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4、暗雲と崩壊


 ある日、ガイジェスト家に長年執事として仕えていたルドルフ・オーフェンが館主であるローガスに辞職を申し出たのだ。


 「い、今なんと言ったんだ…ルドルフ」

 「ですから、本日限りでこの家の執事を辞めるとおっしゃいました」 

 ローガスはこの事態に青冷めていた。昨日まで仕えていた執事が急に辞めると言ってきたからだ。既にルドルフの横に荷造りしたであろう荷物が置いてあった。


 「ど、どうしてなんだルドルフ!!お前は長年この家に仕えてきたのに…一体何が不満だったんだ!?」

 「…不満、ですか。私がこのガイジェスト家に仕えて早二十年、正直に申しますと不満しかありませんでした」

 「なっ!?」

 「表向きは良き家柄と言われている裏で、使用人を雑に扱い、罵詈雑言は当たり前、休暇もろくに貰えない。本当のことを言いますと、ずっと前からお暇いただこうと思っておりました。それでも今日まで仕えて来れたのは、リエラ様の存在です」

 「リエラが…?」

 「リエラ様は本当にお優しい方でした。貴方様達ご家族に虐げられても不平不満を言わないどころか『本当は優しい家族なんだ』と誇らしげに仰ってました。私達使用人にも分け隔てなく優しく思いやりがありました。あの方が居ない今、執事として仕える意味はもうありません。今まで本当にありがとうございました」


 そう言って一礼すると、ルドルフは荷物を持ち家を出ようとする。


 「ま、待てルドルフ!お前に辞めて貰っては困る。今月に入ってもう六人も使用人が辞めているんだ。なんなら来月から給金を倍にする。だから…」

 「……リエラ様が貴方様ご家族に似なくて本当に良かったです」


 そう冷たく言い放つと、ルドルフは屋敷を後にした。


 バタンッ―――


 強く閉められた扉の音が響いた後、屋敷は一瞬にして静かになる。



 「そ、そんな……」


 ローガスはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。その時、夫人のミラが勢い良く部屋の扉を開けて入ってきた。


 「あなた!あなた大変よ!!」

 「何だミラ。そんな血相変えて」

 「サ、サエストロ伯爵からこんな手紙が…」


 ミラは震えながらローガスに一通の手紙を見せた。しばらく手紙の内容を流し見たローガスは愕然をした。


 「サ…サエストロ家からの…資金援助……廃止…だと……?」


 手紙の内容は、これまでサエストロ家から頂いていた資金援助を突然廃止するとのことだった。理由としては、ロイドがリエラと婚約破棄をしたことで、これまでの友好的な関係がなくなったとみなしてのことのようだ。


 「これまでサエストロ家の援助で我が家は成り立っていたのに……それがなくなったら」

 「私達…これからどうなるの…?」


 絶望的な状況の二人。その時、部屋の扉を開ける音がした。


 「お父様…お母様…」


 扉を開けたのは、末娘のミシェルだった。ミシェルは現在王立学院に通っていて、それから帰ってきたようだ。しかし、どことなく声に元気がない様子だった。


 「――ッ!!ミシェル!?」

 「ど、どうしたんだ!!その格好は…!?」


 二人はミシェルを見て愕然とした。

 朝学院に向かう際に見たミシェルの姿と違って、薄ピンク色の髪はボサボサ、白玉のようなツヤ肌の顔と赤色のワンピースは泥だらけだった。


 「…クラスメイトに…」

 「学院のクラスメイトのことか?」

 「…『ガイジェスト家の人間は家族を虐げる野蛮な一家だ。学院から出ていけ!』って…今までお友達だった子達がみんなミシェルをイジメるの…」


 ミシェルは涙を流しながら二人に訴えた。どうやらあの日リエラが夜会暴露した話が国中で広まってたようで、それ以来ミシェルは学院でイジメを受けているようだ。


 「まさかミシェルまでこんな……そういえば、シェリルはどこにいるんだ?」

 「それが…ロイド君に会いにサエストロ邸に行ったようで…」












 「ロイドに会わせないってどういうことよ!?」


 一方のサエストロ邸宅では、玄関ホールで怒号をあげるシェリルとその先の行く手を阻むサエストロ家の侍女二人が言い合いをしている。


 「ですから、旦那様と奥様が貴方様にロイド坊ちゃまを会わせるなと言いつけて申されてますから」

 「私は婚約者よ!!使用人の分際で、令嬢の私に指図するって言うの!?」


 シェリルが使用人を罵り怒鳴り散らすと、侍女の一人がため息を吐きながら言う。


 「……ホント、姉妹なのにリエラ様とは大違いですわ」

 「何ですって……?」

 

 侍女の聞き捨てない言葉に、シェリルは苛立ちを募らせて言い返した。


 「リエラ様は坊ちゃまや伯爵様ご夫婦だけでなく、私達使用人にもお優しく接しておりました。私どもリエラ様がサエストロ家に嫁ぐ日を待ち望んでましたのに、坊ちゃまが貴方のような方と婚約なさるなんて…」

 「なっ……何よ何よ!!私がロイドの婚約者なのが不満だって言うの!?」

 「正確に申しますと、不満しかございませんね」

 「何ですって!!!」

 「騒がしいぞ」


 シェリルと使用人が言い合いをしているところに、奥からロイドが歩いてきた。侍女達はロイドが現れるとすぐに一礼した。


 「ロイド!この使用人達をどうにかして!婚約者の私に口答えをするのよ。しっかり教育し直してよね!!」

 「……教育し直すべきは、君の方だよシェリル」

 「…えっ?」


 ロイドの冷たい口調に、シェリルは言葉が出なかった。






 「…シェリル、君との婚約を破棄する。俺はやっぱりリエラが好きなんだ」


 ロイドのその一言で、シェリルの中で何かが崩れる音がした…。

 

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