第一話:喪失、そして、得るもの
同時投稿の2、です。
オレが天界|(所謂、死後の世界)で暮らし始めて数年。最初はちょっと、なんて言うから、数日だと思ってたら、実際は数年だった訳だ。時が過ぎるのは早いもの……なんてことはなく。最初こそ物珍しさに退屈はしなかったものの、数日で新しく見るところもなくなった。何か娯楽があればと探してはみたのだが、この世界の人間|(天人と言うらしい)は娯楽を必要としないらしく、何にもなかった。それこそ本ですらも。唯一、中庭のようなところがあったので、そこで日がな一日景色を眺める日々だった。
まぁ兎も角、そんな日々を数年。いい加減飽きたというか悟りの境地に至ったころ、オレの新しく生まれる場所が決まったらしい。さて、次の生はどうなるのかね。今生じゃ病気で早死にしたからな、次はとりあえず健康に生きたいもんだ。
☆☆☆☆☆
ところ変わってここは日本。オレの前世の故郷だ。まぁ言ってることで分かるとは思うが、オレは天界での記憶があった。と言っても、生まれてすぐに何もかも覚えてた訳じゃない。まぁ赤ん坊だしな。
兎に角、普通に生まれて普通に育ち、7年ほどが経過したころ。そう、もう7年も経ってるんだな、実は。展開が速いとかは気にしないでくれ。普通の7年なんて何の面白みもないからな。まぁ、7歳になって少ししたころのことだ。オレは小学校で授業を受けてたんだが、なんとなく既視感がしたんだ。その時はそれだけだったんだが、その後もことあるごとに既視感があった。それで気になって、色々と7年間の人生を思い出してるうちに……前世の記憶があることに気付いた。意識してしまえば早いもので、怒涛のように溢れ出す前世の記憶。
と言っても、オレが前世のオレだというわけじゃない。オレは高梨 耀太郎(たかなし ようたろう)であって、沢井 陽太郎(さわい ようたろう)じゃない。なんだか分かりにくいが、要するに前世の記憶はあっても、他人事と言うか、オレ自身には感じられないという訳だ。それから前世に引っ張られて、多少の影響は受けただろうが、完全に別人。知識やらなんやらは普通にあるので、有効活用させて貰ってる。
天界でのことは約束通り、誰にも話してない。話しても可哀相な目で見られるか、良くて微笑ましく見られるだけだろう。それに、約束は守らないといけないしな。だが、やはり能力に関しては気になる。おっさん(ゴルドス)の言う通りなら、そのうち何がしかの能力に目覚めるんだろうが……今すぐに目覚めないものだろうか。
「耀~! 早く朝ごはん食べないと、送っていく時間なくなっちゃうわよ」
「分かってる! あと牛乳飲むのだけ待ってくれよ」
母さんに促されて、急いで朝食を片付ける。家から学校までは、歩いては行けない距離だ。だから毎朝、母さんに車でバス停まで送って貰ってる。バス停までなら歩けないこともないが、今から走ったんじゃ遅刻は確実だ。そのまま制鞄を引っ掴み、靴を引っ掛け、急いで車に乗り込む。
「もう。毎朝のことなんだから、もう少し余裕もって準備しなさいよ」
「ごめんごめん。どうにもTVが気になってさ。朝のニュースを見ないと、一日が始まった気がしないんだよね」
そんな可愛くない会話をしながら、バス停に到着する。ここから出るバスで学校前まで行くのだ。
バス停に着くと、見慣れた姿が見えた。ソイツは、いつもはもう少し早いバスで登校するので、朝こうやって会うのは珍しいことだ。割と仲も良いので声をかける。
「よぅ。この時間にバスに乗ってないなんて珍しいな。なんだ、寝坊でもしたのか?」
「あ、耀。ううん、寝坊じゃなくてちょっと準備に手間取っちゃって。今日はテストだから、朝から予習してたんだけど……気付いたら結構ぎりぎりで焦ったよ」
「へぇ。まぁ予習してて遅れそうになるなんて、らしいけどなぁ。それで、テストは大丈夫そうなのか?」
