第1話
口悪いです。
※暴言悪態注意
真っ白な空間で、自称・神と名乗る光の玉は、ひどく軽いノリでこう言った。
『じゃあ、君をゲームの世界に転生させるね! 特典として新しい体と身分は保証するから、第二の人生楽し
んできなよ!』
「は? ちょっと待て、何のゲームだ!? タイトルは!? せめてジャンルだけでも教えろ!」
『えっ? あ、ごめん時間切れだ! ばいばーい!』
「ふざけんなクソ神がああああああっ!!」
叫び声は虚空に吸い込まれ、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
* * *
「……チッ。マジで思い出すだけで腹が立つ」
ふかふかすぎて逆に落ち着かない天蓋付きのベッドの上で、俺は舌打ちをした。
目覚めてから数時間。どうやら俺は、本当に神の宣言通り「何かのゲームの世界」に転生してしまったらしい。 頭の中に流れ込んできた記憶を整理すると、現在の俺の年齢は10歳。名前はカイン。この国の有力貴族である侯爵家の次男坊だということがわかった。
「とりあえず、クソ神の言ってた『身分』ってのは嘘じゃなかったわけだ」
よっこらせ、と重い体を起こし、部屋の隅にある豪奢な姿見の前に立つ。
そこに映っていたのは——。
「……なんだ、このひ弱そうなツラは」
鏡の中には、色素の薄いプラチナブロンドの髪に、透き通るような白い肌をした子供が立っていた。
ぱっちりとした瞳には長い睫毛が影を落とし、唇は薄い桜色。手足は小枝のように細く、少し強風が吹けばポッキリと折れてしまいそうだ。
どこからどう見ても、女に間違われかねないレベルの『儚げな美少年』である。
「俺の新しい体……いや、いくらなんでもひ弱すぎんだろ。これじゃあ木刀の一振りもできねぇじゃねえか」
だが、問題はそこではない。
侯爵家の次男で、この容姿。
ゲームのキャラクターとしては、間違いなくモブではない。確実に名前ありのメインキャラ級だ。
ただ主人公を張るだけのオーラはなさそうだ。
……だとしたら、ここは一体「何のゲーム」の世界なんだ?
もし王道ファンタジーRPGなら、俺は『体が弱いが魔力がバカ高い魔法使いキャラ』か、あるいは『中盤で闇落ちするライバルキャラ』あたりか。
もし学園ラブコメなら、『主人公の親友』。
もし乙女ゲームなら、『ショタ・病弱枠の攻略対象』か『悪役令嬢の取り巻き』。
そこまで考えて、俺はゾッと背筋を凍らせた。
「待て。もし、ここが女性向けの世界だとして……乙女ゲームならまだいい。だが、もし『BLゲーム』だったら……?」
この細い体。この無駄に整った儚げな顔立ち。生意気そうな侯爵家のショタ。
……どう考えても、ド直球の『総受けキャラ』にしか見えない。
屈強な騎士団長やら、腹黒い王太子やらに、この細い腕を壁ドンされて迫られる自分の姿を想像してしまい、強烈な吐き気が込み上げてきた。
「冗談じゃねえぞ……っ! BLだけは、BLだけはマジ勘弁……ッ!!」
俺の貞操が、ケツが危ない。
いや、まだBLだと決まったわけじゃない。乙女ゲームの可能性も、血みどろのバトルものの可能性だってある
んだ。まずは情報収集だ。この世界のフラグを慎重に確かめないと、最悪掘られる。
コンコン、と控えめなノックの音が鳴った。
「カイン坊ちゃま。お目覚めでしょうか? お体の具合はいかがですか?」
「……入ってこい」
入ってきたのは、初老のメイドだった。俺がベッドから出ているのを見て、彼女は血相を変える。
「ああっ、坊ちゃま! いけません、お熱が下がったばかりなのですから、まだ横になっておられませんと
!」
「うるせぇな。俺はもう平気だっつってんだろ。大袈裟なんだよ、いちいち」
つい口調が荒くなってしまう。俺の元の性格のせいもあるが、どうやらこの「カイン」自身も、体が弱いコンプレックスからかなり短気で口が悪い子供だったらしい。
「ですが……」
「いいから。……あー、クソ。俺なら大丈夫だから」
シュンと肩を落とすメイドを見て、俺は気まずくなって頭を掻いた。
「……あ、喉渇いた。悪いが水持ってきてくれ。」
「っ! は、はいっ! ただいまお持ちいたしますね!」
メイドはなぜかパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに部屋を出て行った。なんだあの反応。もしかして俺、ツンデレチョロインみたいな扱いになってないか?
「……とにかく、のんびりしてる暇はねぇな」
俺は固く拳を握りしめる。
この世界が乙女ゲーなのか、ラブコメなのか、バトルものなのか、それとも恐るべきBLなのか。
俺の平穏と貞操を守るための、手探りのサバイバルが今、幕を開けたのだった




