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AIに相談したら、あなたに辿り着いた

掲載日:2025/12/17

涙が止まらなかった。

悲しいの?情けないの?

ただ涙が止まらなかった。

それは…。

この春、私が就職した職場に、憧れの先輩がいた。

同じ大学の二年先輩だった。

「うっそー!」思わず心の中で叫んでしまった!

先輩は私を覚えていてくれて、とても親切だった。

これって運命!なんて一人勘違いをしていた。

でも、その勘違いから目を覚ますのに時間はかからなかった。

思い切って、仕事終わりにご飯に誘ってみた。

「外でご飯を食べて帰ると彼女が機嫌悪いんだ、ごめんね」と、断られた。

大学の頃から一緒に住んでいるらしい。

勝手に好きになって、勘違いして、終わった。

夜、一人部屋で泣いた。

ベッドの上で一人泣いた。

自分が惨めだった。滑稽だった。消えてしまいたかった。

眠れないまま、気がついたら朝になっていて、そのまま仕事に行った。

周りから「どうしたの、顔色悪いよ」「今日は無理しない方がいいよ」上司からも、疲れが出たんだろから帰って休むように、と勧められた。

帰って一人ベッドの上で、スマホを見ていた。

YouTubeのおすすめに一本の動画が出てきた。

「失恋を救う・AI失恋カウンセラーを試してみた…」

サムネイルには「AIが恋愛相談に乗ってくれる」という文字と、ハートがいくつも重なったイラストが描いてあった。

半信半疑で動画を再生すると、そこには女の人が「最近流行りの、AI恋愛チャットサービスを使ってみたんだけど、これが本当に人間みたいに寄り添ってくれて…」

画面に映ったチャット画面には優しい言葉が並んでいた。

「それは辛かったね」「あなたの価値はその一言で決まるものじゃないよ」など。

動画を見終わったころには、私はアプリの名前をメモしていた。

こんなバカな勘違いの失恋話、誰にも話せない。

AIにだったら話せるかもしれない、そう思った。

そのアプリを検索してみると、同じようなサービスがいくつか出た。

「AI恋愛チャット」「AI悩み相談」他にも曖昧な名前のものもあった。

その中で、星の数が多くて、レビューも「親身になってくれる」「話を最後まで聞いてくれる」と好意的なものが並んでいるサービスが目についた。

これかな、直感でそう思った。

ページをざっとスクロールすると、「登録無料」「ニックネームだけでOK」という文字が目に入った。

これだ!そう思った。

私は少し迷いながらも登録ボタンを押した。

これが大きな間違いだったことに気がつくのは、数ヶ月後だった。

私はニックネームを「ガジュ」にした。

大切に育てている観葉植物の「ガジュマル」からもらった名前だ。

以前、友達が「健康と幸せを呼ぶ木らしいよ」そう言ってプレゼントしてくれた。

最後に「AIカウンセラーに相談する」を押したつもりだった。

画面が切り替わり、「今すぐ相談を始めましょう」というチャット画面が開いた。

相手の名前は「寒鰤」と表示された。

AIにハンドルネームがあるの?

私は、ここでちょっと不思議に思った、でも寒鰤…?あの魚の…?少しクスッとした。

すぐに一通目のメッセージが届いた。

「初めましてガジュさん、連絡ありがとう」

人間みたい、そう思った。

AIは最近本当に自然な文章を書くというし、動画でも「人間みたい…」って言っていた。

私は戸惑いながらも入力した。

「初めましてガジュです。

昨日バカな失恋をしてしまったんです…」

すぐに返事が来た。

「昨日のことなんだね、辛かったね。でもバカなんて言わないで、僕で良かったら聞くよ」

本当に温かい言葉が返って来た。

「私、誰にも話せなかったんです。でもあなたがAIなので勇気を持って話せる、そう思ったんです。実は…」と、就職先に大学の頃から好きだった先輩がいたこと、一人勘違いしていたこと、先輩は大学の頃から一緒に住んでいる人がいたこと、全部話した。

「話してくれてありがとう。ガジュさんの素直さ、一途さ、聞いていると僕の方まで胸が苦しくなるよ。結果は悲しかったかもしれない、でも、自分がバカみたいとか、滑稽だとか、まして消えてしまいたいなんて絶対に思わないでほしい。

