3、平民と人気者
リエラがガイジェスト家を出て、半年が経った。
「リエラちゃん、このジャムひとつ下さいな」
「はーい。ありがとうございます!」
リエラはここ、アルミナ王国の平民として暮らしている。
アルミナ王国は建国して日は浅い王国だが、今現在発展途上国として注目されている国である。特に女性の社会活動に力を入れていて、王国に住む八割の女性が何かしらの職に就いている。移民も歓迎していて、リエラはそんなアルミナ王国の魅力に惹かれて移住を決意したのだ。
リエラの生活は、昼は農作と街のレストランでウェイトレスとして働き、夜は趣味の刺繍や読書を楽しむ。毎日それの繰り返しだが、以前のこき使われてた生活に比べてのんびりとした生活を送っている。
そして今日は月に一度行われる行商市の最中だ。各国の商人が露店を並べて出稼ぎに来ているだけあって、毎回大賑わいだ。リエラも自分の露店を開き、自家製のジャムや収穫した野菜のピクルスなどを売っている。
「リエラちゃん、今回もジャム買いに来たよ」
「リエラちゃんが作る野菜はどれも美味しくて最高だよ」
「リエラちゃん、店終わったら一緒に食事でも…」
「あ、お前抜け駆けずるいぞ!」
この国に移住したばかりのリエラだが、すっかり街の人気者だ。
まだ十四という若さだが、働き者で老若男女分け隔てなく優しく愛想がいい。そんなリエラに街の人達は娘のように可愛がり、中には好意を持っている男達もいる。今こうしてリエラの商品を買いにくる男達は皆、リエラが働くレストランの常連客達だ。
「ジェイドさん、今回もありがとうございます」
「ケビンさん、今日の野菜昨日採れたてなんでぜひ買ってって下さい」
「アギトさん、また常連の皆さんと一緒に行きましょう。よろしければジョージさんもご一緒に」
男達のアプローチなど露知らず、リエラは皆平等に受け答えする。リエラの優しさはあくまでも友好的な意味であり、異性的な好意は皆無であった。
「こらっあんた達品物買わないなら帰りな!営業妨害だよ!」
商品よりリエラを口説くのに夢中な男達に一喝したのは、ナターシャという中年の女性だ。体格が良くて気の強い性格で、リエラが一番頼りにしている人だ。去年一人娘が隣国に嫁いでしまったので、ナターシャはリエラを実の娘のように可愛がっていた。
「お疲れ様リエラ。これ、朝作ったパンだよ。私が店番してるから、休憩してきな」
「わぁ!ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
ナターシャに露店を任せて、リエラは隅っこでお昼休憩をとる。ナターシャの手作りパンはほんのり甘くて絶品で、リエラはナターシャのパンが大好物だ。
「あ、リエラちゃん。またうちの店の手伝いお願いしてもいいかな?今人が足りなくてね…」
「リエラちゃん。お隣のミスト婆ちゃんが腰悪くしちゃったみたいでね、畑仕事と家の掃除お願いできないかな?」
休憩をしていると、色んな人がリエラに頼み事をしてくる。
「ドロシーさん、わかりました。今日行商市が終わったら手伝いに行きます」
「まぁ、それは心配ですね。わかりました、明日家の畑仕事が終わったら行きます。それとお見舞いの品持って行きます」
このようにリエラは急な頼み事も嫌な顔せず快く受け入れる。
「いつもありがとうね、リエラちゃん。自分の仕事もあるのに」
「いえ、私が好きでやってるのでお気遣いなく」
屈託のない笑顔を見せるリエラに、皆癒される気持ちになる。
「リエラちゃんは本当に良い子だね。うちの娘もリエラちゃんを見習って欲しいわ」
「リエラちゃんがうちの息子の嫁になってくれたら嬉しいわ」
自立して半年。やりがいのある仕事をし、優しい人達に恵まれて、リエラは毎日充実した日々にとても満足していた。
「みんな、元気にしているかしら…?」
リエラは家族のことを思いながら、大好きなパンを齧った。
一方ガイジェスト家では、
「本日より、この家の執事を辞めます」
「な、なんだって…」
何やら不穏な空気が流れていた……。




