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神奇世界のシグムンド  作者: 上川 勲宜
第6章 L:さようなら
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第15話 明かされた現実

 パンドラが創り上げた空間に飛び込んだ志具がまず聞いたのは、激しい剣戟の音だった。戦いが始まっていることは明白であり、時折その余波なのか、コミフェス会場のガラス壁が砕け散り、雨となって地面に降り注いでいた。


 モノクロの世界に戸惑いながらも、志具が急いで戦いの場へと駆けつけると、彼の目に映ったのは、ななせが今まさに斬られんとする光景だった。


 仲間の危機に出くわしたからか、それとも別の何かなのかは知らない。相手の実力もわからないというのに、志具は鉄砲玉のように二人の間に割り込むべく、聖剣『グラム』を振るった。当てることは考えていない。相手の意表をつき、ななせから引っぺがすことだけを志具は考えていた。


 結果は、志具の望んだ通りとなった。煩わしげに声を漏らすと、男はななせから大きく飛び退いた。そして、男がいた場所に立ち替わるように、志具が陣取った。


 ななせは驚いているようだった。無理もない。孤独の戦いかと思っていた場所に、第三者が介入してきた形となっているのだから。


「志具…………!」


 ななせの驚きの声が、志具に向けられる。志具は少しだけななせに振り向くと、すぐに正面にいる男へと、厳しい視線を向けた。


 激しい戦いであったのにもかかわらず、清潔さを保っているダークブラウンの髪。相手を委縮させんとする、威圧的な色を宿した瞳。年齢相応に堀が深くなった顔には、長年の艱難辛苦を表わしている皺が刻まれていた。


 容姿からもそうだが、偉丈夫で引き締まった肉体から放たれる圧力に、志具は心を鷲掴みにされそうな感覚を得た。


 ――パンドラの話によると、この人が……。


 万条院の父親……。


 厳格さを絵に描いたような風貌の彼に気圧されながらも、志具は毅然とした態度を保ち続けていた。


 睨みあう二人。先に口を開いたのは、ななせの父親からだった。


「……貴様が、真道の息子だな」


「そういう貴方は、万条院の父親、ですね?」


 一応、ななせの父親だということで、志具の言葉遣いは丁寧だった。しかし、心の内を開いたわけではない。そこには、油断を見せまいとする、張りつめた空気があった。


「真道の息子が、わざわざ万条院家のいざこざに口を挟むつもりか」


 訊いてはいるが、返答を許さないとばかりの圧力が込められた語気だった。静かだが、それは嵐が荒れる前の、不穏な静かさ……。


 志具はその言葉に、怯まない。真正面から言葉を返す。


「そのつもりです」


「忌々しいな。そこまでする理由がわからんな」


「万条院は私の仲間であり、同居人です。勝手にいなくなってもらっては困ります。理由なんて、それだけで十分のはずですが」


 志具……、とななせの声が後ろから聞こえる。しかし、それに振り返る余裕はない。目の前の男は、少しでも隙を見せようものなら、容赦なく攻撃してくることだろう。それだけの重圧が感じられた。


