第2話
メイドが水を取りに行っている隙を突き、俺はさっさと部屋を抜け出した。 まずは現状把握だ。この世界の舞台設定やジャンルを知るには、自分の家を探索するのが手っ取り早い。
しかし……。
(家、広すぎィ……ッ!)
大理石の磨き上げられた廊下に、無駄にでかい謎の壺。壁にはよくわからない偉そうな肖像画がズラリと並んでいる。
どんだけ金持ちなんだよ。侯爵家ってこんなにデカいのか? これじゃ探索どころか迷子になるだろ……っ。
ブツブツと心の中で悪態をつきながらウロウロしていると、ふいに背後から声をかけられた。
「あれ? 部屋から出てきちゃって、大丈夫なのかい?」
ビクッとして振り返る。
そこに立っていたのは、年の頃は15歳くらいだろうか。俺と同じプラチナブロンドの髪を持つ、やたらと顔の整った少年だった。
(……なんだこいつ。なんか無駄にキラキラしてねぇか!?)
窓から差し込む光のせいだけではない。背中に謎の薔薇や百合の花を背負っていそうな、特有の『イケメンオーラ』がダダ漏れなのだ。
(間違いない。こいつも絶対にメインキャラの一人だ……!)
俺が警戒レベルをマックスに引き上げていると、そいつはスッとしゃがみ込み、俺と目線を合わせてふわりと微笑んだ。
「カイン、元気になったんだね。よかった」
至近距離で放たれるキラキラスマイルに、思わず目が眩みそうになる。
俺の名前を親しげに呼んだこと、俺が次男であること、そしてこの似たような容姿。十中八九、俺の兄貴ってとこだろう。
脳内で猛スピードで情報を処理する。
もしここが乙女ゲームなら『優しくて甘やかしてくれるお兄ちゃん枠(攻略対象)』。
もしバトルものなら『優秀すぎて主人公がコンプレックスを抱く天才の兄』。
そして、もしBLゲームなら……『近親〇〇ルートの鬼畜ドS兄』!?
(ヒッ……! い、いや、まだBLだと決まったわけじゃない。ここは慎重にいかねぇと……!)
変なフラグを立ててたまるか。
俺は顔の筋肉を総動員し、見え透いた愛想笑いを浮かべ、全力で猫を被ることにした。
「は、はい……! ご心配をおかけしました、兄さん。もうすっかり気分も良くなりまして……その、ちょっと風に当たりたいなーなんて、あはは……」
我ながら、気味の悪い上擦った声が出た。
すると、兄と思われるキラキラ少年は、きょとんとした顔で目を瞬かせた。
「……カイン? どうしたんだい、そんな余所余所しい口調で。いつもみたいに『ウザい、近寄んなバカアニキ』って言わないのかい?」
(……元のカイン、どんだけ口悪かったんだよ!?)
身内への猫被りは、どうやら見事に逆効果だったらしい。 俺は引きつった笑顔のまま、心の中で盛大にツッコミを入れたのだった。




