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村人の日々  作者: 昼の月
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欠けた秤

村の市場の片隅に、使われなくなった木の秤が置かれていた。

 天秤の片方の皿がひび割れていて、針は正しく真ん中を指さない。

 それでも捨てられることなく、大事に棚に飾られている。


「この秤は、まだ役に立つのですか?」


 イルロが尋ねると、店先で豆を袋に詰めていた中年の商人が振り向いた。


「いや、もう量り物には使えないよ。だけどね……村の人たちは、この秤を見ただけで安心するんだ」


「安心……ですか?」


 商人は秤を軽く撫で、思い出すように語った。


「昔はね、この秤で麦も豆も量った。秤の針が少し傾くと、みんな口を揃えてこう言ったんだ。

 “こっちが軽いなら、もう一握り足しておこう”ってな。

 誰も損をしないように、みんなが少しずつ多めに分け合ったんだよ」


 そこへ買い物をしていた老婆が割って入った。


「そうそう、あんたの店はいつも秤の傾きなんて気にせず、ひと握り多く入れてくれたもんだよ」


 すると近くにいた子どもたちも顔を輝かせた。


「ぼくも知ってる! お母さんが言ってた。『村の秤は心で量るんだ』って!」

「わたしも! 前に干し果物を買ったら、おまけしてくれた!」


 商人は照れくさそうに笑いながら肩をすくめた。


「まあな、そうやって少しずつ多めにしていたら、みんな笑顔で帰っていった。

 だからこの秤は壊れても、まだここに置いてあるんだ」


 イルロは子どもたちに促され、秤の前に立った。

 子どもたちは豆の袋を皿に置いたり、石ころをのせて針が揺れるのを見ては歓声を上げた。


「こっちが軽い!」

「じゃあ、一つ足そう!」


 遊び半分のやり取りだったが、その光景は確かに村の昔を映していた。

 イルロは記録帳を開き、秤の形を描きながら、こう書き残した。


「壊れた秤は、正しさを失っても、心の重さを量り続ける。

 少しずつ足し合う心が、村を豊かにしていた。」


 書き終えると、子どもたちはまだ針の揺れに夢中で、石を載せたり下ろしたりしていた。

 商人もそれを眺めながら、ふっと目を細めていた。

 秤はもう正確には働けないが、村の人々の間で「分け合う心」を支え続けているのだった。


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