回らない風見鶏
村の中央広場には、小さな鐘楼があり、その屋根のてっぺんに青銅の風見鶏が立っている。
尾羽は細かく作り込まれ、くちばしは空を向き、翼は今にも羽ばたきそうな形だ。
だが、その風見鶏は――もう長い間、回っていない。
「いつから動かないんです?」
井戸端で水を汲んでいた婦人が、桶を置いて答えた。
「十五年くらいかしらね。軸が錆びて固まっちゃったのよ」
「直さないんですか?」
「みんなで相談して、そのままにしてるの。
回らなくなってから、かえって風の変化を感じ取るようになったのよ」
婦人は笑って、広場を吹き抜ける風に髪を揺らした。
「風の匂い、木の葉の揺れ、洗濯物の乾き方……
そういうのを見るのが、この村の“天気予報”になったの」
イルロは鐘楼を見上げた。
風は確かに吹いている。
旗が揺れ、家の煙突からの煙も斜めに流れている。
それでも、風見鶏だけはじっと同じ方角を指したままだった。
「……動かないことで、村の人が動くようになったんですね」
「そうね。あれはもう、ただの飾りじゃないわ。
村に風を感じさせる、目印なのよ」
その日、村を出るときも、丘の道からあの風見鶏が見えた。
夕陽に照らされ、銅色の羽根が鈍く光っていた。
イルロは記録帳を開かず、その姿を心に留めて歩き出した。