 ななせの父親は、ふんっ、と鼻を鳴らすと、


「真道の息子が……。首を突っ込みたがるのは親子そろって同じというわけか」


「親子……?」


「断言してやる。その余計なお節介が、貴様自身を破滅に追いやるとな」


「どういうことですか?」


 志具は問いかけるが、しかし男は無視し、志具の背後にいるななせへと言葉をかける。


「ななせ。今すぐにこいつを下がらせろ。そうすれば、こいつの不躾は見逃してやる」


「万条院。耳を貸す必要はないぞ。君が私を払いのけようとも、わたしが拒否するからな」


 志具は退くつもりはなかった。それを態度と言葉で示してみせる。


 ななせの父親は憎らしげに鼻を鳴らすと、


「ふん。部外者風情が、親子の争いに口を挟むとはな」


「親子の争いであっても、口を挟むときは挟みますよ」


 それに……、と志具。


「私は部外者ではありません。万条院の友人という縁があります。友人の窮地を黙って見つめているほど、わたしは温情の無い人間にはなりたくありません」


「自己満足だな。己の身勝手な正義感を他人に押し付けるのはやめてもらおうか」


「それを言うなら、貴方も同じです」


 なに? とななせの父親は片眉をつり上げ、志具を睥睨する。


「万条院は嫌がっている。何が理由で貴方が万条院と争っているのかは知らないが、嫌がる彼女を無理やり己の意にそぐうように仕向けるのは間違っています」


 志具は語気強くそう言った。


 そんな志具に対し、ななせの父親が見せたリアクションは……嘲笑。右も左もわからない若者を嘲る、年長者のそれだった。


 なぜ、彼がそんな反応を見せるのか、志具にはわからなかった。その無知を隠そうと平静を装う志具のことが、なおさら滑稽に見えたのか、ななせの父親は喉を鳴らして嗤った。


「何がおかしい?」


 相手を侮蔑するようなななせの父親の態度を前に、志具は丁寧に言葉を心掛けるのを止めた。ななせには失礼だが、この男を相手に例を示す価値はないと、志具は直感し見限ったからだ。


「おかしいとも。まったく……無知は罪だな。親子(おれたち)の争いの中心に、貴様自身がいることに、本人がまるで気づいていないのだからな」


「なっ……⁉」


 志具は驚きを隠せなかった。どうして自分が、この二人の抗争の渦中に巻き込まれているのか、その理由がわからなかったから……。


「あたしが悪いんだ……」


 そのとき、後ろからななせの声が聞こえた。彼女の声は、沈痛としており、志具を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っているようだった。


「あたしが……お前のところに来たのが、そもそもの理由だ。あたしと父さんの問題を解決せず見限って、家出同然に親のもとを出たのが原因なんだ」


 言うとななせは、志具と顔を合わせるのが申し訳ないとばかりに、顔を背けた。


 最近、ななせのこんな沈鬱とした面持ちを見ることが多くなった気がすると、志具は思っていた。そして、どうしてだろうと考えたとき、そこに現れるのは、親との隔たりだった。


 ななせが先ほど言った言葉を、志具は考える。


 実を言うと、薄々そうではないかとは、頭のどこかでは思っていた。それを察した上で志具は何も言わず、彼女を家に住まわせていた。


 いつか、彼女にそのことを告白されるかもしれないなとは思っていたし、覚悟も固めていた。しかし、実際に告げられると、なかなか動揺してしまったのも事実だった。


 その上で、志具はななせに声をかける。


「……万条院。君は、どうしたい?」


 どうしたい?


 そう訊かれ、ななせは顔を上げ、志具の顔を見つめる。そんな彼女の顔を真摯な眼差しで見つめ、志具は再度問いかけた。


「父親のもとへ戻るか、それとも、私のところでこれからも過ごすのか。君はどうしたい?」


 志具の言葉に、ななせの口が震える。返事をしようとしているが、何かが邪魔をして言葉が出てこないといった様子だった。


「俺と一緒に来ることになるとも。――だろう? ななせ」


 重く空気を震わせる低音の声。それに反応し、志具は視線を正面に移動させる。


 見れば、ななせの父親はかまえていた。その両手に握られている双剣を、志具には見たことがあった。忘れもしない。なずなの隠れ家でパンドラと対峙したときに、彼女が召喚した『アーティファクト』だ。もっとも、あれはパンドラ曰く偽物らしいが、目の前の彼が構えているそれは、間違いなく本物であろう。


