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** トナカイひろいました **  作者: 汐井サラサ
おまけ:**ちょこっとちゅっと**
17/28

第一話

 ―― ……二月十四日。


 日本中が甘い香りに包まれる日だ。

 実際は一月中旬から店先のチョコレート量は増加する。


 本命と義理なんて区分しかなかったチョコも今では、友チョコとか、ファミチョコとか、世話チョコだとか? 何だそれ状態。

 義理っていい方はどうかなぁ? から枝分かれしたんだと思うけど、最早よく分からないから原点回帰で『義理チョコ大量生産・散布活動』で良いと思う。


 甘ったるい香りに包まれながら、若干投げやりになっていた。


「なぁなぁ、これ美味そう」

「そーだねー」

「買って」


 ……ひも男が何かいってる。


「荷物持ちはちゃんと荷物を持ってからそういうことをいうの!」

「荷物重い」


 お前何しに来たんだよ。

 たまに引きこもりが出てきて一緒に行くというから連れてきてみれば、さっきから高級チョコを物色中だ。


「りんりんだって沢山買ってるだろー」

「これは会社で頼まれてた分。えーっと、あとはー……」


 運悪く今年は私がチョコ買い出し当番になってしまっていた。

 私は前日に他の女子社員と打ち合わせしたチョコの金額と数を合わせながら、真剣にチョコを選んでいるというのに、隣りのトナカイさんは綺麗なお姉さんから試食チョコとかいただいている。


 よっぽど物欲しそうにしていたのだろう。

 恥ずかしい奴め。


 ちらと自称神遣いトナカイことルドルフのルゥを見て溜息。

 それにしても、デパートの中は熱いなぁ。チョコおいてあるんだしもうちょっと温度下げれば良いのに、季節はずれな汗をかきそうだ。


 はふーっと、一息吐いて手作りコーナーを見る。


 毎年一応本命の人には手作りしていた。

 今年は……もう一度ルゥを見る。楽しそうだな、おい。あれだけ食ってれば、私からなんていらないだろう。今年は本命なし。即座に決定した。


「なぁ」

「もう、何? うるさいなぁ……っと、ありがとう」


 よいしょと腕にチョコが沢山はいった紙袋を持ち直そうとしたら、ルゥが抜き取って持ってくれた。ちょっと吃驚したけど、なんか人混みに酔ったみたいでだるくなってたから助かった。


「顔赤くね?」

「ちょっと人に酔っちゃって……凄く熱くて」


 ヘロヘロと苦笑して告げると、ルゥはふーんと頷いて、ぺと。


「ちょっ!! や、やめてよっ」


 おもむろに額に手を載せられるから反射的に弾いた。

 ぺちんっと小気味よい音がしてちょっとやりすぎたかと思ったけど、ルゥは特に気にしていないようで「熱い」と叩かれた手を見ている。


「熱あんじゃねーの?」

「ないよ。ちょっとこの中が熱いだけだよ。夕飯何食べたい……荷物持ってくれたから、ルゥの好きなもの作ってあげる」

「―― ……今日はテイクアウトして帰ろう」


 人が作ってあげるっていってるのに失礼だ。

 けどまぁ、たまには買って帰っても良いか。何が良いかなー。


 私たちは地下でパスタとスープ、大好きな生春巻きをテイクアウトして家路に着いた。


 ぎりぎりだったから心配したけど、ちゃんと予定数間に合って良かった。

 明日会社に持って行く荷物の隣りに紙袋を並べて一人頷く。明日は十三日。明日持って行けば、間に合うだろうし問題ない。



 ***



 会社からの帰り、昨日あれだけ並んでいるバレンタインギフトを見て、自分の分が何もないっていうのはやっぱりしょんぼりするだろうか?

 私は道すがら、大通りに並ぶ店先にディスプレイしてあるバレンタインらしい雰囲気に飾られたプレゼントたちを眺める。


 でも、ルゥって何が好きなんだろう?

 アクセサリーの類も私が選べば嫌がることもなく身につけるけど、食べ物以外でルゥが何か主張したことって無いような気がする。……ということはやっぱり何か作ってあげるのが一番喜びそうだ。

 見た目に寄らず食い意地が張っている。


「けほっ」


 小さく咳が出た。

 昨日はあんなに暑かったのに今日はなんだか寒気がするんだよね。

 よくないなぁ。

 本当に熱でも出るのかもしれない。

 ええと……ケーキって、何がいるかな、小麦粉、バター、卵、砂糖にチョコ? うーん、ここは純ココアにしよう。その方がカロリー削れそうだ。

 最初から自分も食べる気満々のところが笑える。


 いつもだったらプレゼントと一緒に渡して終わりで、食べるとこまでお付き合いしないけど、ルゥならきっと一緒に食べようといってくれるはずだ。ということは、私の好きなものにしても良いよね。


 そう考えると自然と顔が綻んでしまうことが可笑しい。

 私のネジも外れてしまっているようだ。


「ただいまー」


 ふわふわとした足取りで家に戻るといつも「おかえり」と迎えてくれるルゥが珍しく居なかった。

 それを少し寂しいと思うなんて、なんか、リアルにペットの飼い主の気分なのはどうだろう?


 どさりと買い物してきたものを小さなダイニングテーブルにおいて、そのまま簡単に着替える。ちらりと買い物袋を見てそのまま作業に掛かろうかと思ったけど


「身体が重い」


 流石に立っていることも辛いというのはおかしいだろう。

 仕方なく、私はベッド横の小さな棚の引き出しから体温計を引っ張り出し検温。こたつに座って台に顎を乗せてだらーん。


 ルゥどこ行ったんだろう。

 どっかいってても大抵この時間には戻ってるのになぁ。

 一人だなぁ……。


 ちょっと前まではこれが当たり前で、この状態が一番寛げたんだけどな。

 慣れって怖いな。


 一人寂しい。


 きゅっと瞼を閉じるとじわりと熱くなった。

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