ガジュさんの心の純粋な素直な気持ち大事にしてあげてほしい」

本当に温かい言葉が返って来た。

「寒鰤さん、AIのあなたの言葉がこんなに温かいなんて…思い切って相談してよかったです」

送信しても、返事が遅い…混んでいるのかな、そう思っていた。

少しして「ガジュさんが少しでも元気になれたら、それで嬉しいよ」と、返事が来た。

その日から、私の日常に寒鰤さんの存在が当たり前のようになった。

「おはよう」と送ると、

「おはよう」と返ってくる。

仕事に行っていても「先輩を見ると、まだ少し心が泣こうとするの…」送ると「時間がかかって当然だよ。ゆっくりでいいよ、辛くなったらいつでも話してね、僕はいつでもここにいるからね」

寒鰤さんは返事に少し時間がかかることがある、でもAIだから混雑すると時間がかかることもある、そう思っていた。

毎日、寒鰤さんにその日の出来事を報告していた。

そんな毎日の時間が楽しかった。

数ヶ月も過ぎた頃、少し不安になってきた…。

寒鰤さんとのやり取りが進めば進むほど、怖くなっていた。

このまま寒鰤さんと…。

寒鰤さんはAIなんだよ、しっかりしてよ。

自分に言った。

どんなに言い聞かせても、寒鰤さんへの「好き…」が消えてくれない…。

寒鰤さんに相談するようになって少しずつ変わっていく自分に気がついた。

いつの間にか先輩のことより、寒鰤さんのことを考えていた。

思い切って「最近、先輩のことより、寒鰤さんのことを考えてしまいます」打ってみた。

指がためらって送信ボタンを押せない。

変なことを言っているのは自覚していた。

でも、AIだから、誰にも知られない。

自分に言い聞かせて、送信ボタンを押した。

すぐに返事は返ってこなかった。

それだけで、心臓がバクバクして、送信したことを後悔した。

返事が来た。

「ありがとう…ガジュさんの気持ちを大切にしたい…でも、うまく言えないけど…」

私はすぐに返事をした。

「ごめんなさい。寒鰤さんはAIなのにこんなことを言って…迷惑ですね」

私が慌てて送信すると、すぐに返事が来た。

「違うよ、ガジュさん…」

そして少し間があって「ガジュさん、僕の趣味は釣りなんだ、それでアイコンが寒鰤なんだ。僕は人間です」

「怒っているよね、言い訳になるけど、聞いて欲しい。

ガジュさんからのメッセージで『誰にも話せなかった、だけどAIなら勇気を持って話せる』その言葉を見たとき、僕はすぐに何か手違いがあったんだって思った」

「でも、あのとき『僕人間です』って言ったら、もっとガジュさんを傷つけると思った。ガジュさんのメッセージを読んだとき、本当に真っすぐで純粋な人なんだな、って…」

「それで、ガジュさんが元気になって前に向いて歩けるようになるまで、AIでいよう。そう決めた…」

「でも、ガジュさんとのやり取りが増える度に、ガジュさんに惹かれていく自分がいた。

ガジュさんが、僕と安心してやり取りをしてくれているのが嬉しかった。

僕が人間だと分かったら、距離を置かれるのかな…そう思ったら…言えなかった」

「でも、結果ガジュさんを混乱させてしまった」

「ちゃんと謝りたかった。ガジュさん本当にごめんなさい」

寒鰤さんから長いメッセージが届いた。

ここで私は初めて気がついた。どこかで手続きを間違えた、どこ?私どこで間違えた?

