、そう言ってみせるゲルディ。


 だが、ななせにはわかっていた。先程のまひるのサポートは、完全に彼の想定範囲外の出来事であったことを。


 それをあたかも、狙ったように言ってのけるゲルディ。それもサポートした相手にねぎらいの言葉をかけた上でならともかく、彼はまひるに御の字も感じていないらしい。すべてがすべて、自分の手柄としている。


「つくづく腹の立つやつだな、お前」


 侮蔑を込めて、ななせはゲルディに言ってのける。


「え? なんだってぇ? きっこえないなぁ~? 好機を逃した負け惜しみの負け犬の遠吠えなんてぇ~♪」


 プヒャァ――――アッハハハハハハ! と腹を抱えて笑うゲルディ。


 ここまで人が憎いと思ったのは、ななせは初めてだった。こいつからはただただ嫌悪感しか湧いてこない。『オーガ』を造り上げるあたり、かなりの天才・秀才なのかもしれないが、単に頭がいいだけの人間を持ち上げる気には、到底なれなかった。


 怒りに呼応して、『桜紅華』が猛々しく燃え上がる。


 魔力を滾らせて、ななせが思うのはただひとつ。






 ――この一撃を、なんとしてでもやつに叩き込みたい――!







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