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神奇世界のシグムンド  作者: 上川 勲宜
第2章 銀腕の戦士
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第12話 彼の思惑、彼女の異変、彼らの決意

 研・ジーニアス総合病院。その正面玄関から出てきた七夜イザヤ。そんな彼を待つ少女がひとり――鈴野まひるだ。彼女は肩さげカバンに折りたたんだ日傘を手に持っていた。そして、白い布で包まれた彼女の上半身程度の大きさがある物体を、まひるは背負っていた。


「用は済んだの?」


 まひるはイザヤの姿を確認すると彼に駆け寄り、そう尋ねる。


 イザヤは「まあな」と簡潔に答えた。


「だろうと思った。イザヤ君、なんだか楽しそうだもん」


「そう見えるか?」


「見える見える」


 笑みを浮かべ、率直な感想をまひるは述べた。


 実際、イザヤも自覚していなかったわけではない。口の端が緩んでいるのが、自分でもわかっていたのだから。


「そんなにあの子に真実を伝えるのが楽しいの?」


 あの子。それが大道寺マリアを指していることは、わざわざ確認をとるまでもなくわかることだった。


「う~ん……。どうだろうな。半分正解、半分間違いってところだな」


 その返事に、まひるは「?」と首を傾げる。


 半分正解、というのは、おおむねまひるの言ったとおりのことで合っている。だが、もう半分は違う。


 イザヤは、彼女を試しているのだ。彼女の、彼を想うほどの量がどれほどのものかであるかを。もしここで、彼女がしり込みする程度の女なら、彼女にはもう彼のことは諦めてもらうほかない。彼の……真道志具がこれから歩もうとしている道のりは、決して優しいものではないのだから。イザヤは、そう確信している。


 ――そのことを、本人は自覚しているのかねぇ……。


 まあ、かくいう自分も、彼に降りかかる災難のひとつであることは、自覚しているわけだが……。


「それよりもまひる。今日の晩の準備はしているんだろうな?」


「ばっちりだよ♪ この通り……ほらっ」


 そう言って、まひるが背負っていた物体を包んでいた布を取る。そこから現れたのは、竪琴だった。柔和なシルク色をしたU字気味の竪琴。もちろん、弦もしっかりとついている。


 しっかりと準備してきていることに満足するイザヤ。……というのも、彼女はここぞというときにヘマをすることが多く、なかなか安心できない相手なのだ。当人も自覚しているのか、そこを指摘されると返す言葉がない。


