第二話:得たもの、日常、これからの話
同時投稿の3、です。
意識が浮上する。白い何かが見えた。天界……? 似たような景色を思い出す。オレの記憶じゃない、でもオレの記憶。しかし、天界だと思ったのは勘違いだった。それは天井だった。白い天井、ライトがオレを照らしている。何で寝てたんだ……。今日……もしかして昨日? 何をしていたんだっけ。思い出そうと意識を集中しようとしたとき、体に激痛が走った。
「ぎ……っぐ、がっ…!」
とてつもない激痛。今すぐ叫びだしたいが、それすら痛みに変わる。まわりがばたつき始めた。良いからオレを助けてくれ。痛くて死にそうだ……。伝えたいのに伝えられない。喋ろうとするも、痛みでそれどころではなくなる。と、何かに体が抑えられる。全身の痛みとは比べ物にならないが、腕にチクリと、何か刺さったような痛みを感じる。それからどれだけ経ったか、全身の痛みが引いてきた。今は何とか、暴れ出さずに済む程度まで治まっている。と、唐突に話しかけられた。
「もう大丈夫。鎮痛剤を打った……と言っても分からないか。痛みを抑える薬を注射したからね、もうじき普通に喋れるようになるはずだ」
「…ぁ……」
「ぬ? どうしたのかね?」
「な……で、ここ、に…。なに…し、て」
「ふむ? 悪いがきちんと聞き取れないな……すまない」
どうやらここは病院らしい。白衣を着た医者に、白い部屋。しかし、問題はなぜここにいるかと言うことだ。医者の言うとおり、痛みは段々治まってきたが、この痛みにも覚えがない。そのことを聞こうと思ったが、まだうまく喋れない。もう少し落ち着くのを待とう。
「はぁ……あの、オレは何でこ、こに……? それ、に、体の痛みも…覚えがない、んですが」
「ふむ……心が拒否したのか? それとも……いや、今は良いか。君は全身の筋肉を限界以上に使った為、筋肉が断裂しているんだよ。全身の痛みはそれで、その為にここに運ばれた」
「筋肉……? 限界以上って……何してたんだ?」
思い出そうとする。それほどのことをするのだ、何か理由があったのだろう。と、すれば、きっかけがあればすぐに思い出せるかもしれない。兎に角、学校を出てからのことを思い出そう。
学校を出たあとは……確か、いつものように木葉と帰って、ゲームのことで小言を言われたんだ。んで、そのままバスに乗って……家に帰った? なんか違和感が……家? っ!? そうだ! なんで忘れてたんだ。濁った目で見つめてくる父さん。覆面の男(?)。家での光景がフラッシュバックする。
「っ!! ぁあ! なんで……なんでっ!?」
全部思い出した。家の様子がおかしかった。裏口で男(?)につかまり、書斎で父さんの……死体を見て。錯乱して、男(?)を倒し(どうやったか今でも分からない)、そのまま気絶したんだ。
「……あの強盗は……? どうなったんですか」
「覚えていたのかね……。それについては、君のお母さんを呼んでいる。ここに連絡してきたのもお母さんだからね。話をすると良い」
そう言われ、母さんを待つことにする。しばらくして、慌てたように病室に母さんが駆け込んできた。
「耀!? 大丈夫なの!? っ……良かった…」
母さんを見るオレを見て、泣き崩れる。まぁ発見したのが母さんだとしたら、血塗れで気絶するオレを見たんだろうから、そりゃ心配するよな。
しばらくして落ち着いたのか、母さんが話しかけてきた。
「耀……ほんとに大丈夫なの? 痛いところとかない?」
「あはは……今は平気だけど、さっきまで死ぬほど痛かったよ。まぁ筋肉が切れてたらしいし、当たり前かもね。それより、父さんはどうなったの……? あの強盗は?」
「……父さんは、死んだわ。私が見つけたとき、もう手遅れだった……。あの男は、警察につかまってる。酷い怪我だったらしいけど、命に別状はないって……なんでっ! …なんであんなやつが助かって、あの人が死ななきゃいけないの……なんで…」
また泣き崩れる母さん。無理もない……見つけたとき、既に父さんは死んでいて、オレも(多分)死に掛けだったのだ。オレが意識を取り戻して、少しは安心したのだろうが、父さんが死んだ事実だけでも、十分以上に堪えるだろう。オレはと言うと、泣き崩れる母さんを見て、随分と落ち着いていた。思い出した直後は、出来るだけ表面に出さないようにしていたが、頭が沸き立っていた。今は、母さんを支えるのはオレしかいない、という意識の元、感情は大分収まってきている。