「んー……どうだろう。とりあえずそれなりには出来るかなーと思うけど。耀は良いよねぇ、頭いいし……」
と、真面目ちゃんなコイツは朝比奈 木葉(あさひな このは)。所謂、幼馴染ってやつだな。
緑がかった黒髪を肩先で揃え、片側に髪留めをつけている。少し垂れ目で丸顔、幼馴染の贔屓目もあるが、結構可愛い。性格はおとなしく真面目、でも冗談が分からない訳じゃない。
ちなみに、どうでも良いだろうが、オレはどこにでもいる普通のガキだ。黒髪黒瞳、髪は短めに適当だ。
そんな話をしてたらバスが来た。会話を一旦切り上げ、二人でバスに乗り込む。バスの中でも取りとめのない話をしつつ、そろそろ学校前だ。
「ん、そろそろだな。乗り過ごさないように気をつけろよ?」
「む、一緒にいるんだから一緒に降りればいいじゃない。それに、毎朝使ってるんだから乗り越したりしないよ、いじわる」
「そりゃそうだ」
なんて言ってるうちに、バスがバス停に到着する。さて、今日も一日がんばりますかね。
「おーす、おはよー」
「おはー」
「おはよー。今日は木葉ちゃん、耀太郎くんと一緒だったんだ。いつもの時間に来ないから、今日は休みかなーって心配してたんだよ」
「おはよー。ごめんね~、今日のテストの予習してたら、いつの間にか時間が経っちゃってて……」
挨拶をしつつ教室に入る。今日もガキ共は元気だな。まぁオレもガキなんだけどさ。
オレはいつもぎりぎりなので、朝の休み時間はあんまりない。教室について鞄の中身を出すころには、担任が教室に入ってきた。余裕を持って早めに来るので、実質もうちょい休みはあるんだが、精々5分かそこらだ。特に何か出来る時間でもない。軽く世間話(と言いつつ頭の悪い話)をしてたらHRが始まった。
うちの学校では、毎朝、読書の時間を設けている。好きな本を持ってきて、20分ほど各自読むのだ。もちろん、国語の教科書でも良い。まぁ、そんなもの読むやつなんてほとんどいないけどな。オレは精神年齢が(別人と感じてるとは言え、影響を受けて多少は)高めなため、ほんとは小説などが読みたいのだが、小学一年生としてはおかしい。その為、教科書を読んでいる少数派だ。
読書が終わると1時間目が始まる。まぁ授業風景に関しては、態々、描写することでもないので割愛する。
そして4時間目が終わり。いよいよ待ちに待った給食の時間だ。うちの学校の給食は、中々に美味い。授業は大半の人間がそうだと思うが、まぁ退屈なものだ。しかし、この給食を食べるために毎日がんばってると言っても過言ではない!
「おーっし! 給食~♪」
「今日はプリンだって。楽しみだね~」
と、周りもはしゃいでいるしな。オレもうきうきしながら机をくっつける(班毎にグループで食べるのだ)。
「ねね、今日はプリンだって。楽しみだね~」
「さっきも同じ事言ってなかった? まぁプリンは楽しみだけど」
「プリンもだけどさー、今日はカレーだぜ! やっぱカレーが一番好きだなー、おれ」
こいつらはオレの班のやつらだ。
一番上のアホっぽいのは中田 琴美(なかた ことみ)。茶髪のロングで、ゆるくウェーブがかかっている。当然だが地毛だ。瞳は焦げ茶色で、木葉と同じく垂れ目。割と可愛いと思うが、木葉ほどじゃないな。
二番目のは木葉。朝紹介したよな。
三番目は目黒 勝田(めぐろ しょうた)。某キ○ガワに酷似した金髪、アホ毛のガキだ。あだ名もキタ○ワにしようかと思ったが、脈絡がなさ過ぎるので却下した。以上、紹介が少ないのは察してくれ。
この四人班で、何がしかの時にグループ活動している。授業とかな。
給食を食べ終えると、今日は一年生は下校の時間だ。退屈な授業が終わり、今からは遊びの時間だ! となるわけだが。オレは外で走り回るのはあまり好きじゃない。運動自体は嫌いじゃないが、どちらかと言うと、家出ゲームとかやってるほうがいいのだ。しかし、小学1年生といえば外で駆けずり回って遊んでる年代である。自然、一緒に遊ぶ友達もそういない。今日もまた、サッカーのお誘いを断って家路につく。
