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8、家族と未練



 開店前のラティの店に突然現れた半年振りの家族。



 「お父様…お義母様…シェリルお義姉様に…ミシェルまで…」


 呆然と立ち尽くすリエラに静まり返る店内。沈黙を破ったのは、父親のローガスだった。


 「さ、探したぞ…リエラ。お前が…この国で平民として生活していると知って」

 「お久しぶりです!お父様!」


 ローガスが話す中、リエラが急に駆け出し、ローガスに抱きついた。思いがけないことに周りはポカーンとしている。


 「お義母様も、シェリルお義姉様もミシェルも元気そう何よりです。皆さんで会いに来てくださるなんて思ってもいなかったです」


 リエラは半年前まで自分が目の前の家族達にひどいことをされたのを忘れているかのように、家族に笑顔を振り撒いていた。


 「あ、紹介します。両親と姉のシェリルと妹のミシェルです。こちらはこのお店の店主のラティさんと常連のジークさんです」


 リエラがそれぞれ紹介すると、双方は互いにぎこちなく会釈する。


 「ちょうどお店開店したので、良かったら食べて行ってください。ラティさんの料理、とても美味しいんですよ。あ、お代は私が出すんで遠慮なさら」

 「そんなことはどうでもいいのよ。それより…






 





 家に戻って来なさい、リエラ」

 「えっ…?」



 義母ミラの突然の言葉に、リエラは思わず聞き返していた。

 ミラはリエラに近づき、両手でリエラの手を握った。


 「私達貴方が居なくなってやっとわかったのよ、なんてひどいことしたのかって。貰いっ子の貴方を使用人のように扱ったりひどい仕打ちをしたり。自立するためって言ったけど、ホントは私達が嫌いで家を出ただけなんでしょ?そうじゃなきゃ、まだ十四の貴方が突然家を出るなんて言うはずないもの。だから、家に戻りましょう。これからはみんな仲良く一緒に暮らしましょう!」


 ミラはリエラに笑顔でガイジェスト家に戻るよう促す。一方のリエラは終始キョトンとした顔をしている。リエラはミラが自分の手を握ることも、自分に笑顔を向けたのもこれが初めてだったからだ。


 ガイジェスト家に住んでいた時、リエラはミラが自分に笑顔を見せることは一度もなかった。無視はもちろん、汚い物を見るかのようにリエラを見ていた。実子二人には優しい母の顔をするのに対し、リエラには鬼のように睨みつけて、あからさまに差別していた。


 そんなミラが初めて自分に笑顔を見せたことに驚き、内心歓喜もした。しかし…






 「…お気持ちは嬉しいですが、私はもうガイジェスト家には戻りません」

 「……は?」


 リエラは迷いなく断った。ミラは断られることを想定してなかったのか、目を丸くして気の抜けた声になる。側にいたラティとジークは状況が上手く飲み込めず、ただ目の前の出来事を黙って見ているしかなかった。


 「…えっ?ど、どうしてなの?…あ、ロイド君のことは大丈夫よ。シェリルとは婚約を解消したみたいだから、貴方が家に戻ってくるならロイド君とまた婚約出来るようにお願いするから。だから…」

 「そうではないんです」


 リエラはミラがずっと握っていた手をゆっくりと下ろした。


 「私はお義母様達やロイド様を恨んでなどいません。産みの母が亡くなった後、身内の居ない私を引き取ってくださっただけでも感謝してるんです。お義母様の厳しさは、私が貰いっ子だからと甘やかさず一人の人間として正しい教育をしてくださったと思っています。だから今こうして平民としてしっかり生きていくことが出来ます」

 「…だ、だけどロイド君は貴方を心から愛して」

 「始めはそのようでしたが、婚約解消の以前からロイド様は私を避け、シェリルお義姉様と頻繁に会うことが増えました。だから、あの日お二人が婚約すると知って安心しました。やっぱり愛し合うお二人が一緒になるべくだと」


 リエラの話す言葉に、ミラをはじめガイジェスト一家は呆然した。リエラは自分が受けた仕打ちや裏切りは、愛情の裏返しだと本気で信じて疑わなかったからだ。


 「皆さんと過ごした日にはもう未練はありません。この国の皆さんとは仲良くて一人ぼっちではないので、私のことは気になさらないでください」


 リエラはニコッと笑ってそう宣言した。この一言で、リエラは完全にガイジェスト家には戻らないと断言したようなものだった。すると、





 「……っざけんじゃないわよ!!」

 「きゃっ!!」

 

 ドターン!!!


 それまで黙っていたシェリルが、怒りを露わにしてリエラに飛び掛って馬乗りになる。リエラは突然のことに制御出来ず倒れ込み、側にあったテーブルが勢い良く倒れた。


 「リエラ!!」

 「止めなさい、シェリル!!」

 「うるさいっ!!」


 予想していなかった最悪の事態に、両親やラティがシェリルを止めようとするが、シェリルは止める気などなく、リエラの長い髪に掴みかかる。


 「あんたのせいで、家はもうめちゃくちゃなのよ!!ロイドには婚約解消されるし、サエストロ伯爵からは金銭援助が無くなるし、ミシェルは学院で虐められるし。あんたなんか居なければ、私の人生何もかも上手くいったのよ!!」


 普段は落ち着きがあり品行方正なシェリルが、鬼のような形相で怒り狂っていた。あまりの変貌ぶりに、両親は止めることが出来ず呆然と立ち尽くしていた。


 「あんただけ幸せになろうなんて許せない!!妾の子のあんたは屋敷の中で、一生召使いのように生きていけばいいのよ!!」


 シェリルがそう言い放つと、リエラの頬めがけて腕を振り下ろした。叩かれると察したリエラは目をギュッと閉じた。


 

 


 パンッ





 乾いた破裂音のような叩く音が、店内に響く。しかし、リエラにはその音の痛みは感じなかった。

 リエラはゆっくり目を開けると、さっきまで自分に馬乗りになっていたシェリルが、頬を赤くして床に倒れていた。シェリルは誰かに頬を叩かれたようだ。そして、シェリルの前に立っていたのは…




 「いい加減にしなさい、シェリル」




 父親のローガスだった。


 

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