「勝手に決めつけないでもらおうか。父親だとはいえ、いささか強情すぎるのではないか?」


「口の利き方には気をつけるがいい、真道の息子が。ななせは、貴様が思っているような返事はしない。絶対にな」


 絶対、ときたか……、と志具。


 ここまで強制力が過ぎると、頑固というような可愛らしいものでは、もはやないような気がする。


「話は終わりだ、小僧。――俺は万条院(まんじょういん)源武(げんむ)。貴様の父親、真道誠とは腐れ縁の関係だ」


「父さんと?」


「ああ。まったく忌々しいことだ。腐った縁だというのに、今もなお俺を苛み続けるのだからな」


 そう言い、ななせの父親――源武は志具のことを一層強く睨み付ける。そうして、『干将莫耶』の刃をカチリと合わせると、


「不要な『縁』はやはり……斬り捨てるべきだな。金魚のフンのように付きまとわられると迷惑だ」


「失礼な人だな。人のことをフン扱いか。その人を見下げる態度が、万条院を苛んでいるのではないのか?」


「小僧が……。まだ青二才のくせに、知ったような口をきくな!」


 その言葉が、戦い開始の合図となった。


 志具と源武が同時に飛び出す。


 互いの疾さは互角。離れていた距離のちょうど中心となる場所で、両者は激突した。


 志具の『グラム』が、下段から突き上げるようにして振るわれる。


 源武の『干将莫耶』が、それを上から押しとどめようと振るわれる。


 直後、辺りに金属音とも爆音ともとれる檄音が大気を震わせた。衝撃波がビリビリと、表皮がめくれるのではないかと感じるほどに震える。空気の爆発は全方位に広がり、ひび割れたガラス壁を粉々に砕き、四方に散っていた机や椅子の残骸が散り散りとなって宙に舞う。


 ぬっ……⁉ と源武は鍔迫り合いをしたとき、何か異変を感じ取ったように声を漏らした。そして、異変を感じ取ったのは、志具とて同じだった。


 『グラム』を通じて、感じるこの感覚。堅く握られている握手を、外部からの力で無理やり引っぺがされそうになる感覚……。


 ――『干将莫耶』の能力だ。


 パンドラで体験した、あの感覚と同じだ。自分と『グラム』のマスターと『アーティファクト』の縁を斬られようとしている、あの感覚だった。源武は『干将莫耶』の能力を行使し、志具が『グラム』を使えないようにしようとしていた。


 だが……、と志具。パンドラ戦のときはなす術もなく『縁』を斬られたが、今回はそうはいかない。一度経験したことを、二度も通用させるほど、志具は愚かではなかった。


 『縁』を斬られそうになっているという確かな『感覚』を得ている以上、『グラム』の魔術無効化の能力が使える。意識することで、『アーティファクト』の能力がフルに活用できるということは、これまでの戦いで志具は実感として理解していた。


 『干将莫耶』の縁を斬る能力を、『グラム』の魔術無効化の能力によって対抗する志具。源武はそのことに気づいたのだろう、このまま鍔迫り合いをしていても無意味だ判断したのか、志具を押しのけ、一度大きく距離を取った。


 志具は接近しようとしない。もちろん、近接戦闘に持ち込もうという気持ちはあったが、相手は歴戦の戦士。うかつに勢い任せに踏み込んでいくのは危険だと判断したためだ。


「『グラム』、か……」


 何か納得するように呟く源武。おそらく、『グラム』の能力に気づいたのだろう。一度交えただけで理解するとは、やはり侮れない。


「皮肉なものだな。よりにもよって、貴様がそれを所有することになるとは」


 なに? と志具。この人は、『グラム』のことについて何か知っているのだろうか? しかしそんな疑問も、次の瞬間消し飛んだ。


 パチッ……、と源武の握っている黒剣『干将』の先で火花のようなものが飛んだかと思うと、そこから白雷が志具に向かって放たれた。


 不意に来た攻撃に、志具は『グラム』の刀身で受け止めるが、グリップを通じて電気の痺れが肌を刺激する。


 ――魔術か……!


