割れた石臼
昼下がりのセレン村。
粉ひき小屋とは別に、広場の片隅には古い石臼が据えられていた。
豆を挽くために村人たちが代わる代わる使ってきたが、その石臼の表面にひびが走り、粉がこぼれ落ちるようになっていた。
「これじゃあ、挽いても挽いても粉が逃げちまう」
困り顔で言ったのは、豆を扱う行商の老女マリナだった。
石臼のまわりには大人たちが集まり、口々に言い合った。
「新しい石を切り出すには時間も人手もいるぞ」
「だがこの臼は、祭りの菓子にも使うだろう。間に合わねば困る」
イルロは腰を下ろし、ひびを指先でなぞった。
石はまだ硬い。けれど隙間から粉がさらさらと流れている。
「金具で締めて補強すれば、まだ使える。外から抱え込むように留めれば、ひびは広がらない」
その言葉に、鍛冶屋のフロイがうなずいた。
「鉄の輪なら余っている。すぐに持ってこよう」
やがて鉄の輪が運ばれ、男たちが力を合わせて臼を持ち上げた。
「重いぞ!」「もっと支えてくれ!」と声を掛け合いながら、石臼を持ち上げ、輪をはめ込む。
鉄を打ち込む音が広場に響き渡った。
「これでいいだろう」
イルロが臼を回して試すと、ひびは締まり、粉はこぼれなくなった。
マリナが豆を入れて挽いてみると、石の音が心地よく鳴り、白い粉が均等に落ちていった。
「おお、戻った! これで菓子が作れる!」
周りの大人たちから拍手が起こり、笑い声が広場を満たした。
フロイがにやりと笑って言った。
「石臼も人と同じだな。外から支えてやれば、まだまだ働ける」
その言葉に皆が笑い、イルロも口元をわずかに緩めた。
夕暮れには、臼の音がトントンと響き、祭りを前にした甘い菓子の匂いが広場に広がっていた。




