第一話
メリークリスマス♪
皆さまいかがお過ごしですか。おはようございます。
一部から、是非のお声を頂きおまけを用意しました。りんりんのように毎日頑張っている女の子へ、ちょっぴり早いクリスマスプレゼントになれば嬉しいです。
自称良い男のトナカイと、日々精進が信条のOLの日常。ご笑納くださいませ^^
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「ねぇ、ルゥ。荷物届いてたよ……」
届いてたというよりは投げ込まれたというほうが正解。
「あのさ。分配だかなんだかしらないけどさー……窓かち割って放り込んでくることないよね? 毎回毎回……私今回この箱に潰されたんですけど」
「んー? 窓はすぐ直るし問題なくね?」
「……ないと思うんだったら、片っ端から放り捨てるけど」
「分かった分かった! 捨てんなよ。またつぶれてたら助けてやるから」
そこじゃない。
私がさっきからいっているのはそこが問題なわけじゃない。ということにどうして気がついてくれないんだろう。さっきからトナカイ:ルドルフことルゥ――ルドとかルディとかって愛称にするとなんか格好良さそうだから、ルゥで十分だ。という判断で私は勝手にそう呼んでいる――は私の方を見ることなく、ミニノートパソコンと向かい合っている。
「とりあえず箱開けてみて」
私はこれから出かけるところだから忙しいのに、と、思いつつ、私の上に乗っかった箱の中身も気になったからとりあえず開封した。
「―― ……こけしですが」
何でこけし? なんでこの時期にこんなもんが放り込まれるんだ。いや、こけしの時期ってわかんないけどさ……。
つるんとした丸い頭が整然と並んでいる。
私はその一つを取り上げてまじまじと見詰めたけど、とりあえずなでなで。唯のこけしだ。開いているのか閉じているのか微妙な一重の瞳にちょこんと愛らしいおちょぼ口。
民芸品屋さんとかに並んでいるそれだと思う。
「じゃあ、そこら置いといて。どっかで大量に奉納でもされたんだろ?」
「う、うん……」
ちらりとルゥを見て、まあ良いかと私も出支度を整えることにした。
年内最後の飲み会だ。
仕事納めってことになってるけど、忘年会もやったんだからそれに重ねることないのに、前のは会社ぐるみ。今回は同じ部署だけでやるらしい。なんかうちの部署やけにフレンドリーなんだよね。
年明け真剣に休みの日とか早朝出来る仕事を探さなくては、と思っていたのだけど、私は今までどおりで構わないといわれた――現在無職。ニートなトナカイに――成人男性一人飼うことになると、やっぱりそれなりにお金が掛かると思って、頑張らねば! と思ったのに、なぜか大爆笑されるし。
「自分の食い扶持くらい何とかする」
なんて偉そうにいって、どうするのかと思ったら翌日から荷物が飛んできた。
一々窓ガラスを割って飛んでくる。その中身は多岐にわたる。食べ物のときもあるし、今日みたいな意味不明な品物であることも多い。
トナカイさんのいうことには、供物の分配が行われているんだって。
神様に色々と捧げられる供物は一度集められて、それぞれ不定期に分配――それも比率があるらしいけど――される。
食べ物のときはうちで使ったりするけど量が半端ないので、近所に配ったり――お陰で両隣さんと仲良くなってしまった。これまで顔も殆ど知らなかったのに――する。
物品のときはルゥがオークションで捌いている。
神様の加護でもあるのかどんなくだらない商品でも売れる。今回のこけしも多分全部綺麗に捌けるだろう。
「ねぇ、私出かけるけど、これで出て変じゃない?」
「変じゃない。可愛い可愛い」
「……見てからいいなさいよ」
髪はアップにするか降ろしておくか迷って、今日は降ろしていくことにした。
ホットカーラーで綺麗に巻きを作って整える。あまりごてごてしてないカチューシャで留めるだけにした。一応会社の、だし、控えめなほうが良いよね。という判断だ。
服もミニのブロックチェックのフレアスカートに、パフスリーカットソーの上にニットのポンチョを羽織った。綺麗にまとまったと思うんだけど……あとはニーハイブーツを履いて……。
「見なくても分かる。あれだけうろうろ着替えまくって決めたんだから、大丈夫だろ。別に何でも良いじゃん、着てくものなんて誰に見せるんだよ」
「誰に見せるとかって問題じゃないの」
「家ではフツーにスラックス上下とか平気じゃん」
「……う」
確かに玄関を境界線にがらっと違うのは認める。
認めるけど、普通そうだと私は思ってる。眉間に寄った皺を取るために深呼吸。
そして、ルゥは、ぱたんっとパソコンを閉じて、べったりとコタツに突っ伏す。本当にコタツに根っこでも生えてるんじゃないの?
「生えてねぇよ」
ぶすっとそう零したルゥは、仕方なくという体を崩さず立ち上がって私の正面に立ち、頭の先っぽから足の先っぽまでマジマジと見詰める。何をいわれるのかとどきどきしていれば「ふわぁぁ」と欠伸を零された。
がつっ!!
「痛っ! 踏むな、踏むなよっ!」
「スリッパなんだから痛くないでしょ」
思い切り踏みつけてやった。
ふんっ! どうせ、何したってそんなに変わり映えしないわよ。それでも努力ってものがあってね。
「暴れるから、ピアスが傾いてるぞ……」
「え、本当? どっち?」
いわれて、慌てて直そうと手を上げたらその手を掴まえられた。
「ひぅっ!」
続けて、ぱくりと耳朶を食まれて、舌先がピアスの向きを直していく。突然の刺激に、かぁぁっと身体中の熱が上がって、ぶはっと全身の汗腺から汗が噴出す気がする。
「はい、直った」
そんな私とは対照的に、ルゥは平然と私の耳朶を解放して、おまけにちゅっとこめかみに口付けを落とした。わなわなと羞恥に震える手を握る。
「ててててててっ!」
「て? はぁ?」
「手で直せっていってんのよっ!」
がんがんがんっ!! 今度は足の上で地団駄踏んでおいた。
「痛いっ! 痛いって、ば、馬鹿っ! お前、ちょ、照れ隠しに暴力振るうのやめろ、マジで痛いから」
ちょっぴりトナカイさんの目が涙目になったところでやめた。
しゃがみ込んで足の甲を押さえている。ちょっとやりすぎた。大抵のことは口で出来るっていったじゃん……とかぶつぶついってる。
「今は五本の指がちゃんとあるんだから使いなさい!」
「……はいはぃ」
それで? と恐い顔して告げれば「可愛い可愛い」とお座なりな返答がなされる。
もう良いや。これ以上ルゥと遊んでいる暇はない。
「じゃあ、私行くから、出掛けるなら鍵忘れないでね」
よいしょと玄関でブーツを履きながらそういって立ち上がると、ルゥに、ほらとバッグを渡される。図的に完全にひもっぽくないか?
「帰り呼んで。迎えに行くから」
「近くだし、歩きかタクシーで……あー、うん。分かった呼ぶ、呼ぶ」
そんな捨て犬――トナカイか――みたいな顔されたら何もいえない。