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村人の日々  作者: 昼の月
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井戸の桶綱

昼前のセレン村、広場の井戸のまわりには人が集まっていた。

 水を汲むための桶の綱がすり減り、今にも切れそうになっていたのだ。


「これじゃあ怖くて子どもに汲ませられないよ」

 パン屋の妻サラが心配そうに声をあげる。


「さっきも途中でひやっとしたんだ。桶が落ちたら骨が折れる」

 農夫のガルドも顔をしかめた。


 ちょうど通りがかったイルロは、桶の綱を手にとって確かめた。

 繊維がほどけ、手の中で粉のように崩れていく。


「新しい麻縄を結び直せば大丈夫だ。すぐ持ってくる」


 工房に戻ると、子どもたちが後をついてきた。

 ミラやリオ、それに小さな子まで、わらわらと集まる。


「イルロさん、ぼくらも手伝う!」

「縄を持つのならできるよ!」


 工房で麻縄を用意すると、子どもたちは小さな手で懸命に束を運んだ。

 重さにふらつきながらも、笑いながら声を掛け合っている。


 井戸に戻ると、大人たちが待っていた。

 イルロが縄を桶に結びつけると、ミラが目を輝かせて尋ねる。


「ねえ、結び方教えて! すぐほどけないの?」


「ほどけないようにするには、重さで締まる結び方をするんだ」


 イルロが手本を見せると、子どもたちも真似をして、縄で小さな輪を作り合った。

 横で見ていたロラン老人が、にやにやしながら口を挟む。


「ほう、わしより上手い結びができるんじゃないか」


「えっ、本当に? じゃあ今日から“結び名人”だ!」

 リオが胸を張り、皆が笑い声をあげた。


 やがて新しい綱が井戸に取り付けられ、桶を下ろすと、澄んだ水面が光を返した。

 子どもが縄を引き上げると、大人たちが両脇から支え、重たい桶が無事に地上に現れた。


「おお、切れない!」

「これで安心だ」


 村人の安堵の声が広場に広がった。

 子どもたちは自分の結び目を自慢し、大人たちはそれを見て頷いた。


 ――井戸の水は村を潤し、新しい綱は人をつなぐ。

 笑いと声が重なり、セレン村の一日はまた確かなものになっていった。


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