 志具は直感した。先程のは、『干将莫耶』の能力ではない、源武の魔術であると。


 源武はさらに、頭上付近に三つほど雷球を浮遊させると、志具に向かって突っ込んだ。


 志具は本能的に危険を察知し、源武と距離を取ろうとバックステップを取る。すると、志具目がけて雷球が鞭のように紫電を放ち、志具の動きを乱そうとする。


 志具はステップを踏み、回避を試みるが、相手は雷速。いくら魔力で身体強化を行っていようとも、人間の速さでは限界があった。


 紫電が放たれる前に回避行動を取っている必要があり、それができなかったときは『グラム』で受け止め、威力を軽減するしかなかった。


 幾重にも伸びる雷の条は、志具を真綿で首を締めるようにじわじわと攻め、おまけに感電によって志具の動きを緩慢にさせていく。源武と距離を取るのにも、限界が来た。


 志具の動きが緩慢になったところを、源武は距離を一気に詰めてきた。その疾さ、まるで雷。彼が動きは、蛇が地面を這うような軌跡を描き出し、先読みがしづらいものだった。


 だが志具は、己の身体を奮い立たせ、繰り出される源武の攻撃を巧みにさばく。全身の筋肉が悲鳴を上げ、志具の意思とは無関係にわななくが、かまうことはなかった。


 小回りの利く双剣での剣術。基本的に大振りで、一撃の威力に重点を置く大剣で相手にするのは骨が折れる。『グラム』の重さをさほど感じないにしろ、だ。だから志具は、適度な間合いを取りながら、源武の攻撃を打ち払い、時に踏み込み、源武のペースを乱そうとする。


「小癪だな」


 源武は忌々しそうに吐き捨てる。いら立ちを募らせているのは、志具の戦術が少しでも通用している、ということか……。


 しかし……、と志具。彼は気づいていた。今の自分の状況が、あまり芳しくないということに。というのも、志具の戦術は、あくまで守りを重視したものであるからだ。


 加えて、源武の一撃一撃の攻撃には、先程の雷球には届かないとはいえ、電気を帯びていた。それが毒のように蓄積され、志具の動きが鈍く、遅くなっていっていた。


 身体が尋常でないほどに重い。重りを節々につけられているようだった。少しでも気を抜き、動きを止めようものなら、そちらのほうへと意識も肉体ももっていかれそうだと、志具は思った。


 源武の迅速な剣閃が、志具の身体を浅く斬る。それは皮一枚ほどの浅い傷だが、それが全身に走れば、決して見逃せるものではない。衣類が使い古した雑巾のように裂け、じわりと血が滲んでいく。


 実力の差。格の違い。


 そういったものをむき出しに見せつけられているような気がしてならなかった。


 志具が放つ剣閃を、源武は苦も無く受け止め、受け流し、反撃に転じてくる。流水の動きとはまさに、こういうことを言うのかもしれない。


 澱みの無い動きに、志具は麻痺した肉体の調子もあって、ついていくことができなかった。受け止めたと思った刃が防御を突破し、志具の肌を斬り裂き、鮮血を桜花のように散らせる。


 それでもなお、志具が気力を振り絞り、源武に喰らいつこうとするのは、一重の彼女のためである。


「――真道志具」


 何度、間合いを取ったことだろう。志具が間合いを取ると、即座に距離を埋めようとしていた源武が、攻撃の手を止めた。代わりに彼の口から言葉が出てきた。


「これが最後の警告だ。大人しく引き下がれ。これ以上、痛い目を見たくなければな」


「悪いが、その要求はのめないな。万条院が貴方のもとに帰るのを嫌がっている以上、私は彼女の意志を尊重するまでだ」


 ふん、と源武は鼻を鳴らす。


「所詮、愚者の子は愚者、というわけだな」


「……なに?」


 ピクリと、志具の片眉が上がる。明らかに不快だ、とばかりの感情が、その表情には宿っていた。


 自分がけなされる分にはまだいい。自分がここにいる以上、反論したければできる立場にあるのだから。


 だけど……、と志具。この場にいない人間を侮辱するというのは反論を……さらにいえば抵抗する術をもたせないという意味で卑怯だと思った。陰口など、聞くだけで心がざわつく。


