曲がった鍬
夕方のセレン村。畑の端に集まった数人の男たちが、古びた鍬を囲んでいた。
刃が土に負けて曲がり、柄も少しぐらついている。
「どうも力が入らんのだ。土を起こすたびに横に逃げてしまう」
そう言ったのは農夫のガルドだ。額に汗をにじませながら鍬を差し出す。
「まったく、この鍬も年寄りになったもんだな」
隣で笑ったのはロラン老人。粉ひき小屋を手伝う彼も、この鍬を使ったことがあるらしい。
「年寄りといえば、俺の腰も鍬に似てきたぞ。曲がったまま伸びん」
「ははは! それは鍬より手間がかかる修繕だな」
大人たちの冗談に、畑の空気が少し和らいだ。
イルロは鍬を手に取り、曲がった刃の部分を眺めた。
土と石に擦られた痕が深く、刃は鈍く光を失っている。
「これは叩き直せばまだ使える。ただし、柄を挟む楔は打ち直さないといけない」
「そんなに簡単にできるものか?」
ガルドが眉を上げる。
「簡単ではないが、物はまだ生きてる。人と同じで、支え直せば働ける」
ロラン老人がうなずき、腰をさすりながら笑った。
「支え直せば働ける、か。耳が痛いな」
皆がどっと笑い、イルロも口元をゆるめた。
工房に鍬を持ち帰り、火にかけて刃を叩くと、金属の澄んだ音が夕暮れに響いた。
大人たちはその音を聞きながら、畑の縁に腰を下ろして話を続ける。
「今年は雨が少なかったな」
「だが風はよく吹いた。小麦は倒れずに済んださ」
「人も同じだな。少し曲がっても、風に負けなきゃまだ立っていられる」
やがて修繕を終えた鍬が戻ると、ガルドは試すように土を掘り返した。
刃はまっすぐに土を切り裂き、軽やかに地面を起こす。
「おお……まだ働けるな」
彼の声に、周りの男たちが満足そうに頷いた。
夕陽の下、畑には笑い声と土を返す音が重なり、やがて静けさが戻った。
鍬もまた、村人の手と声に支えられて生き直していた。