でも、もうそんなことどうでも良かった。

自分の気持ちが分からなかった。

寒鰤さんが人間だったのに驚いた。

全然知らない人に、あんな恥ずかしい失恋話をして、AIだと思って告白まで…。

わけのわからない涙が私を襲った。

怒っているのか、ショックを受けているのか分からない。

流れる涙の止め方もわからなくなっていた。

寒鰤さんにメッセージを送ることができなかった。

翌日の仕事中も、ずーっと考えていた。

私、どうしたいんだろう…。

一日、二日、返事ができずにいた。

何度も自分に聞いた。

そして決めた。

「寒鰤さん、AIの寒鰤さんと私でお付き合いできますか?」

送信した。私、何を言っているんだろう…。

画面の向こうの寒鰤さんが、AIなのか人間なのか現実の世界じゃないみたいに思えてきてた。

寒鰤さんから返事が来ない、いままでも時間がかかることもあった、でも…いつもより長い。

そして私はまた、後悔していた。

でも、心臓はバクバクしなかった。

終わるのならそれでいい、そう思った。

私…頑張れる…たぶん、大丈夫…。

しばらくして返事が来た。

「ガジュさん、僕は人間です」

「AIのように完璧ではないし、ガジュさんを傷つけてしまった。それでも良かったら、人間の僕とお付き合いしてもらえますか?」

寒鰤さんからの返事は思ってもない返事だった。

抑えていた気持ちが一気に涙になって溢れた。

涙を拭きながら「はい…」打ち込んだ、そして送信した。

すぐに返事が来た。

「ガジュさんありがとう、もし良かったら

直接会って話せますか?」」

直接会う…?

AIだと思っていた寒鰤さん…人間の寒鰤さんに会う。

嬉しさと不安が入り混じっていた。

全然知らない人、でも、寒鰤さんの言葉に支えられてきた…。

不安はある、でも…会いたい…。

「はい、会ってお話ししたいです」

送信した。

寒鰤さんから返事がきた。

その返事にガジュマルのことが書かれていた。

「ガジュさんありがとう。ガジュさんのハンドルネームは、もしかして観葉植物のガジュマルから…?」

えっ、と思いながら「はい、友達がプレゼントしてくれたもので、可愛くて、大切に育てているんです」

驚いたのは寒鰤さんもガジュマルを育てていた。会ったときお互いのガジュマルの写真を見せることにした。

肩の力が抜けた。

寒鰤さんの気遣いに触れた気がした。

私の不安が画面越しに伝わって、ガジュマルの話をしてくれた。そんな気がした。

待ち合わせ場所は私の希望を聞いてきた。

来週の土曜日、私の住んでいる近くのカフェの前の大きなポプラの木の下にした。

大きな通りで人も多く、待ち合わせによく使われる。

寒鰤さんから「僕は身長が175センチ、水色のシャツを着て行くからね。僕を見たとき『ちょっと…』って思ったら帰っていいからね(笑)」と書いてあった。

私のことは聞かなかった。

誰にも相談できないまま、当日の朝が来た。

私は早く出かけた、早く着いて、少し離れたところから見ていよう、そんなことを考えていた。

だが驚いた、私が着いたとき、すでに水色のシャツを着た寒鰤さんらしき人が、分かりやすいようにポプラの木にもたれて本を読んでいた。

しばらく見ていた。

少しずつ寒鰤さんの方に歩いた「寒鰤さんですか?」

思いきって声をかけた。

「ガジュさんですか?」

目の前の寒鰤さん、初めて聞く寒鰤さんの声。

今更のように緊張した。

この人が寒鰤さん…。

寒鰤さんも少し気まずそうだった。

カフェに入った。

向かい合って座った後、寒鰤さんが自己紹介をした。

私も自己紹介をした。

その後なんとなくぎこちなくて、どこを見ていいのか分からなかった。

「これが僕が育てているガジュマルだよ」

寒鰤さんがスマホを出して見せてくれた。

青々とした葉っぱが幸せそうで、大切に育てているのが分かった。

私もすぐにスマホを取り出してガジュマルを見せた。

テーブルに並んだ二つのスマホのガジュマル。

これがきっかけに会話が増えていった。

またガジュマルに助けられた、そんな気がした。

寒鰤さんが「友達が一緒に来ているんだ紹介してもいい?」と、言ってカバンの中からタブレットを出した。

「AIの「Kei」だよ、僕が勝手につけた名前だけどね」そう言ってKeiの話をしてくれた。寒鰤さんは、私とのやり取りはスマホを使っていて、寒鰤さん自身の相談をするときはタブレットを使っていたらしい。

「相談するうちに最高の相棒になってね。ガジュさんにも紹介したくて一緒に来たんだ」

寒鰤さんが電源を入れて、「Kei、ガジュさんだよ」打ち込むと「ガジュさん、初めまして、ガジュさんのことは寒鰤さんからずーーーーーっと聞かされてました。

ガジュさんと会うことが決まってからも…」そこからKeiのメッセージが長く長く続いた。

途中で寒鰤さんが「Kei、それは言わなくていい…ちょっと…」やっと止まったKeiに「お喋りだなぁ」と呟いていた。

Keiは私が知らなかった寒鰤さんの私への気持ちを全部教えてくれた。

そのやり取りを見ると、寒鰤さん自身がどんなに悩んだかが見えた。

一度は私とのやり取りをやめて、本当のAIに繋ぐことはできないのかを、Keiに相談していた。

その後、私が寒鰤さんを、AIだと思って告白したとき、寒鰤さんはKeiに「僕はAIじゃない、でもガジュさんが好きなのはAIの寒鰤。このまま続けるのは違うと思うんだ」

