曲がった杖
村の薬草屋の前に、一本の古い杖が立てかけられていた。
木の幹をそのまま削ったような形で、途中から大きく曲がっている。
装飾はなく、ただ使い込まれた跡だけが残っていた。
「それは……杖ですか?」
薬草を仕分けていた老婆が、目を細めてうなずいた。
「ええ。うちの先代の医師が使っていたものですよ。
長く歩くときも、患者の家に行くときも、いつもこれに頼っていました」
「こんなに曲がっているのに、使いにくくはなかったんですか?」
「それがね、曲がっていたからこそ、坂道で支えやすかったのよ。
山道を歩く村には、真っすぐな杖よりも、こっちのほうが具合が良かったんです」
老婆は笑いながら、杖の曲がった部分に手を置いた。
その曲線は手のひらにすっぽり収まり、まるで最初から人に寄り添う形で削られたかのようだった。
「真っすぐじゃないのに、役に立つ……」
「真っすぐじゃないから、役に立つんですよ」
イルロはしばらく杖を眺め、
やがて記録帳を開いて、その形を丁寧に写し取った。
「杖は人を支えるが、支え方はひとつではない。
曲がった形もまた、道を共に歩く力となる。」
そう記して、曲線をなぞるようにスケッチを描き添えた。