 だが源武は、そんな彼の思いなどくむことはない。冷徹に鉄のような言葉を言い放つ。


「本当のことを言って何が悪い。貴様の父親は、くだらない好奇心から、知ってはならないことを知ってしまった結果、あの人によって殺された。そして、あいつの後を追うように、貴様の母親もあの人の贄となった。ある意味、死ぬよりも恐ろしい目に遭ってな」


「…………え……?」


 志具は愕然とした。それは、あまりにも唐突に聞かされた言葉だったから……。身構える暇すら与えず、石を投げつけるようにして放たれた無情の言葉だったから……。


「なんだ、知らなかったのか? ならもう一度言ってやる。――貴様の父親――(しん)(どう)(まこと)と母親――(しん)(どう)美幸(みゆき)は死んだ。もうこの世にはいない」


「父さんと……母さんが……」


 目を見開き、呆然とする志具。頭の中で、源武の言った言葉が、幾度となく繰り返される。


 私は……、と志具は思う。


 自分は、良心の行方を追うために、魔術師の世界に入ることを決めた。どんな危険が伴おうとも、その危険すらも、親の辿った軌跡として受け入れ、やがては両親に追いつこうと、そう思って……。


 だけど……そんな志具の想いは、情け容赦なく源武が斬り捨てた。


 もしかしたらとは思った。そうではないとあってほしいと願っていた。しかし、そんな志具の抱いていた嫌な予感を、源武は言葉として、現実として言い放った。


「父さん!」


 ななせの非難する声が、源武に放たれる。しかし彼は案の定、取りあおうともしない。逆に、口の端をつり上げ、挑発してみせた。


「非難される筋合いなどない。俺は事実を言っているのだからな。この小僧が知りたがっていた、両親のことを。むしろ俺は、感謝されるべきのはずだ。違うか?」


「お前……っ!」


 ななせが心底憎らしいとばかりに、怨嗟の言葉を吐く。しかし源武は、立ち上がれない娘のことを、これ以上かまってはいられないとばかりに視線を外す。彼の外した視線の先には、志具がいた。


 志具はそれを真正面から受ける。


 心臓を射抜くような鋭い視線……。しかし志具にはそれが、まるで他人ごとのように感じてならなかった。テレビ越しでも見ているような気持ちだった。志具にとっては、目の前にある危険より、両親の結末を知らされたことのほうが大きかった。


 身体が重い。今まで受けた傷がここに来て枷となりつつあった。流れる血が、まるで溶けた鉛のように思えてくる。幾度となく打たれては立ち上がりを繰り返したことで、金属疲労を起こしたかのように、志具は、動かない。


「お前も――」


 源武はすっと、双剣を構える。夫婦剣である、『干将莫耶』を。


 源武は、双剣を寄り添い合わせるように白と黒の刃をカチリと合わせ、体勢を低くする。


「――あいつらの元へと送ってやる」


 直後、源武が(はし)る。蛇のようにジグザグにではない。今度は直線にだ。放たれた矢のような、愚直なまでの直線進行。


「志具!」


 ななせが切迫の声で叫ぶ。唯一、彼女の声だけがはっきりと聞こえた。それは、彼女を護るという意志が、志具の中でボロボロになりながらもなお生き続けていたからだろう。


 だけど……すでに遅い。


 志具が顔を上げた先、そこにはすでに源武が、手を伸ばせば届くほどの近距離まで迫っていたのだから。


 (はし)る。


 黒の軌跡が。


 白の軌跡が。


 絶望(くろ)の軌跡が――。


 空虚(しろ)の軌跡が――。


 次の瞬間。


 モノクロの世界が、紅に染まった――――。


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