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** トナカイひろいました **  作者: 汐井サラサ
おまけ:**ちょこっとちゅっと**
20/28

第四話

 寒い中走ってきたのか、ルゥは赤い顔をして息を切らして到着した。


「本当に来たんだ?」

「当たり前だろう。出来た?」

「もう少し掛かるから、中で待ってて」


 いって通せば遠慮なくずかずか。


「お前んち広いな? 同じ仕事してるのに凛夏んちなんてすっぽり入りそう」


 すみませんね。うちは狭くて。というかそんなお家事情、余所様でバラさなくて良いから。私は聞いているだけで熱が上がってしまうような話を聞き続ける。


「それで、体調を崩しているのは凛夏ちゃん? 大丈夫なの。車だしても良いけど病院掛かっておく?」

「良いっていわれた。熱だけだから薬飲んで寝てれば治るって」


 それって本当? と問いを重ねたルゥは不安そうな顔をしていた。

 まるで自分が病気になったことがなくて、対応が全くわからないという感じだ。


「凛夏ちゃんがそれで大丈夫っていうなら、様子見て大丈夫だと思うよ。これ食べてちゃんとあったかくして眠らせてあげて」


 よいしょと別容器に詰めて、蓋でふさふさと粗熱を取る。

 ルゥにもやってともう一つ蓋を渡す。


 大の男二人で台所でふさふさ、実に変な図だ。想像すると吹き出しそうだ。


「それにしても、どうしてここなの?」

「どうしてって、俺料理なんて出来ないし、あんたしか知らないし、あんたは凛夏のこと好きなんだろう? だったらその部分は信用出来る」

「男としてプライド的なもの邪魔しないんだ?」


 少し意地の悪い質問をしたと思った。

 それなのにルゥは肩を竦めて「ないよ」と一蹴。ぱこっと少しだけ冷めたタッパーに蓋をした桜崎さんを見て、同じようにして蓋を閉めながら続けた。


「そんなもんで凛夏の熱下がらないじゃん。そんな役に立たない自尊心なんていらね」


 で、これってそのまま食べさせて大丈夫? と重ねて訪ねる。




「―― ……そのくらいなら出来るっていってたけど、出来たかな?」


 思いの外丁寧に話してくれた桜崎さんに複雑な気持ちになりつつも「え、えーと、はい」と曖昧に頷いて


「全部、美味しくいただきました」


 半分以上ルゥが。という台詞は飲み込んだ。

 食べたかどうかなんだから入った先がどこでもこの際良いだろう。


「そう、良かった」


 桜崎さんの穏やかな声色に気分を害していないことを感じて胸を撫で下ろす。


「なんていうか、不思議な子だよね? 遠慮なくて偉そうなのに、なんか彼には毒を抜かれる。嫌な気になれないというか、憎めない。本当、」


 そこでいったん区切って桜崎さんは、くすくすと愉快そうに笑った。


「小動物みたいだよね」


 ―― ……何となく、そこに着地するような気はしました。


 私は苦笑して「そうですね」と頷き、感謝とお礼を重ねて電話を切った。

 そこで丁度ルゥが出てきて「寝ろっていってるじゃん」とむくれる。


「明日は休めよ」


 横になった私の額に手を載せて、原始的な検温をしながら重ねられる。

 また少しずつ熱が上がってきているような気はする。


 身体の節々が痛んで、芯がヒンヤリとする。

 休むのが妥当だろう。


 桜崎さんにもそうするように念を押されたし


「あ」

「何?」


 きょとっとするルゥには何でもないと答えたけど、なんかもうルゥのことでいっぱいいっぱいになってたからスルーしちゃったけど、よく考えたら、桜崎さんが私の病欠を告げるのおかしいよね。


 なんで知ってるんだって話になるよね。

 ……早く気がつけば良かった。


 はぁと溜息。

 でも今更結構ですっていうのもなんだし、もう、どうでも良いか。


 ―― …… ――


 カーテンの隙間から漏れて入ってくるのは月明かりかな?

 今日は明るい夜なんだろうか?


 眠れない頭をごろごろと枕に擦り付けて熱い息を吐く。薬も飲んだし、また明日には熱も下がってると思うけど、しんどいなぁ。


 身体が痛い。

 頭もきゅうきゅうずくずくするし。


「なぁ、そっち入って良い?」

「だーめ、ウツるから」


 ベッドの下からルゥがぶつぶつ。

 それでも掛かった声に、起きてたんだと思うと不思議とほっとした。


「俺さ」


 私が起きてると分かって気を良くしたのか、ルゥはひょっこりと起き上がってベッドの端っこに顎を載せる。


「トナカイだし、人間の病なんて感染しないと思うんだ」

「絶対?」

「いや、その、わかんねーけど、絶対」


 絶対じゃないじゃん。

 ごにょごにょと濁すルゥに笑いが零れる。


 嘘がつけないっていうのは不便だね。

 本当、自分の都合の良いようにいえないもんね。


 私は布団の間から手を出してふわふわとルゥの頭を撫でて手を引っ込めた。


「はぁ」


 吐いた息が熱くて瞼をきゅっと閉じる。目尻に溜まった生理的な涙が、つっと枕へ落ちた。

 辛いな。全身が脈打っているみたいだ。


 同じ体勢も辛いから、ごろりと寝返りを打ってルゥに背を向けた。


「え」


 それと同時に背中に大きな手が触れてさすっていく。

 ゆっくり丁寧に、でも力加減が分からないのか少し怖々として。


「痛むのか? 身体すげー熱いけど」

「ん、大丈夫……ありが、とう」


 気持ち良い。

 ふっと眉間のしわがとれた。


 こんなの凄く小さな子どもの頃以来だ。忘れていた。

 本当に、人の手の温かさはどんな薬よりもずっと楽になるような気がする。


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