第7話
ついに、運命の15歳になっちまった。
地獄の筋トレと剣の修行でバインバイン師匠(セリア先生)と互角に渡り合えるほどの武力を手に入れた俺だが、結局「儚げな美少年」という外見の呪縛からは逃れられないまま、学園の入学式当日を迎えてしまった。
(素のままで入学するのはマズい。……だが、ジャンルが確定してねぇ以上、下手にキャラ設定を作って動くこともできねぇ)
もし乙女ゲーなのに「熱血バトルキャラ」を演じたら浮くし、もしBLゲーなのに「女好きのチャラ男」を演じたら、逆に「おもしれー受け」としてヤバい奴のロックオンを食らいかねない。
俺は制服の襟を少し立て、なるべく気配を殺して学園の正門をくぐった。
(まずは少し目立たずに様子を見るか……。周囲のモブや生徒の配置を見れば、ある程度のジャンルは絞れるはずだ)
そう思い、広大なエントランス広場を見渡した俺の目に、さっそく強烈な情報が飛び込んできた。
(ん……? あいつは……)
視線の先には、貴族だらけの集団の中で明らかに浮いている、ふわふわのピンク色の髪をした女生徒の姿があった。おまけに、オドオドしながら周囲を見回している。
(あの髪色にあの態度……。もしあれで『平民』かつ『光属性持ち』だったら、間違いなくここは乙女ゲーの世界だぞ。要注意だ)
俺は心の中でチェックリストにチェックを入れ、今度は反対側に視線を向けた。
(……はおっ!?)
思わず変な声が出そうになった。 木陰のベンチで、やたらとキラキラしたオーラを放つ高身長のイケメン二人が、何やら会話をしている。 それ自体はいい。問題は、二人の距離感だ。 顔と顔が異常に近い。おまけに、片方の黒髪イケメンが、もう片方の金髪イケメンの言葉を聞いて、なぜか耳まで真っ赤にして俯いているではないか。
(おいおいおいおい!! 顔赤くしてんじゃねぇよ!! なんだその甘酸っぱい空間は!? これ絶対BLゲーのワンシーンだろ!! 俺の貞操が危ねぇ!!)
乙女ゲーか、BLゲーか。両極端のフラグが同時に立っている状況に、俺の脳内コンピューターは早くも処理落ち寸前だ。
その時だった。
「ち、遅刻遅刻ぅ〜っ!!」
ベタすぎる叫び声と共に、俺の目の前を猛スピードで横切ろうとした女生徒がいた。 その口には、ご丁寧に分厚い食パンが咥えられている。 そして彼女は、何もない平坦な石畳の上で見事に足をもつれさせ——。
「ふぎゃっ!?」
顔面から盛大にすっ転び、咥えていた食パンが空高く舞い上がった。
(いや、いつの時代のラブコメだよ!? 今時パン咥えて走る奴なんているのかよ!!)
もはやツッコミが追いつかない。 乙女ゲー、BLゲー、そして少女漫画のドタバタラブコメ。ジャンルが完全に大渋滞を起こしている。 頭を抱えそうになった俺は、ふと視線を感じて、学園の校舎を囲む鬱蒼とした木々の影に目をやった。
(…………ん?)
枝の隙間。暗がりの中に、全身黒装束で顔を布で覆った怪しい連中が数人、音もなく潜んでいるのが見えた。 その手には、ギラリと鈍く光る暗器のようなものが握られている。
(……いやいやいや。暗殺者!? 入学式から物騒すぎんだろ! 絶対誰かの命狙ってんじゃねぇか! ガチのバトルファンタジー展開も混ざってんの!?)
ピンク頭の女。 距離感バグってる赤面イケメン。 パン咥えてすっ転んでる女。 木の上に潜む黒装束の暗殺者。
俺は広場のど真ん中で立ち尽くし、乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
「……カオスすぎんだろ、この学園」
俺の平穏なサバイバル生活は、入学初日にして完全に崩壊の危機に瀕していた。