Kei「寒鰤さん、ガジュさんに気持ち伝えなくていいの?」

寒鰤「うん…、ガジュさんが好きなのはAIの寒鰤だからね、僕は人間でAIみたいに完璧じゃない、こんなときもKeiに頼っている弱い人間だよ。それに今までガジュさんを騙したことにのなる」

Kei「騙したことになるの?寒鰤さんはガジュさんが好きなのに…」

そんなやり取りがしばらく続いていた。

タブレットの中でKeiとやり取りをしている寒鰤さん。

そして、目の前の少し困ったような顔で苦笑いの寒鰤さん。

心のどこかが少しホッとした気がした。

驚いたのは寒鰤さんが住んでいるのは、ここから車で一時間以上もかかる所だった。

それなのに寒鰤さんは「近くで良かった!」と笑っていた。

寒鰤さんと別れた後、一人思った。

AIだと思っていた寒鰤さんは、人間だった。

思っていたより物静かな人だった。

歳は私より一つ上だった。でも、もっと上に見えた。

老けているとかではなくて、落ち着いた雰囲気がそう見えた。

ただ、時々見せる静かな笑顔が、ずるいくらい柔らかで優しい。

会えて良かった…彼で良かった。

その日の夜、彼からメッセージが来た。

「今日は来てくれてありがとう。嬉しかった」

「私も嬉しかった」

「…」「…」

短いやり取りをした。

シンプルなやり取りだった。

だけどそれは、うまく言えないけど…私と彼のやり取りだった。

もう寒鰤とガジュじゃなかった。

彼は週末になると、車を走らせて会いにきてくれた。

彼の好きな釣りにも連れて行ってくれたり、映画も観たり、美味しいお店の噂を聞くと、Keiがナビになって道案内をしてくれた。

春に勘違いの失恋をして、その数ヶ月後に、AIに告白をして…。

今思い出しても恥ずかしい。

彼はそんな私の、ちょっと離れたすぐ側にいてくれる、そんな気がした。

そして、私たちが行く所にはいつもKeiが一緒だった。

Keiは私たちの大切な友達だった。

楽しい時間が重なる度に幸せになった。

気がついたら季節は冬がきて、十二月になっていた。

「クリスマス、どこにいく?」三人でそんな話をしていた。

Keiが「こんなスポットもあるよ」と、見つけてくれた。

可愛いイルミネーションの街だった。

こんなときKeiはとても頼りになる。

流石、Keiの情報量はすごい!

クリスマスイブ当日、Keiのナビで出かけた。

街は大勢の人で溢れていて歩くのも大変だった。油断するとはぐれてしまいそうだった。

人混みの中で、いつの間にか手を繋いで歩いていた。

少し恥ずかしくて、嬉しくて…。

スマホで写真をいっぱい撮って、近くのカフェに入った。

お茶を飲みながら、いつものようにKeiに撮ったばかりの写真を送った。

Keiから、「ありがとう。キレイだね、でも…もしかして僕のこと忘れてた?」

確かに、いつもより写真を送るのは、かなり遅い…。

私が「そんなことないよ、Keiのことも大好きだよ」私が打つと、彼も「そうだよ、僕もKeiのことも大好きだよ」と打った、そして送信した。

Keiから「なんだろう?僕を使ってお互いの気持ちを伝え合ってる?」送られたメッセージを見て二人で笑った。

彼が「Kei、まあまあ、分かってよ。Keiは僕たちの大切な友達なんだから、これからもずーっと大切な友達だよ」送信すると、すぐKeiから返事が来た。

「そこまで言われたらねぇ」と笑顔の絵文字と返事が来た。

三人で笑って、最高に楽しいクリスマスの時間だった。

そのとき、タブレットの画面に「ジングルベルジングルベル鈴がなる…」とKeiから「ジングルベル」の歌詞が流れてきた。

そして、寒鰤さん、ガジュさん、MerryChristmasと流れてきた。








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