「えっへん。どう? 見直した?」


「見直すにはまだ早いだろ。結果でそれを証明してくれ」


「うぅ……。耳が痛いお言葉……」


 痛い所を突かれた、とばかりに泣きそうな顔になるなひる。その様で竪琴を再び布にくるみ、しまう。


 そんな彼女を尻目に、イザヤは病院を後にしようと歩を進める。慌ててまひるが、日傘をさして後に続いた。


 イザヤの足取りは速い。行くあてもなくふらふらとしたものではなく、目的地があり、そこに向かって着実に突き進んでいるという感じの足取りだった。


 その行き先がわからないまひるは、たまらず青年に訊く。


「どこに行くの?」


「研究所だ」


「研究所って……ゴスペルの?」


 ああ、とイザヤ。その声には、やや憤りが混じっていた。


「ちょっと、やつにクレームをつけてくる」


「……? ゲルディさんに?」


 ああ、と再度イザヤは簡潔に答えた。


 ショッピングモールで発生した真道志具の襲撃。そのことに関してイザヤは、ゲルディに文句を言ってくるつもりだった。


 ……というのも、ゴスペルの上層部が、あの件はイザヤがしかけたものだと勘違いしているからだ。それでとばっちりを受けた憤りを、ゲルディにぶつけてやろうと考えていた。


 ――……まあ、それだけじゃねぇんだがな。


 俺が怒っている理由は、とイザヤ。


 なんにせよ、もろもろの怒りを噴出してやろうというわけだ。


 イザヤの隣をつくまひるは、何も言わない。ただ、わたわたと少し慌てている様子だ。


「あ、あのっ、イザヤ君。くれぐれも……穏便にね?」


「状況によるな」


「そこは嘘でも『わかっている』って言おうよ!」


「わかっている。……嘘だけどな」


「最後の一言が余計すぎる!」


「お前が言ったんだろ?」


「言ったよ! 言ったけどなんか違うよ! 私が想像してたのと!」


「現実と理想は、大なり小なりあれど乖離しているもんなんだぜ?」


「なに悟ったようなこと言ってるの⁉」


 ひとしきりツッコミを入れた後、まひるはぜえぜえと肩で息をする。そこまでの労力を、先程のやり取りで行使したらしい。


「お~い。少し休むか?」


「……だ、大丈夫。……っていうか、専らイザヤ君のせいなんだけど……」


「自分の体力も考えずにツッコミを入れ続けるほうが悪いだろ」


「そ、それはそうかもしれないけど……」


 論破され、口をつぐむまひる。ただ、納得がいかないとばかりに口をもごもごと動かしている。


「いつからお前は牛になったんだ? 牛ほどの胸もないくせに」


「なっ⁉」


 イザヤの視線は、まひるの胸に移動していた。そこにあるのは……、


「だ、誰が断崖絶壁だよおおおおぉぉぉぉ‼」


「誰も言ってねぇって」


 ただ、歳不相応に貧しいことには変わりはないけどな、とイザヤ。もちろん、言葉としては出さない。イザヤも、そのくらいの優しさはもっているのだ。


「……なんか、ずいぶんと余計な優しさを与えられているような気がする……」


「鋭いな、その通りだ」


「そこは『気のせいだ』って言おうよ!」


「気のせいだ。……嘘だけどな」


「もうそれはいいよ!」


 しまいにはゴホゴホと咳を漏らし始めるまひる。


 この調子だとエンドレスで続きそうだな、とイザヤは思った。


 往来する人たちの視線が向けられているのが、なんとも煩わしかった。



 ――◆――◆――



 主治医から退院の許可をもらった志具は、病院で手続きを済ませると、退院した。もともと、大した怪我ではなかったのが、退院できた理由だ。


 ホテルまで病院側が手配してくれたタクシーで向かうことができた。どうやらエデン側の配慮らしい。志具たちはありがたく使わせてもらった。


 タクシーの中に運転手はいなかった。完全自動操縦であり、エデン内なら安全運転で目的地まで送ってくれるという。行先はあらかじめ目的地をプログラムしているものと、客が口頭で言うと言葉を認識するシステムとがあるが、今回の場合は前者だ。


 このシステムの長所は、目的地まで事故を起こすことなく、安全に客を運べるというものだ。人の飛び出しやほかの車の横柄な運転など、とっさのアクシデントにもしっかりと対応できる。


 短所は、相手が人ではないことだ。これによって、コミュニケーションがままならないうえ、客が急いでいるときもその意志をくみ取ってはくれなかったりする。


 そんなこともあり、エデンには完全自動操縦のタクイーと、ドライバーがいるタクシーと二種類あり、客のニーズに応えるようにしている。


 タクシーに送られている道中、志具たちの会話は静かだった。時折、マリアが外の景色を見て感想を述べるので、それにほかの人間が適当な相槌を打つ、という感じの会話しかなかった。


 それに……。志具はマリアの異変に気づいていた。


 それは本当に微々たる変化なのだろう。そのため、ななせや菜乃は気づいていない。ゆえに、取るに足らない、放っておけばいい事案なのかもしれない。


 志具にも、はっきりとは把握していなかった。


 ただ……。本当に気のせいレベルなのかもしれないが、マリアの態度が余所余所しいのだ。


 距離をはかりかねている、というべきか。今までそのような素振りを一切見せなかっただけに、志具は気になった。それは彼が、マリアとは長い付き合いだから、なおのこと気がかりになっていた。


 ――もしかして、のけ者にされたのが嫌だったのか?


