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第11話

(冗談じゃねぇ。ここでこの腐ったフラグを完全に叩き折らなきゃ、俺の貞操が物理的に終わる……!)


あくまでこれは「男同士のただのハプニング」だと思い知らせる必要がある。BLなんぞ俺の人生にお呼びじゃねぇんだよ!

俺は喉の奥を鳴らし、地の底から這い出でるような、ありったけのドスを効かせた低い声を出した。


「……退けよ」


下から鋭く睨みつけ、殺意すら込めて言い放つ。 男にこんな凄みを利かされたら、普通はビビって飛び退くか、「なんだとテメェ」と喧嘩になるのが『男の正常な反応』だ。


「あ、あ、ゴメン……っ!」


だが、ユーリは慌てて飛び退いたものの、なぜか顔は林檎のように真っ赤に染まったままだった。

おまけに、チラチラと俺の顔を見ては恥ずかしそうに視線を逸らすという、ヒロインのようなムーブまでかましている。


(……なんでそこで照れるんだよ。凄んだだろ、俺。今めっちゃ凄んだだろ!!)


俺の必死の威嚇は、この『儚げな美少年のガワ』のせいで、ただの「上目遣いで照れ隠しに睨んでいる」ようにしか変換されなかったらしい。 完全にフラグをへし折るつもりが、逆に変な扉をこじ開けてしまった可能性に気づき、俺の胸中にドス黒い殺意が湧き上がった。……この勇者、魔王の前に俺がここで息の根を止めてやろうか。


俺が手元の木剣を握り直し、本気で勇者討伐(物理)に乗り出そうとしたその時だった。

一部始終を面白そうに眺めていた王太子が、パチパチと優雅に拍手をしながら近づいてきた。


「見事な身のこなしだったよ、カイン。……で、どうだいユーリ君? 彼と実際に剣を交えてみて」

「はいっ!」


ユーリは顔の赤みを両手でバシッと叩いて気合を入れ直すと、王太子に向かって、そして俺に向かって、真っ直ぐにキラキラした瞳を向けてきた。


「カインさん、すっげぇ強いです! 俺、ぜひ彼にパーティに入って欲しいです!」

「…………は?」


俺の口から、今日一番の間の抜けた声が漏れた。


(パーティ……?)


それはつまり、この光属性100%の勇者と、魔王討伐という名のデスロードを共に歩むということ。

そして何より、この『隙あらばBL空間を作り出そうとするバグ持ち勇者』と、寝食を共にするということだ。


「これからよろしくお願いします、カインさ――」

「断る!!! 死んでも断る!!!!」


笑顔で差し出された勇者の手を、俺は今日一番の神速で全力で叩き落とした。

俺の神速の全否定にも、王太子殿下は一切ダメージを受けた様子がなく、極上のスマイルを崩さなかった。


「まぁまぁ、そう言わずに。カイン、君にはぜひ彼らを支えてやってほしいんだ。ほら、他のメンバーも紹介しよう」


王太子が優雅に手を叩くと、訓練所の奥から控えめな足音が近づいてきた。

そこに現れたのは――つい数時間前、入学式の広場で俺の胃を強烈に痛めつけた、あの見覚えのある連中だった。


「ひゃ、ひゃじめましてぇっ! 平民ですが、光の聖女に選ばれました……っ!」


オドオドしながら頭を下げたのは、あの広場で浮きまくっていたピンク頭の女だった。

(うわぁ……平民で光属性の聖女。乙女ゲーの主人公ヒロイン確定演出じゃねぇか!)


そして、その後ろから現れたのは。


「よろしく頼む。僕は魔法騎士の――」

「こら、勝手に前に出るなよ。僕が先だろ? 僕は賢者の――」

自己紹介をしながら、なぜか肩と肩が触れ合うほどの至近距離で小競り合いを始める、やたら顔の近かったキラキライケメン二人組。


(お前ら相変わらず距離感がバグってんだよ! ここは公共の場だぞ、お互いの吐息を感じ合うな!!)


俺は絶望的なラインナップを見渡し、ふと一つの疑問を抱いた。

(……あれ? そういえば、朝イチでパン咥えて盛大にすっ転んでた『少女漫画のラブコメ女』はいねぇな。あのドジっ子属性は勇者パーティの選考に漏れてリタイアしたってことか……?)


一瞬だけ少女漫画のラブコメヒロインに哀愁を感じたが、今は他人の心配をしている場合ではない。

目の前に並んだ面々を改めて確認し、俺は盛大に目眩を覚えた。


隙あらばBL空間を作り出そうとする、光属性100%の天然赤面勇者。

ド定番の乙女ゲーヒロイン枠、ピンク頭の平民聖女。

すでに二人の世界が完成しつつある、距離感バグのイケメンコンビ。

そして、そこに放り込まれようとしている、ツンデレ(予定)の儚げ美少年剣士(俺)。


(……カオス。カオスすぎる。闇鍋とかそういう次元じゃねぇぞ)


もしこのメンバーで魔王討伐の旅に出たらどうなる? 勇者から熱い視線を向けられ、聖女の逆ハーレム要因として巻き込まれ、イケメンコンビの痴話喧嘩か当て馬の巻き添えを食らう。

冗談じゃない。魔王の城に辿り着く前に、俺の精神と貞操が真っ先にゲームオーバーする未来しか見えねぇ!!


「カインさん! 俺、あなたと一緒に戦いたいです!」

「……っ! カイン様、どうかよろしくお願いいたします……!」

「ふーん。君がウワサの侯爵家のご令息か。綺麗な顔してるね(至近距離)」


キラキラした瞳を向けてくる勇者。 上目遣いで頬を染める聖女。 なぜか俺にまで距離を詰めてこようとするイケメンコンビ。 そして、後ろで満足げに頷いている王太子殿下とバカアニキ。


(地獄だ。ここは地獄の釜の底だ……ッ!)


俺は足の震えを必死に気力で抑え込みながら、心の中で固く、そして強固に誓った。


――絶対に、何が何でも、死んでもこいつらとは一緒に行かねぇ!!


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