エピローグ 後悔
エデンで最も大きな高層ビルの屋上。
そこから、金髪の青年は――――見た。
地響きがするほどの轟音とともに、目が眩まんばかりの閃光の中に、ひとりの少年が飲み込まれていったのを。
その後、港にもうもうと、空高く立ち上がる煙と何かの残骸。残骸はおそらく、倉庫やコンテナ、およびその中に保管されていた物品であろう。もっとも、原形をとどめていないものがほとんどなので、確証はないが……。
「さすがに……少し早すぎたかな」
青年は呟く。
相手が悪すぎた。
まだまだ彼は、魔術師の世界に踏み込んだばかりの素人。今まで幾度と死線を潜り抜けてきた戦士を相手にするには、あまりにも貧弱な存在だった。
「……でもまあ、いい経験にはなったんじゃないかな」
暗く考えても仕方がないとばかりに、青年は考え直す。
艱難辛苦もなしに、人は成長しない。人の格……本質を向上させるための最大の糧は、苦難や困難といったものだ。それをどう扱うかによって、人の道は幾度となく分かれ道をつくり、その果てに結果を創り出すのだ。
――……まあそれも、立ち上がれたらの話だけどね。
最後に青年は、心の中でそう付け足しておく。
さて、彼はどちらだろうか?
――◆――◆――
周辺が煙に支配されていた。
至るところで瓦礫の山が築かれている。
そのうちのひとつの中から、マリアは出てきた。
爆風とともに飛ばされ、そのまま瓦礫に埋もれてしまったのだ。幸いなことに、怪我はほとんどない。かすり傷くらいだ。それもこれも、瓦礫がうまい具合にマリアを護るように隙間をつくり、そこにマリアの身体が入れたおかげだった。
煙で視界不良の中、マリアはいた。
煙を吸い込み、マリアは何度も咳き込むが、それよりも気になったのは、彼の安否だ。
「志具君……っ!」
ほんの一瞬、閃光によって目が眩み、何が起きたかよく見ることができなかった。ただその直後、耳を劈かんばかりの激しい音が鳴り響き、煙が噴出したのだ。
パラパラと、マリアの頭上に細かなチリが降ってくる。頭に積もろうとするそれを手で払いながら、目を凝らす。
場所がひらけているということもあり、風の通りがいいようだ。盛大に立ち込めていた煙も、徐々に晴れていく。
視界が明瞭になっていくとともに、マリアは絶句した。
戦場となっていた場所は、凄惨なほどに荒れ果てていた。
アスファルトで舗装されていたことを微塵も感じさせないほどの、巨大なクレーター。アスファルトの下に隠れていた地面は大きくえぐれ、そこから鉄板のようなものが見えていた。おそらくは、エデンの足元をつくっている基盤のようなものであろう。
更地というか……人の手が一切加えられていない荒れ地のような惨状になった中、ひとりの人物が立っていた。
――志具君?
一瞬、表情を明るくさせかけたマリアだが……違うとわかった途端、その顔は驚きと恐怖にすげ変わった。
荒れ果てた地に立っていたのは……あのイザヤという青年だった。
彼の手には、光り輝く剣が握られていたが、やがてそれは、イザヤの右手が銀色に輝くと、その腕に吸い込まれるようにして消えていった。
――じゃあ、志具君は……?
イザヤの視線が何かを捉えているのに気付き、マリアはその後を辿る。
煙が消えていく。
そして、それが、鮮明に映し出されていく。
――………………え………………?
マリアは、視界に映るその現実を、受け入れられなかった。
瓦礫や残骸物で散らばっている中に、彼はいた。
衣類がボロ雑巾のように散り散りとなっている……志具を。
濡れた雑巾を絞ると水が滴るように、彼の身体からは、赤黒い血液が流れ、彼を中心に血だまりが出来上がっていた。
志具は動かない。
ピクリとも…………動かない。
――……わたしの……せい…………。
あのとき。
志具とイザヤが激しい光線をぶつけあっていたとき。
マリアは、刹那の間だが、確かに合った。
彼の目と。
自分と目が合った彼の顔は驚いていて、
彼の大剣を持つ手の力が――――僅かだが抜けたのだ。
――わたしの…………せい…………。
わたしが……気を散らすようなことをしてしまったから……。
わたしが……戦場にいてしまったから…………。
彼が……それを知ってしまったから…………。
わたしの……せいで…………。
わたしの……、
わたしの…………、
わタし、の………………、
わた……し……、ノ………………、
……………………………………………………。
「…………い」
マリアの身体が、震えだす。
震えを自分で抑えることは、できそうになかった。
「いやああああぁぁぁぁああぁぁああぁあぁぁぁあああぁぁあぁぁぁぁ――――――‼」
神奇世界のシグムンド 第2章 ――終――
第三章連載開始日は、9月18日、水曜日、18時~20時の予定です。