 可能性はある。志具ですらあれはやや不自然さがあった、と自覚しているくらいだ。志具以上に鋭敏な感情を持っているマリアなら、余計にそれを嗅ぎつけているに違いない。


 しかし、と志具。あれは仕方がなかったのだ。あんな話を、マリアに聞かせるわけにはいかないのだから……。


 ――時間が解決してくれることを祈るしかないな。


 ここで下手なフォローを入れれば、話が複雑になりかねない。そっとしておくほうが賢明だろう。


 そんな志具にできることは、彼女が時々口に出す四方山話(よもやまばなし)に参加するくらいだった。


 タクシーで二十分ほど。志具たちは自分たちが宿泊するホテルに到着した。自動操縦のタクシーは、目的地に着いた時に運賃を払わなければ、ドアのロックが一切外れないようになっているのだが、志具たちはエデンのツケで乗れたため、そんな事態にも陥らなかった。


 暖色光に照らされるホテルのフロント。そこで志具たちはカウンターで手続きを済ませる。


 そして、ホテルの鍵を手渡された際、


「あっ、お待ちください、お客様」


 従業員は忘れていたとばかりに、背を向けた志具たちを呼び止めた。


 呼び止められる理由が見つからない志具は、内心首を傾げながらも訊いた。


「どうしましたか?」


「はい。実はお客様宛に、手紙をお預かりしておりまして」


 手紙を?


 なおさらわけがわからなかった。わざわざ旅行先にまで手紙を送ってくるような知人は、志具には心当たりがない。


 従業員はカウンターから出てくると、志具に手紙を差し出す。


 受け取り、志具はその封筒の差出人の名前を確認しようとするが……ない。ただ「真道志具」と、受け取り主である自分の名前が書かれているだけだった。


 不吉だった。今日の騒動の後でこの手紙だ。絶対に何かあると踏んだほうがいい。そしてこれは、決して友好的なものではないことは明らかだ。


 志具はななせに振り返る。彼女は緊張に眉根を引き締めていた。菜乃も、そんなななせの様子を見ておおよその察しがついたらしく、やや不安そうな顔。


 マリアは……、と志具が一瞥すると、彼女はなにかハッとしたような表情をしていた。


「……マリア?」


 ほかの二人とはリアクションのベクトルが違うのを察知し、志具は思わず訊いていた。


 するとマリアは、二度目の我に返ったような表情をすると、


「う、ううん。なんでもないよ。志具君にお手紙がくるなんて、珍しいなって思っただけ」


「ほほう。それはつまり、志具のやつがぼっちだと思っていたってわけか?」


 ななせがマリアをおちょくり始める。先程の張りつめた空気は、ななせからは消えていた。マリアの手前、下手なリアクションは最小限に抑えるべきだと感じているらしい。


「ぼ、ぼっちだなんて思っていないよっ! 一匹狼だよっ、志具君は」


「狼か……。狼ってくらいにワイルドな性格なら、あたしはもう志具のものになっているだろうけどな」


「なっ⁉ ど、どういう意味かな?」


「ふふふ……。聞きたいのかぁ? マリアはやっぱり……」


「ち、ちちちち違うよ! ぜ、全然そういうのじゃなくて……その……えと……あの…………あ、……ぅうぅぅ……」


 顔をみるみるうちに赤くさせ、しまいには俯いて言葉を失ってしまったマリア。いったい彼女は何を想像したのだろうか?