「耀もさ、もっとみんなと遊べばいいのに。お家でゲームばっかりしてちゃ体に悪いよ?」
そして、なぜだか一緒に帰ることになった木葉。なぜだかってまぁ、ほぼ毎日一緒に帰ってるんだけどな。いつもって訳じゃないが、たまにこうして小言を言ってくるのが鬱陶しい。ゲームぐらい好きにさせてくれても良いじゃんかよー。
「わーってるって。でも別に動いてない訳じゃないんだから、平気だろ」
「もう。言っても聞かないんだから。いいけどさー……」
なら言うなよ。言わないけどな。
さて、家についたら楽しい楽しいゲームの時間だ! 今日こそあのボスを倒して……。
とか色々、画策してたんだが、どうにも家の様子がおかしい。父さんは家が職場なので(小説家とかやってるのだ)、普段は明かりが点いている。今日も出かけるとかは言ってなかったので、家にいるはずだ。なのに明かりが点いてない。ただ出かけてるだけかもしれないが、この時間にオレが帰ってくるのはいつものことだ。朝伝えてなかったのなら、携帯に連絡がなければおかしい。忘れてるだけかもしれないが、少し警戒しつつ家の様子を探る。と言っても所詮は子供、精々、裏口からこっそり覗くぐらいだが。
その結果も、やはり様子がおかしい。裏口は台所に通じているのだが、なんだかものが散乱していた。父さんはこんな風に散らかす人じゃない。だとすると、何かあったのか……? まさか強盗とか。
と、考え込んでいたのがいけなかったらしい。台所を見に来た怪しい男(?)に見つかり、そのままつかまる。
「くそ! はなせよ!! なんだお前、ここはひとん家だろ!?」
必死に抵抗するが、相手は大人。オレの腕力じゃ痛がりもしない。手馴れているのか、そのまま喋らずオレの口を塞ぎ、体をロープで縛る。こうなると、抵抗してもどうにもならない。おとなしくされるがままになっていると、父さんの書斎に連れて行かれた。そして、オレを放り込もうと扉を開き……中を見て、オレは茫然自失となった。
散らかされた部屋。本は棚から落ち、無残にも床一面に広がっている。父さんが仕事用に使っていたパソコンも、床に落ちて壊れてしまったようだ。そして……その床には、父さんが倒れていた。体からはどす黒い液体が流れている。床に伏せるように倒れたまま、ピクリともしない。
なんだよこれ……オレは普通に学校に行って、帰ってきて、ゲームするだけだったはずだろ……。なんで父さんが倒れてる? どうしてこの知らない男がいる? なんで、どうして。混乱するオレを、男(?)は床に投げ捨てる。父さんの真横、丁度顔が向いてる側だ。落とされて咳き込んだオレは、目を開けてまた固まった。目の前に父さんがいる。目を見開いて。光がない。死んでる? 嘘だろ? 優しかった父さんが、面白かった父さんが、ちょっとかっこ悪い父さんが……死んでる。そう実感した瞬間、頭が沸騰したように、何かが溢れて来た。
それは形容しがたい何かだった。どろどろしてるような、ピリピリしてるような。それが沸き立つ頭から溢れ、全身を巡る。次の瞬間、オレはロープを引き千切っていた。男(?)が驚いたように目を見開く。それを意識の片隅に見つつ、体は無意識に、男(?)に駆け出した。精々二、三歩の距離、それでも、男(?)には反応できたはずだ。所詮オレは子供、軽くいなせて当然のはずである。しかし結果は、男(?)が地に伏す姿だった。なんだ? 何が起こった? 軽い混乱。しかし、父さんの死体を見た瞬間、またも頭が沸き立つ。衝動の命じるままに、倒れる男(?)の体を蹴る! 蹴る! 男(?)と自分の体から、鈍い音がしたが、気にせず蹴り続ける。そして、唐突に意識が途切れる。プツン……と、TVの電源を切ったときのように。