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** トナカイひろいました **  作者: 汐井サラサ
おまけ:**只今トナカイ飼育中**
11/28

第二話

 ***



「―― ……うん。あっちの通り、そうそうイルミネーションが綺麗なところ」

『あー、光の川が出来てるところだよな』

「それ、上から見たときだよ。光は仰ぎ見るの」


 部長にこっそりと挨拶をして、二次会へと向う波を回避してルゥに連絡を入れる。

 細かいことだけど、なるべく人としていて欲しいから、そんなところまで気になる。私はとてつもなくビビリだと思う。


『直ぐ出るけど、立ち止まってぼーっとしてんなよ』

「何それ、優しくない」

『兎に角立ち止まるなよ? 声掛けられても基本無視な?』

「あー、はいはい」


 神使いさんとやらが、人の声を無視しろとはどういう了見だろうね。笑いそうになるのを堪えて頷き、じゃあねと電話をきったところで


「あれ、園枝さん、二次会行かないの?」


 声を掛けられた。

 なんとなく一人でお留守番させておくには気になりすぎるから、いつもなら二次会までは付き合うんだけど今日は抜け出したというのに……。


 振り返れば、桜崎さんだ。

 私より二年くらい先に入社して、新人のときに色々お世話になった面倒見の良いお兄さんタイプ。今もきっと私を心配して抜けてきてくれたのだろうなと分かる人の良さだ。


「は、はい。ちょっと飲みすぎと食べすぎで気持ちが悪くて……」


 確実にこのあとルゥと何か食べるだろうから、八分目以下にしてあったものの、他に抜けるいい訳が思いつかなかった。

 だって、家で飼ってるトナカイが心配で、なんていえたもんじゃない。

 どのあたりで変人扱いされるか、考えただけで恐い。


「大丈夫? 家まで送ろうか」

「い、いぃぃいいえ! 大丈夫です。近いですから一人で帰れます」


 こういう良い人、と分類される人の好意というのは兎角断り辛い。断っても


「気にしなくても良いよ」


 とにっこりされるから。

 悪気がないのは分かるんだけど……。

 まあ、良いか。


 ルゥも声掛けられても無視しろっていってたし、桜崎さんと一緒なら知らない人が声掛けてくることもないだろう。


「桜崎さんも二次会行かなくて良いんですか?」

「うん。良いんじゃないかな? 多分大丈夫」


 それは合流したほうが良いんじゃないだろうかと思ったけど、いっても無駄だろう。

 こういう人が意外と頑固であることも大抵決まっている。


 私はルゥに説明したルートでのんびりと歩き出した。

 その隣りを桜崎さんも続いてくれる。街灯に映る桜崎さんの頬がほんのり赤い。私もアルコールが入ってるから同じように赤いのかな? そう思うと、無意識に頬を押さえた。

 確かに熱い。

 続けて出そうな欠伸を噛み殺し、浮かんだ涙目を擦ろうとした手を止めて、目頭と目尻を押さえるに留めた。擦ったりしたら、化粧が崩れる。


「これで仕事納めだね」

「そーですねぇ、お疲れ様でした」

「うん。お互いにね」


 はふぅと吐く息が白いのは楽しい。寒いけど。ほわほわ綿菓子みたいだよね。足取りもちょっぴり軽くなる。寒い日は、どことなくぴんっとするから好きだ。


「年末年始は何してるの?」

「私ですか? 何してるかなぁ、年賀状書いてないから今日から書いて……」

「え、今日から?! ……来年も僕のところにもくる?」

「引っ越してないですよね。だったら送らせてください。頑張って書きます!」


 年々数が減っているので、基本手書きだ。

 パソコンで作れば良いのだけど、別に大した手間じゃないし、そのー、なんというかそのほうが好印象のような気がするから。良い子の私は人からどう見られるかが最重要事項だったわけで、必然的にそうなった。


「どこか旅行とか行かないの?」

「旅行ですか? でも私ウィンタースポーツとか出来なくて、ああ、温泉とか良いですね。のんびり露天風呂。雪とか薄っすら積もってると素敵ですよね!」


 思わず、ぐっと握りこぶしを作って力説してしまった。

 しまった、こんなことを力説するのは私のキャラじゃない気がする。最近、ルゥのせいで素で居る時間が長いから、自分でも自分の持ちキャラが良く分からなくなってきた。


 反射的に顔を逸らしたけど、側頭部に視線が突き刺さる。

 そんなに見ないでください。恥ずかしいから。


「少し、雰囲気変わったよね?」


 ぽつりと聞こえてきた台詞に、ぎくりと肩を強張らせてしまった。

 恐る恐る桜崎さんの方を仰ぎ見れば、目が合ってにっこりと微笑まれる。良い人だ。こういう人は基本的に良い人という枠組みで終わって、恋までが割りと遠い。


「そうでしょうか?」


 参ったな。

 元々彼への私の印象が良かったのか悪かったのか良く分からないから、どんな顔して良いか分からないよ。


「うん。可愛い感じになった」

「え、見るに耐えなかった?! ってことですか」


 そこまでいってない。私の心の突っ込みと、桜崎さんの声が被った。反射的に苦い笑いを交わす。


「見るに耐えないなんて、とんでもない。前は清楚なお嬢様って感じだったけど? ……恋人と別れたから、変わったの、かな?」

「え?」

「あー、ごめん。部署の女の子に聞いたから……その、そういう子が好きな人で、園枝さんが合わせてたのかなって思ったから、えーっと……」


 僕何いってるんだろう。と、顔を益々赤くしてぷいと逸らすと恥ずかしそうに頭を掻いた。

 背も高くてスタイルも良いのに、小動物みたいだ。って、それより誰だ。喋ったの……。一瞬で数人の顔が思い浮かんだ。


 ん。

 全員可能性あり。


 桜崎さんって女子社員の信頼厚いもんな、聞かれたら普通に答えそうだ。私でも絶対秘密とかいわれていない限りさらっと口にしそう。

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