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第14話

「冗談じゃねぇ! あんな変態どもの巣窟に戻ってたまるか!」


魔王城へと続く道中。

俺は湧き出てくる魔物たちを、ただひたすらに八つ当たり気味に蹂躙していた。  

オーク? ガーゴイル? 知るか。俺の貞操の危機に比べれば、お前らの爪牙なんてそよ風みたいなもんだ!

「1秒でも早くあの地獄のパーティを解散する」という、ただその一点の不純極まりないモチベーションのみで剣を振るい続けた結果。  

俺は単独で、あっさりと魔王城の最深部、広間へと到達してしまった。


「よくぞここまで来たな、人間よ……。我ら四天王と魔王様が――」

「前口上はいい! さっさと死ね! そして俺を家に帰せえええええっ!!」


禍々しいオーラを放つ魔王と、残りの四天王っぽい奴らの威厳あるセリフを完全無視し、俺は死に物狂いで突撃した。  

バインバイン師匠の地獄のしごきと、貞操を守るための俺の執念を舐めるな。  

魔王が魔法を詠唱するより早く懐に潜り込み、四天王が連携をとるより早く物理でタコ殴りにする。広間には、悲鳴と怒号、そして俺の「早く帰りたい」という悲痛な叫びだけが響き渡った。


* * *


「ゼァッ……ハァッ……おわっ、た……!!」


遅れて広間に駆けつけてきた勇者ユーリたちが目にしたのは、死屍累々の魔族の山と、その中央に立つ俺の姿だった。  

魔物の返り血を全身に浴び、儚げなプラチナブロンドの髪を赤く染めながら。俺は『これでやっと解放される』という圧倒的な達成感から、恍惚と笑みを浮かべていた。


「カ、カインさん……俺たちのために、たった一人でこんな……っ!」

「ああ……そんな辛そうに微笑まないで……!私がいるわ…!」

「なんてそそる光景なんだ……!!」


ドン引きする俺をよそに、パーティの面々は勝手に感動の涙を流し、俺を崇め奉っていたが、もはやどうでもいい。これで任務完了。即解散だ。さらば変態ども。


* * *


見事物理で魔王を討ち果たし、王都に帰還した俺は、いつの間にか『鮮血の白百合』だとかいう、死ぬほどダサい二つ名を付けられていた。  

だが、そんなことは些末な問題だ。


「ははっ……勝った。俺のサバイバル、大勝利……」


侯爵家の自室。ふかふかの天蓋付きベッドにダイブし、俺は己の安全を噛み締めていた。  

乙女ゲーの逆ハーレムルートも、BLゲーの総受けルートも、すべて粉砕してやった。俺はどのルートにも入らず、完全なる平穏をもぎ取ったのだ。


その時だった。


『あ、やっほー! 久しぶり!』


真っ白な空間で聞いた、あのクソ軽く、聞き覚えのある声が脳内に直接響いた。


「……は? お前、あの時の自称・神……」

『いやー、ごめんごめん! あの時ゲームのジャンル言い忘れたなーってずっと思ってたんだけど……えっ? ちょっと待って』


神の声が、素っ頓狂に裏返った。


『嘘でしょ!? 君、魔王倒しちゃったの!?』

「あ? ああ、倒したぜ。これでハッピーエンドだろ?」

『いやいやいや! 何やってんの!? それ、ゲームの裏ボス的なやつだよ!? 倒さなくても全然クリアできるやつ!!』

「……はい?」

『あーあ、もう……。しょうがないなぁ。とりあえず、言い忘れてたこのゲームのタイトル、教えてあげるね☆』


神は、ひどく無慈悲な声で、こう告げた。


『この世界はね――【辺境神獣育成ライフ~モフモフ幸せスローライフ~】だよ☆』


「…………は?」


乙女ゲーでも、BLゲーでも、ラブコメでも、バトルものでもなかった。

神獣をモフモフして育てる、ほのぼの育成シミュレーションゲーム。 俺が血眼になって警戒していた「ピンク頭の平民聖女」や「距離感バグのイケメン」は、ただの『お助けNPC』。そして「勇者ユーリ」に至っては、おそらく『裏ルートで一緒に戦う助っ人キャラ』枠だったのだ。どうりで俺より弱いはずだ。


絶句する俺の脳内に、追い打ちをかけるように神の軽い声が響く。


『ちなみに君は、王都で主人公に道を聞かれるだけのキャラだから、あんまり頑張らなくても大丈夫だよ☆ じゃあね〜!』


「……………………」


バインバイン師匠との地獄の特訓。

貞操の危機への極限の恐怖。

あのカオスなパーティメンバーに対する異常な警戒心。

そして、すべてを終わらせるための魔王城単独カチコミ。


ただ道を聞かれるだけの通りすがりモブAが、裏ボスの魔王を単騎で物理粉砕してしまったのだ。


「ふっざけんな!クソ神があああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」


俺の血を吐くような絶叫が、侯爵家の広大な屋敷に空しく響き渡ったのだった。


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