「母さん……元気出して、とは言えないけど。これからは、父さんの分もオレががんばるよ。早く働けるようになって、母さんを守るから」
「耀……。っうぅぅぅ」
少しでも元気付けようとしたが、また泣いてしまう母さん。失敗したかな……。でも言ったことに嘘はないしな。
「ごめんね……耀だって辛いのに、私ばっかり泣いて……。明日からはきっと大丈夫だから……。耀は私が守るからね」
そう言ってまた泣き出す母さん。どうにか慰めてあげたいのに、体が動かないのが恨めしい。
母さんは結局、その日はそれで帰って行った。オレは、もう一つ気になっていたことを医者に聞いてみる。
「あの。全身の筋肉が切れるぐらいの動きって、普通じゃないですよね。何でそんな力が出たんでしょう……?」
「ふむ? そうだね。例えば、火事場の馬鹿力という言葉がある。あれはそのまま、緊急事態などで脳のリミッターが外れ、限界以上の力を出せるということだ。それと同じことが君に起こったと考えられるね」
「なるほど……でも」
「うん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
確かに納得できるのだが、オレは何か違うと感じている。何が、と聞かれると困るのだが、確かに何かが違うのだ。考えれば考えるほど違和感が増す。あの時は……頭が沸騰して、どろどろ、ピリピリした何かが溢れて来て。どろどろ……ピリピリ? なんだか妙にしっくりくる表現だった。ピリピリ……電気? そういえば、筋肉って電気信号で動いてるとか聞いたことが。聞いてみようか。
「あの、筋肉って電気信号で動いてるんですよね?」
「ああ、その通りだ。随分と物知りだね?」
「それじゃ、その、無理やり電気で動かすこととか……出来るんですか?」
「無理やり? まぁ出来ないことはないが。現在の技術では、特定の動きをさせる電気を発生させるのは不可能だね」
なるほど。可能ではあるのか。じゃあ違和感の正体はやっぱり電気? でも、何でこんなにしっくりくるんだ。現在の技術じゃ不可能と言われたのに、火事場の馬鹿力よりよっぽど納得してる自分がいる。電気か。オレが電気を操って筋肉を限界以上に行使した? ということか。自分で言ってて馬鹿らしいと思うが、やはりそれが正しいと、頭の奥のほうで思う。
と、そこでなぜか、天界のことを思い出した。そういえばおっさんに言われた能力うんたらとかいうやつ。もしかしてこれのことか? そうだとすれば、確かに納得はいく。自分の力であるなら、自分自身が妙に納得できたのも頷ける。ふむ、そのつもりで考えてみよう。
オレの能力は電気を操ること。規模は分からないが、今のところ体内電気の操作は出来る。ということは、訓練次第では静電気ぐらいは放出できるようになるかもしれんな。それでなくとも、自爆覚悟でなら、7歳の体で大人を倒せるのだ。成長して筋肉の限界量が増えれば、更に強大な力になるだろう。もしくは、同じ効果を発揮するにも負担が減るはずだ。よし! 経済的な面ではまだまだだが、物理的に母さんを守ることは、現状でも何とかなりそうだ。退院したら早速訓練だな。
などと考えていると。なにやら医者が驚愕していた。
「な……なっななな! 何で動けるんだね!? 全身の筋肉が断裂して、とてもじゃないがまともに動かせる状態じゃないはずなのに!」
「え? あ、そういえば。さっきまでは、動かそうと思っても動かなかったのに」
知らずのうちにガッツポーズなど決めていた。なんだ? また電気で無意識に動かしてるのだろうか? でもあの時のようなピリピリは感じられないしな……。
「と、兎に角! 一回検査してみよう。何があったのか把握しておかなければ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そしてそれから。あのあとの検査で、筋肉が順調に回復していると判明した。全治半年以上と言われたオレの体は、なんと1週間で完治。しかもより強靭な筋肉になっていた。さすがにこれはおかしい……というか、これも能力なのだろうか? 身体能力とかも含まれるって言ってたし、回復能力があってもおかしくはない気もする。まぁ早く退院出来るならいいか。と、超回復により、入院前より一層強靭になった肉体で退院するオレであった。