「万条院。早く部屋に行くぞ」


「おっ、ベッドインか。大胆だな~、志具は」


「誰もそんなことは言っていない!」


 志具は頬を赤らめ、ななせたちに背を向けると、エレベーターに向かった。


 フロントにいた人々の視線が、実に辛かった。



 ――◆――◆――



 ホテル六階にあるシングルルーム。そこが志具に当てられた部屋だった。女性陣三人は、同階の三人部屋にいる。


 当初、ダブルを二部屋予約しようという案をななせが提示していたのだが、志具が猛反対したのだ。というのも、その提案をするななせの眼光が、野獣のそれだったためだ。わざわざ餌となるために檻に入る必要はない。その際、マリアが心なしか残念そうにしていたのが気がかりであったが、突っ込まないほうが吉だろう。


 志具はひとり、封筒に入れられていた手紙を読んだ。


 内容は至ってシンプル。


『零時に奏でられる音色に導かれ、俺の元へ来い』


 パソコンを用いて打たれたものらしく、筆跡は誰なのかわからなかった。……まあ、肉筆であっても、会ったことのない人間ならば、わからないに変わりはないのだが、それでも男か女かの区別くらいは、目を凝らして熟考すれば、おおよその判別はつく。


 この手紙を送ってきた相手……。


 心当たりはひとつしかない。


 ――乗るべきか、否か……。


 このまま無視をするという手も、あるにはある。しかし、手紙をこのホテルに送り込んでくることから、相手は自分の居場所を知っている。あの蜘蛛型ロボットが襲撃してきたときのことを考えれば、この手紙の要件を無視すれば、向こうから乗り込んでくる可能性は十分に考えられる。


