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第10話

ユーリは真剣な顔つきで木剣を構えた。


(ほう……)


素人丸出しの構えかと思いきや、重心はブレず、無駄な力みもない。なるほど、辺境の村出身にしてはそこそこやるようじゃねぇか。さすがは光の女神に選ばれた勇者といったところか。

だが、バインバイン師匠の地獄のしごきを長年耐え抜いた俺からすれば、隙だらけだ。


「そこそこ出来るようだが、まだまだだな」

「えっ――」


ドンッ、と地面を蹴る。 神速の踏み込みで一瞬にして間合いを詰め、ユーリの懐へと潜り込んだ。驚愕に見開かれた赤い瞳。俺は手首のスナップだけで木剣を振るい、ユーリの剣を下からカアァンッ!と弾き飛ばした。


「うわっ!?」

武器を失ったユーリは、勢い余って無様に尻もちをついた。勝負ありだ。


「……すげぇ。カインさん、つえぇ……!」

悔しがるどころか、ユーリは目をキラキラさせて俺を見上げてきた。


(ふん。生意気なガキかと思えば、素直なやつじゃねぇか。こういう裏表のないタイプは嫌いじゃないぜ)


俺は小さくため息をつき、「ほらよ」と土埃にまみれたユーリに向かって手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます……っ、とわっ!?」

「あ?」


俺の手を掴んで立ち上がろうとしたユーリが、自分の足に引っかかって盛大につまづいた。そして、そのままの勢いで俺の方へと倒れ込んでくる。 鍛え上げた体幹で踏ん張ろうとしたが、相手は勇者の恩恵でも受けているのか、抗えない謎の引力が働いた。


ドサァッ!!


「いっ……てぇな、何すんだよ……って、おい」


気がつけば、俺は訓練所の地面に仰向けに倒れ、その上にユーリが覆い被さる――いわゆる『押し倒される』形になっていた。 顔と顔の距離は、わずか数センチ。互いの吐息がかかるほどの至近距離で、ユーリの赤い瞳とバッチリ視線が絡み合う。


「あ……ご、ゴメン……!」


ポンッ、と。

至近距離にあるユーリの顔が、耳の先まで真っ赤に染まった。


(…………待て)


俺の脳内警報が、過去最大級のボリュームで鳴り響いた。


(なんで顔を赤らめる。おい、なんで顔を赤らめた!? 男同士のハプニングだろ!? 普通「わりぃ!」ってガハハと笑って退く場面だろ!?)


俺の儚げなプラチナブロンドが地面に広がり、その上で赤面しながら見つめてくる勇者。

これを端から見れば、完全にBLゲームの『ドキッ☆運命の出会い(スチル付き)』そのものではないか。王道バトルファンタジーの皮を被った、恐るべきトラップ。


(ふざけんな!! ガチバトルにBLジャンル混ぜんじゃねええええええっ!!!)


俺は本気でガチギレしそうになるのを必死に堪え、貞操の危機という名の絶望の淵でワナワナと震えることしかできなかった。


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