1週間ぶりの我が家。退院の迎えに来た母さんと、帰路につく。久しぶりな為か、家が見えてくると、弛緩した様に力が抜けてきた。そして、否応なくあの時の光景も思い出す。脳裏に走る父さんの顔。生気のない、死んだ目でこちらを見つめてくる父さん。それを無理やり振り払い、気を紛らわす為に母さんに話しかける。
「久しぶりの我が家だね。1週間だけとはいえ、随分久しぶりに感じるよ。ゲームが恋しいな」
「そう。退院したって言っても、無理しないでゆっくり休むのよ?」
と、釘を刺される。これは藪蛇だったかな。あんなことのあとに、と思わないでもないが、ゲームが恋しかったのはほんとなのだ。身近な逃避先として意識していたとも、言えなくはないが。
家に入った感想は、変わってないな、だった。あの日以前の我が家。綺麗に整頓されていて、違うのは一つ、父さんがいないだけ。もうお葬式も済んだあとだ。怪我で仕方なかったとは言え、父親の葬式に参加出来なかったのは、親不孝ではなかろうか、と思う。でも、その分、これからは母さんを守っていく。
物理的な障害に関しては、ある程度、目処が立った。回復能力を考えれば、多少の無茶も許容範囲だろう。早速、明日から訓練を始めよう、と決意する。
そして翌日。オレには珍しく早起きし、ジャージに着替えて出かける。昨日言っていた、訓練をする為だ。母さんは退院の翌日ということで、大分渋っていたが。医者からの、後遺症もなく完治した。との声と、オレの、母さんを守るために鍛えたいんだ。という決意表明により、泣き笑いのような顔で送り出してくれた。また当分は心配をかけることになるだろう。だが、やれることをやらずに母さんまで失うのは、絶対に嫌だ。
それから一通り、今思いつく訓練法を試してみた。なんとなく手ごたえがありそうな感じがするので、続けていけば結果は出そうだ。そろそろいい時間か、と訓練を切り上げ、家に戻る。
幸い学校に関しては、オレの超回復が早くに判明していたため、休学などにならず、すぐに登校出来ることになった。母さんもだが、木葉や他の友達にも心配をかけたと思うので、しっかり謝らないといけない。これは退院後、初日から、大変な作業になりそうだ……。
そして今日も、母さんにバス停まで送ってもらう。木葉に会うため、早めにバス停につくように出たので、まだかなり早い時間だ。このまま、遅刻ぎりぎりのいつもの便まで、木葉が来るのを待つ予定である。
それからベンチに腰掛け、バスを見送ること数本。いつもより2本ほど早い便のあたりで、見慣れた姿を見つけた。なんだか気落ちしているのか、顔を俯かせている為、オレに気付いていない様子。こっちから声をかけることにした。
「よぅ、木葉。なんか元気ないじゃないか。どうしたんだ?」
「っ!? 耀! もう退院したの? なんか、すごいけがしたって言ってたよ、先生が」
オレの声に顔を上げ、若干、元気が戻った様子で駆けて来る。うーむ、やっぱり心配かけてたか。オレが声をかけて元気が戻ったってのも、オレが無事でいるのを確認して、少し安心したとかかもしれん。
「あぁ。まぁ言うほど酷い怪我でもなかったんだがな。この通り、普通に生活する分には平気だ。それより、心配かけたみたいで悪かったな」
「あ、うん。でも耀が無事なら良かった。クラスのみんなも、耀のことすっごい心配してたから。元気な姿見れば、みんな元気になるね」
そう言って笑う木葉。うん、やっぱり木葉は笑ってた方がいいな。オレより若干高い木葉の頭に手を載せ、やさしく撫でる。
「ああ。ほんとに悪かったな。今度、何でも一つ言うこと聞いてやるよ。心配かけたお詫びだ」
「ほんと? なんにしようかなぁ。何でもいいんだよね」
「ああ、オレに出来ることなら、だけどな」
久しぶりに木葉と談笑しつつ、学校に向かう。
学校でも木葉と同じく、大なり小なり気落ちしているやつらばっかりだったが、オレの顔を見たら少しは安心したらしい。労いやらなんやら分からん言葉を貰い、心配かけて悪かった、と謝る。それで、普段の空気に戻ったようだった。まぁ先生はさすがに事情を知ってる分、そう単純ではなかったようだが。オレが、母さんを守らないといけないから泣いてられない、と言うと、涙腺を緩ませていた。この先生も良い先生だよなぁ、と再認識する。
まぁなんにしても、大変な一日は終わったらしい。明日からはまた普段通りの生活だ。このまま何事もなく、平穏が続くことを祈ってるよ。
医者の話とかその他もろもろ、なんかおかしいところあっても、基本仕様です。それでもおかしい!ってところは、突っ込みあれば修正します。