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第9話

「入学式が終わったら、君に会わせたい人がいるんだ」


極上の笑顔のまま、王太子殿下はサラリと爆弾を投下してきた。


(さらにキャラ追加かよ……ッ!)


乙女ゲー、BLゲー、少女漫画のラブコメ、果ては木の上の暗殺者。 すでにジャンルが闇鍋状態で大渋滞を起こしているというのに、これ以上メインキャラとおぼしき人物と関わってたまるか。

どう転んでもおかしくないこの狂った展開に、俺は顔を引きつらせながら心の中で盛大に頭を抱えた。 だが、相手は次期国王だ。侯爵家の人間として「嫌です」と突っぱねるわけにはいかない。


* * *


長たらしく退屈な入学式を上の空でやり過ごした俺は、言われた通り、学園の裏手にある広大な訓練所へと重い足取りで向かった。


「やあ、来てくれたね、カイン君」


訓練所の中央で待っていたのは、王太子と――もう一人。 燃えるような赤い髪に、真っ直ぐで意志の強そうな瞳。どこか野性味を残しつつも、手には使い込まれた両刃の剣をしっかりと握っている同年代の少年だった。


「紹介しよう。彼はユーリ君。……先日、光の女神より『勇者』の神託を受けたばかりなんだ」


(――おいおい待て待て待て待て!!)


俺の脳内で、けたたましい警報が鳴り響いた。

勇者? 神託!? ついさっきまで乙女ゲーやBLゲーの可能性に震えていたというのに、ここに来て一気に『王道バトルファンタジー』へと天秤が傾きやがった! いや、乙女ゲーの「勇者様との命懸けの恋」ルートや、BLゲーの「勇者×仲間」路線の可能性もまだ捨てきれないが、圧倒的に血生臭いガチバトル路線のフラグであることには変わりない。


「はじめまして、カインさん! 俺、辺境の村から出てきたばかりで貴族の作法とか全然わかんないんですけど……よろしくお願いします!」


ユーリと名乗った赤髪の勇者は、屈託のない、まさに『主人公』といった快活な笑顔を向けてきた。

眩しい。なんだこの真っ直ぐすぎる光属性オーラは。俺の見た目だけ儚げなプラチナブロンドとは真逆の存在じゃねぇか。


俺が引きつった愛想笑いを返していると、王太子がポン、と俺の細い肩に手を置いた。


「ルファスから、君が長年厳しい鍛錬を積み、今や聖騎士とも互角に打ち合える腕前だと聞いている。そこで頼みなんだが……まだ実戦経験の少ないユーリ君と、手合わせをしてやってくれないか?」


「…………は?」

王太子殿下。アンタ、自分の言ってることわかってんのか?


「彼にはこれから過酷な運命が待っている。同年代で君ほどの使い手と剣を交えることは、彼にとって最高の経験になるはずだ。……俺の顔に免じて、どうか受けてもらえるね?」


極上のスマイルで放たれたその言葉は、疑問形という名の『絶対命令』だった。 侯爵家の長男坊である俺が、王太子の御前で、しかも勇者の育成を断れるわけがない。


(クソッ……あのバカアニキの余計な自慢話のせいで、とんでもない貧乏くじを引かされた……!)


俺は心の中でバカアニキを百回ほどタコ殴りにしながら、無言で木剣を受け取った。


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