 ――それも、巻き込まれる人間のことを考えもせずに……。


 それは決して、杞憂などではない。あの件を鑑みると、本気でやりかねない。無関係な人間を巻き込むのは避けたかった。


 そのとき、コンコン、と扉をノックする音がした。


 志具はベッドに腰掛けていたのだが、立ち上がり、扉についている覗き穴から外を見た。そこにはななせが、早く開けてほしいとばかりの雰囲気を出して、そこにいた。


 志具は扉を開ける。


「よっ。――入っていいか?」


 ああ、と返事をする前にななせは志具の脇を通り過ぎ、室内へ入ってきた。


 こういうやつだよな……、と志具。わかっていても、やはりどうにかしてほしい、と思う。


「へぇ~。シングルって意外と広いのな」


「三人部屋のほうが広いだろ」


「まあな。……でも、三人も集まったら、広い部屋も狭く感じるもんだぜ?」


 言うとななせは、開かれていた志具のキャリーバッグの中をあさり始める。


「お、おい! なにをしている!」


「なんだよ~。エロ本もってきてないのか?」


 不満そうな、ななせ。


「そんなものない!」


「せっかく一人部屋なんだから、気兼ねなくできるだろうに」


 言うとななせは、手でなにやらジェスチャーしてみせた。


 この女は……、と志具は頭を痛める。もう少し恥じらいというものをもったらどうだと。


「お、女の子がそんな手振りをするものではない!」


「お? ってことは、あたしがしたジェスチャーが何を現わしていたのか、わかったんだなぁ? お前」


 こ、こいつは……。


 勝った、とばかりのななせの余裕の笑みに、志具は頬に朱を差して歯噛みをする。


 これ以上、いじられるのは癪なので、志具はとっとと本題へと移ることに決めた。


「それより、万条院。君がここに来たのは、そんなことをするためではないだろう?」


「本題の八割がこれだぞ?」


「…………」


「冗談だって。そんなに怒るなよ」


 ななせが珍しく冷や汗を額から流し、そう言った。どうやら今の自分は、それほどまでに恐ろしい形相をしているらしい。鏡がないので、志具にはわからなかったが。


 ななせは部屋を一番陣取っているベッドに腰掛けると、志具に訊いた。


「――それで、手紙にはなんて書いてあったんだ?」


 声色には真剣味が帯びていた。


 そんな彼女に、志具はスッと手紙を手渡す。言うより読んだほうが早い、という志具の意志の提示だった。


 ななせは手紙を読むと、


「……これだけか?」


 やや拍子抜けしたような口調。もう少し仰々しいことが書かれていると思っていたらしい。


 たった一文しか書かれていない手紙を読めば、そうなるのも当然か、と志具。


 彼は、ああ、と簡潔に返事をした。


 ななせはじっと手紙を食い入るように見つめていたが、そんなことをしても埒があかないと感じたようで、志具に振り向くと、


「……どう思うんだ?」


「誘っている、と考えるのが妥当なのではないか?」


 だな、とななせは相槌。どうやら彼女も同じ考えだったようだ。


「敵の目的は、お前で間違いないだろうな」


 ショッピングモールの件を、ななせは思い出しているのであろう。その目は遠い所を見ていた。


「……志具。お前はどうするつもりなんだ?」


「一か八か、誘いに乗ってみるつもりでいる」


 ななせは驚いた様子だった。


「大丈夫なのか?」


「どの道誘いに乗らなければ、向こうからやってくるに違いないさ」


 志具のその言葉で、ななせはなんとも言えない顔をした。彼の言葉は理解できるが、それを促すべきかどうか、判断に苦しんでいるようだった。


「……現実は、待ってくれないわけか……」


 そう呟くななせ。


 やがて彼女は、意を決したようにベッドから立ち上がると、


「じゃあ、あたしも一緒について行く。――お前がNOと言ってもだ」


「別にかまわない。……だが、どうしてそこまで?」


「野暮な質問だな。――あたしはお前の許嫁だからだ!」


 ドヤッ、とななせは得意げに口の端を緩める。


 その気持ちはありがたく受け取っていいものなのだろうか、と志具は判断に困るが、自分のためを思ってのことだということはわかる。


 なので、不本意ながら、ここは素直に彼女の「善意だけ」を受け取ることにした。つまり、言葉は受け取らない。


「んじゃあたし、そろそろ部屋に帰るわ」


 と、ななせは扉を開けると、


「――きゃっ!」


 扉を開けるや否や、可愛らしい声が上がった。


「マリア?」


 ななせは驚いていた。それは志具も、マリアも同様だった。


「あぇ……えっ……志具君、ななせさん……」


「マリア、どうしてここに? 私に何か用か?」


 部屋のノックをしようとしたが、先に扉を開けられた、ということなのだろうか? それにしては……。


 訝しく思う志具。頭によぎるは、マリアの態度の変化……。


 ななせはきょとんとしていたが、やがて「はっは~ん」と薄ら笑みを浮かべると、


「さてはお前……。志具に夜這いをかけようとしていたな~」


 からかい口調のななせ。


 マリアはというと、口を噤んだままじっと志具とななせを見つめる。普段ならば、即座に反論してみせるだろうに。


「……え? まさか……本当に?」


 ななせはまさに言葉通りの顔をしていた。予想していなかったらしい。


 するとマリアは、


「そ、そうだよっ。私はななせさんみたいにじゃなくて、ちゃんと真っ当な方法で志具君を陥落してみせるんだから!」


「いや。夜這いは普通の方法ではないだろ……」


 志具は冷静にツッコミを入れる。しかし、マリアには聞こえていないらしい。


「で、でもでもっ。今日は邪魔が入ったみたいだから、ここは退くことにするよ。こういうのは、焦れば焦るほど、かえって事態を悪いほうへと向かわせるものだからねっ」


 じ、じゃあね! とマリアは自分の言いたいことを言うと、猛ダッシュで部屋へと戻っていった。


 扉を開けたまま、ポカンとする志具とななせ。


「…………なんだったんだ? 今のは」


「私に聞くな」


 呆気にとられていたななせの口から放たれた言葉に、志具は率直な(げん)を述べた。


 だが、


 ――マリアのやつ、本当にどうしたのだろうか?


 ななせが来てからというものの、奇妙な行動が増えているな、と志具は感じていた。特に今回のは、度を超えつつあるように思える。


 志具は思考を回転させるが、自分が納得できる回答には、結局届かなかった。

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